愛される学校づくり研究会

【第1回】「怖くて眠れない夏休みの夜」1日目

眠れない…眠れない…怖くて眠れない夏休みの夜がある…。明日は夏休みの出校日。

 部活のとき、髪の毛の色が微妙に変わっていた生徒。ぱったりと部活動に参加しなくなった生徒…。明日の出校日の彼らの様子をいろいろと想像していると、どんどん眠れなくなるのである。

 臆病者の私は、最悪のパターンばかりをシミュレーションしてしまう。「目つきの悪くなってしまった生徒」、「横柄な態度をとる生徒」、「雰囲気ががらりと変わってしまった生徒」、そんな生徒がたくさんいたらどうしよう…! 怖くて学校に行けな〜い! そんなことをいろいろ考えていると、枕元の目覚まし時計は午前2時30分になっていた。明日のために早く眠らなければと思えば思うほど眠れない…。

 そうして眠れないと思いながら記憶が遠ざかった瞬間、目覚ましがなった。午前5時30分。学校がある日に毎日起きている時間だ。眠ったような眠らなかったような宙に浮いた気持ちを奮い立たせ、床を出て学校に行く準備を始める。夏休みぼけもあり、体が妙に重い。心の中のもう一人の自分が「今日、学校必殺年休攻撃でさぼっちゃったら〜!」と囁いている。

 肝が据わっていればそうしたであろうが、何しろ自分は臆病者である…。そんなことできるわけがない。昔はやったパワーリストとパワーアンクルをつけた状態の重い体の感覚のまま歯を磨き、軽い朝食をとり、もうすぐ乗れなくなるディーゼルエンジン搭載の愛車パジェロに乗り込み学校へ向かう。6時50分学校着。なんでこんなに早くこなくちゃいけないの…という疑問をもったまま…。
 

生徒指導はまず地味な裏付け捜査から!

1学期後半の生徒の様子から心配な生徒が数人いる…。そんな生徒の様子を臆病であるがゆえに少しでも早く知りたい私は、いつものように登校指導に学校の門に立った。

 7時20分。臆病者の生徒指導の基本は、「地味な裏付け捜査から」が基本中の基本である。臆病者の自分にとって、誰よりも先に生徒の小さな変化を見つけ、すばやく対応していくことが、生徒との関係作りをしていくための保身の術である。

 職員昇降口を出た瞬間、少し心配していた生徒がすでに昇降口で待っていた。「髪の毛の色も変わっていない」、「おはようのあいさつも1学期と同じ」であった。まずは一安心。「早起き偉いぞー! 宿題は大丈夫か? 県大会出場おめでとう!」と陸上部である彼の夏の大会の活躍を誉め、毎日登校指導を行っている定位置に向かう。

 定位置について10分ほど経ってから生徒が登校し始めた。臆病者としての保身から、全学年の生徒の小さな変化を逃してなるものかと、「自分としては最高の笑顔&さわやかなあいさつ作戦」を開始した。髪の毛の色が変わっている生徒はいないか? スカート丈が極端に短くなっている生徒はいないか? と思いながら校門に立っていたが、あいさつをしていると、夏休みに大きく成長している生徒の姿の方が目につき、前日の恐怖とは反対に、とてもいい気持ちになってきた。

 部活動でがんばり日焼けして真っ黒になっている生徒には「すごく夏休みの部活がんばったんだってな! 顧問の先生が誉めていたぞ!」。夏休みの間に背が伸びた生徒には「あれ? なんかすごく背が伸びたんじゃないか?大人っぽくなったなぁ〜!」。怪我をしている生徒には「どうしたんだ?」と声をかけていった。生徒とふれあっているうちに、昨日の眠れなかった夜は何だったのだろうと思えてきた。
 

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『正門からどうぞ』より

登校指導をしていると、いろいろなことが見えてくる。夏休みぼけで眠そうな生徒や、朝なかなか起きることができず、親子げんかをしてきた生徒なども非常によくわかる。生徒の様子を知るためには実にすばらしい時間であると感じる。「生徒を知りたければまず校門に立て!」が臆病者の私の生徒指導の基本である。一日で最初の「出会いの時間」を大切にすることが、自分を助けることになっていることに間違いないと信じている。

 生徒が登校した後は全教室を回り、欠席者を確認して歩く。学級の雰囲気もよくわかるし、こういったところでも生徒とのコミュニケーションがとれる。ちなみに、ある意味予想通り、本当に心配な生徒たちは出校日に学校を欠席した…。これ教育現場の常である。

 (「怖くて眠れない夏休みの夜」2日目につづく…)

(2003年9月8日)

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●杉浦 嘉一
(すぎうら・よしかず)

小牧中学校教諭。学年主任、保健体育担当、剣道部顧問、伝統の駅伝部総監督。年度末に校内で密かに出す「人事ファン」(杉浦の人事異動予想紙)はあっという間に売り切れ。お茶目な中に本質を突く学校教育論を書かせたら右?に出る者はいない。子どもの傍らにいつもいる存在であるように学校中を動き回っている。