愛される学校づくり研究会

今、愛される学校づくりは

★研究会の名称にも関連するこのコラムは、校長の立場で実際にどのように取り組んでいるのかを事例等をもとに、ビジョンや考え方、想いを示して頂くものです。もちろん成功例もあれば、失敗例もあるはず。それぞれの実情に応じた生の情報が、学校づくりの参考になると思います。

【 第1回 】私が心がけていること
〜豊田市立井郷中学校長 鈴木正則〜

朝、校長室に飾った校章に、「今日一日、子ども達と教職員が笑顔で、無事に過ごせますように」と、頭を下げます。校章を見ながら、4月1日に心に刻んだ決意と目指す学校の姿を唱えます。そして、登校してくる生徒達と、笑顔であいさつを交わし、教室に向かう後ろ姿を見ながら、「今日もがんばれ、帰る時も笑顔で帰れよ」と心の中で声をかけます。これが、毎朝の校長としてのルーティーンです。

地域も教育行政も異なる2つの学校の校長を勤め、8年目となりました。これまで、試行錯誤の連続、山あり谷ありの学校経営であり、それは今でも変わりませんが、学校経営で心がけていることを2つ、船の航海に例えて紹介します。

1つ目は、「5年先まで見通して航海する」ということです。
 教育活動の中で、特色ある活動をつくり、それを推進していくことは学校経営の根幹となるものです。こうした特色ある教育活動を進めるには、私は、5年先まで見通して、段階的に発展させていくプランが必要だと思っています。
 校長の1つの学校における在籍は、3年〜4年といった場合が多いですから、5年先は、次の校長へバトンパスされている可能性があります。そう考えると、学校の将来につながるために、5年先を見通したプランが必要になるのです。

本校は、学区に福祉施設が多く存在するといった地域性があり、これまで特色ある教育活動として、ボランティア活動を進めてきました。しかし、赴任した当時、生徒指導上の問題もあり、ボランティア活動に参加する生徒は極わずかであり、火は消えかかっていました。このような状況を憂い、「井郷中学校と言えば、ボランティア活動が盛んな学校である」と言われるよう、ボランティア活動の火を再燃させ、発展させていこうと決意しました。そのために、5年先を見据えた段階的なプランをたてました。
 プランの基本的な考え方は、まず、ボランティア活動を体験させ、楽しさを味わわせる。次に、生徒の主体的な活動へと高めていく。生徒の主体的な活動となり、それが2年続けば、生徒の動きとして定着していく。そのゴールを5年先にととらえました。

1〜2年目は、ボランティア活動の楽しさを多くの生徒に味わわせるために、ボランティア優先日を月1回設けることにしました。ボランティア優先日には、教師の後押しもあり、ボランティア活動に参加する生徒がだんだんと増えてきました。2年目には、毎回60%の生徒が自主的に参加するようになりました。校長として、全校集会の場で、こうした動きを紹介し、参加することの楽しさや価値を語りました。
 1〜2年目の活動は、生徒が気づき、考え、活動するといったボランティア活動本来の姿には到達していません。しかし、活動することの楽しさを味わい、先輩たちが活動する姿を見てきた生徒達は、“ボランティア活動には積極的に参加する”といった意識が育っていきました。こうした意識が続けば、次のステップである主体的な動きにつながっていくものと考えました。また、教師からも、やらされている感のあるボランティア活動から、生徒が主体的に行うボランティア活動にしていく必要があるという声がでてきました。船が進むべき航路が教師に見えてきたことを感じました。

3年〜4年目は、ボランティア活動が、生徒の主体的な活動となるための手立てを講じることにしました。手立てとしては、ボランティア活動を企画、運営する生徒リーダーを育てること、ボランティア活動を計画、準備する時間を確保することにしました。こうした取組は、若手教師を中心として実践させることにしました。これらの若手教師が5年先には、学校経営の中核を担い、次の若手教師を導いてくれることを期待したからです。
 生徒の主体的な動きを育てるには、指導する教師に力量が必要です。若手教師達に、すぐにできるわけがありません。そこで、ベテラン教師を補佐役につけ、指導の方向性をアドバイスさせながら取り組ませました。期待したような姿にまでは到達できませんでしたが、生徒会役員を中心に、生徒の中から、ボランティア活動の現状について問題意識をもち、教師の指示を受け、やらされている感のあるボランティア活動から脱皮して、自分たちのアイデアで、ボランティア活動を進めていきたいという声がでてくるようになりました。生徒の意識が高まり、船が進むべき航路が生徒にも見えてきたことを感じました。

4年目の終わり、これまで伝統的に取り組んできたボランティア活動を根底から見直し、生徒に新たな活動内容を考えさせる、という方向性を職員と生徒会に示しました。3月、生徒会役員は、新しいボランティア活動の方向性を相談し、意見書にまとめました。意見書は、4月の生徒議会によって話し合われ、ボランティア活動を企画・推進していく委員会へ示していくといった段取りが決まりました。

幸いにも、本年度、5年目となりました。
 4月、全校集会で、生徒会役員が、「今年は、これからの井郷中学校の10年をつくる第1歩にしよう。これまでの伝統を引き継ぎながら、新しい活動を進めていこう。委員会活動やボランティア活動で取り組んでいこう」と、高らかに宣言してくれました。
 5月、生徒総会の場で、委員会委員長が、「今年は、交流館とタイアップして○○という活動をしたり、小学生にも参加を呼びかけたりして、地域ぐるみのボランティア活動を進めていきます」と活動計画案を発表しました。また、質疑応答の場では、たくさんの挙手があがり、生徒から「○○委員会の活動内容は、△△したら、もっと地域から愛される学校になると思います」という発言がありました。生徒が5年先ではなく、10年先の井郷中学校のあるべき姿を求めて活動を始めてくれたことに喜びを感じています。こういう生徒に育ててくれた教師集団に感謝をしています。

特色のある教育活動が、生徒の成長につながる本当に良いものであるなら、校長が変わっても、教職員に引き継がれ、生徒も学校の伝統として後輩へと引き継いでいくことでしょう。

2つ目は、「航海の風向きや潮の流れをつくる」ということです。 船(学校)の航海が進むよう、風向きや潮の流れをつくる必要があります。風向きや潮の流れをつくる手立ての一つに、学校評価があります。特に、保護者や地域からの評価は、追い風にも逆風にもなります。

学校からの情報発信は、追い風を起こし、潮の流れをつくるきっかけになると考えます。そのためには、教育活動の状況を伝えるだけではなくて、学校経営の考え方や、教育活動の価値を伝えていく必要があります。そこで、学校通信やHPでは、校長自らが記事を書くようにしています。読んだ方は、記事から、校長の考え方の他、校長の人柄も読み取ることでしょう。読んだ方が校長の顔を思い浮かべてくれるようになれば幸いです。また、自ら記事を書くことは、学校経営の自己評価にもつながります。

本校のHPアクセス数は、一昨年は18万件、昨年は21万件と、年々アクセス数が向上しています。1日平均600〜700件であり、生徒が下校するまでに約300件のアクセスがあります。これは保護者の閲覧だと思います。生徒の下校後には約400件のアクセスがあります。これは、保護者に加えて、生徒も閲覧しているのだと思います。生徒数は450前後ですから、たくさんの保護者と生徒がHPを閲覧しています。たくさんの保護者や生徒が、HPに書かれた校長の想いや、教育活動の価値を読み取ってくれています。こうして、学校経営に対する理解が進んでいくことが、航海の風向きや潮の流れをつくることになると考えています。

また、風向きや潮の流れをつくっていくためには、保護者や地域が学校の応援団となっていただけることも必要だと思います。本校は、学校モニターによる保護者評価を実施して、5年目となります。学校モニターに、PTA役員や委員の皆様(80名)をお願いし、年3回の授業アンケートと、年度末に重点取組の達成状況に関するアンケートを実施していただいています。アンケート結果は、学校通信やHPに掲載の他、役員会などの場で、校長が説明するようにしてします。自分達が評価したことに対して学校からのレスがあることで、役員や委員の皆様は、学校経営に対する理解を深めるとともに、学校経営のお手伝いをしているという意識をもっていただいています。役員や委員の皆様から、他の保護者や地域の方に、学校に対する評判が口コミで広がっていき、学校に対する理解が広がっていきます。

以上、私が学校経営で心がけて取り組んでいることを2つ紹介しました。
下校する生徒の表情はその日一日の学校経営の評価そのものだと思います。笑顔がいっぱいであれば、船は確かに進んでいる、そう感じます。「明日も元気に学校に来いよ」生徒の後ろ姿に向かって、心の中で声をかけています。

(2016年6月20日)

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執筆者プロフィール

●鈴木 正則
(すずき・まさのり)

愛知教育大学大学院で数学教育専攻、複式学級の指導を皮切りに、小学校10年間、中学校8年間勤務し、豊田市教育委員会指導主事、半田市立成岩中学校長を経て、現在、豊田市立井郷中学校長。主な著書「数学的な考え方を育てる 課題&キー発問集」「つまずき指導のアイデア 小学校1年〜6年」(明治図書)など。持ち前の明るさとバイタリティをいつまでも持ち続けることが私のモットー。