愛される学校づくり研究会

【第10回】鉄は熱いうちに打て! 1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ!―駅伝編>その3

試走報告を駅伝部員に配布すると、1年生の間に、
 

  「3区が変化があって走っていて楽しいコースらしいよ」
  「2区も少しきついけど、道が広くて走りやすいらしいよ」
  「後半の区間は、変化がなくてだらだらしているので、意外に疲れるらしいよ」
  「やっぱり前半の1区から4区が走りがいがあるみたいだよ」


 という噂が流れ始める。はっきり言って、1区から4区は距離も長く、坂道も多いため非常に辛い区間であることを知っている2・3年生が絶対走りたがらない区間である。

 なぜこのような噂が1年生の間で流れるのか…。ご想像の通りである。第1回の試走に参加し、全区間を見てきた1年生と、2・3年生がデマ情報を流しているのである。しかも教師という立場であるわたしも、
 「全コースを確認したお前たちの特権だ! 自分が走りたい区間を思い浮かべながら、自分の都合のよいように、コースのことをみんなに教えてやれ!」
 とデマ情報を助長する発言をしていたのである。なんと教師にあるまじきいい加減さ…。

 1年生は言われた通り、前半の辛いコースをいかにも楽で走りがいがあるかのように友達に話し、2・3年経験者たちも自分たちが経験した辛い思いを1年生にさせてやろうと、
   

  「特に1区・2区・3区は走っていて楽しいよ。それに、すごく体力がついてバスケットに役立ったから」
  「5区みたいな下りが多いコースは意外に疲れるんだぞ、膝にも負担が大きいしな…。成長期の1年は膝を痛めるからやめた方がいいぞ」
  「6区は細いせこい道ばかりだから、応援してくれる人もいないし、走っていて寂しくなるぞ」


 などと、なんとかして1年生に辛い前半の区間を経験させようと必死である。駅伝部員の中でこんな話題で盛り上がってくると、いよいよ本格的な試走や、チーム決めのための苦しい練習が本格的に始まるのである。

 

「練習中期第1段階」 苦しい練習の連続
<インターバル・ペースランニング・ビルドアップ・計測>
〜「3年がやれば、1年も苦しいけれどだまってやっちゃう伝統作戦」

練習初期段階は、比較的ゆっくりとしたペースで、最低30分走る練習を繰り返し、走ることへの抵抗感をなくしていく、練習中期にはいると負荷の強い苦しい練習の連続になる。
 「よーし、今日は計画表通りインターバルトレーニングを行う! 2・3年生はやり方はわかっとるな! インターバルはジョグでつなぐんだぞ! 絶対に止まるなよ! ジョグの間にしっかり呼吸を整えるんだぞ! いいな!」

 1年生は「何をやらされるんだろう…?」という不安そうな顔をしているが、満足な説明もすることなく、
 「1年生はとにかく2・3年生に離されないようについて行け! 死んでも先輩から離れるなよ!」「やればわかる!」…<練習の意義・目的などの説明責任を果たしていない…なんたること。これまた保護者の方に叱られそうである。>
 「それじゃあ始めるぞ、ラップをしっかりととれよ!」
 「位置について…ピィーッ!」
 当然のことながら、1年生はどんどん2・3年生において行かれる。

 「ついて行けるところまでついて行けー! 最初から諦めていてどうするんだ! そんなに速いペースじゃないぞ! 気持ちで負けるな!」
 「インターバルはジョグで刻めと言っているだろう! 歩くな! 止まるな!」
 「お前たちは根性なし男(こんじょうなしお)君か! そんなことじゃ一生レギュラーとれんぞ!」
 「おーいバスケ部1年! 試合の第4クオーター、同点で足が止まったら負け確定だろう!」
 「3年生を見てみろ! だれも歩いていないだろう!」「見習わんか〜!」
 ここでもまた、1年生にきつい言葉を浴びせる…。(保護者の皆様ごめんなちゃい!)

 しかし、3年生の誰一人練習に弱音を吐いたり、いい加減に取り組んでいる者がいないため、1年生は何も言い返すことができない。これが駅伝部の「3年がやれば、1年も苦しいけれどだまってやっちゃう伝統作戦」の神髄である。
 上級生がごちゃごちゃ文句ばかり言ったり、いい加減にやっていると、1年生もいい加減になってしまう。3年生が真剣に取り組む姿を1年生は身近で見て育つのである。こうして3年生に引っ張られ、苦しいペースランニングやビルドアップなどの練習を1年生は「根性なし男」呼ばわりされながらこなしていくことになる。

 練習終了後に3年生の生徒がしみじみとつぶやく。
 

  「先生俺今年は根性なし男じゃないでしょう」
  「考えてみると駅伝のお陰でほんと自分でも力がついたと思う。今年で3年目だもんね…」
  「今年はマジ真剣にやるよ! 最後だもんね」
  「部活でもほんと生きたと思う…。続けてやってよかった…」
  「今年は1500m5分切れるかな…。3000mは9分台出したいな」


 3年生は、きつい練習をさりげなくこなす自分に満足感を得ているようである。
 3年生はしっかりとした目的意識を持って、1年生は何が何だかわからない中、いよいよ試走会の走る区間を決めるための3000mの計測を行うことになる。当然のことながら雰囲気を盛り上げるためにつぎのような駅伝部報を出し、少しでも楽しく意欲を持って参加できるよう工夫している。

(平成15年度駅伝部報より)


平成15年度 駅伝部報<No.3>

緊急連絡!
        本日(11月13日)の練習メニュー みんなの好きな
        3000m計測に変更!
          仮病禁止! トンズラー禁止!
          今回の計測がチーム決めに大きな影響を及ぼします!

 本年度の駅伝部の活動は過去最高の約200名という大人数でスタートすることができました。これはベリースペシャルすごいことだと思います。特に3年生の参加が小牧中学校創立以来最高の人数になりこれは歴史に残る快挙となります。中には、だまされたとか、脅されてとか、自転車通学の誘惑に負けてとか思っている人もいるかもしれませんが、あきらめて下さい。もうやめることはできません。
 駅伝部の基本は「苦しいことを楽しくやる!」です。がんばったことは必ず自分の人生の大きな宝になることを信じて練習に参加してくれることを期待しています。そこで、本年度も駅伝全コースを走破するサイクリングを主としたコースの下見を第1回試走会として企画することにしました。テスト週間ではありますが、多くの参加者を期待しています。

思ったよりも力のついてきている自分を信じろ!
 1か月半前練習を開始したばかりのときを思い出して下さい。30分のLSD※も満足に走れなかったのですよ。今ではほとんど人が30分LSDが練習メニューだと喜んでいるではありませんか。きのうの30分ジョギングでも、遅いペースに絶えきれず飛び出してしまう人が何人かいたではありませんか。自分たちが思っているよりも力はついてきています。あとは、君たちの「気持ち」次第です。苦しいことに自らチャレンジしようとする気持ちを大切に3000m計測に臨んで欲しいと思います。
※編集部注)LSD=Long Slow Distanceの略で、長距離をゆっくり走ることにより体質の改善を目指す陸上競技長距離走のトレーニング法の一つ

密かに練習してきた成果を試す機会だと考えよ!
 朝は早く学校に来て、走っている人をちゃんと先生は見ています。特に3年生の人は、なんだかんだと言いつつも3年生のプライドをかけて走り込んでいると思います。今のところそのやる気をこれまでの3000m計測で見せてくれていないのが残念ですが、見えないところでの地味な努力が自分を向上させていくはずです。今日の3000m計測での君たちの「本気」を期待しています。

やるなら常に全力を出し切れ!
 「時間だけはどんな人にも平等に与えられる!」…。同じ時間でも、一生懸命生きるのと、いい加減に生きるのでは全く異なった時間となる。場合によっては必死に生きている人の1日がいい加減にだらだら生きている人の1年に匹敵することもあるかもしれません。限りある命だからこそ、常に全力を出し切り、満足感のある1分1秒にしていきたいものです。物事に常に全力で取り組むことこそが自分の人生を豊かにするに違いありません。苦しいことに自ら取り組んでいる君たちに先生は大いに期待しています。
 3000mの計測では、ぜひ自分のベスト記録がでるようにがんばって欲しいと思っています。部活動全員参加ということで、強制的に参加させられている人の中でも、文句の一言も言わず黙々と練習に取り組んでいる人もいます。「粘り・根性・努力・くそ意地」こそが自分自身を向上させるのです。

3年生は1・2年生を引っ張れ! どんなときにも牧中の「顔」だ!
 3年生の姿を見て1・2年生は育つのです。3年生が朝走っている姿、練習を引っ張っていく姿を見て、後輩たちは自分たちもああなろうと思うのです。伝統の力は3年生が作り上げていくのです。小牧市内では伝統が作れず、駅伝を疲れるだけのつらいことだという雰囲気にしてしまい、本年度参加しない学校も出てきています。それと比べると、小牧中学校の駅伝部への取り組みは驚異的なことと言えます。苦しいことに正面から立ち向かっていける人になって欲しいと思います。自分の子どもに「語る」ことがたくさんできる大人になって欲しいと思います。大会まであと1か月しかありません。君たちが先輩たちから引き継いできたものをぜひ後輩たちにも伝えていって下さい。3年生のみなさんの力はまだ十分発揮されているとは言えません。3年生の「くそ意地」に期待しています。
 


こうして、3000mの計測を行い、誰がどの区間を走るか絞り込んでいき、本格的な試走会に突入していくのである。練習終盤から大会にかけてさらに多くのドラマが生まれるのである。

(鉄は熱いうちに打て!1年生の生徒指導が3年間を決める!<苦しいことをどんどんやらせよ! 駅伝編>その4につづく…)

(2004年10月25日)

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●杉浦 嘉一
(すぎうら・よしかず)

小牧中学校教諭。学年主任、保健体育担当、剣道部顧問、伝統の駅伝部総監督。年度末に校内で密かに出す「人事ファン」(杉浦の人事異動予想紙)はあっという間に売り切れ。お茶目な中に本質を突く学校教育論を書かせたら右?に出る者はいない。子どもの傍らにいつもいる存在であるように学校中を動き回っている。