愛される学校づくり研究会

【第6回】校内研究◇先進校に挑戦
 〜研究協議の基礎基本をさぐる〜

最近、ある公立小学校の校内授業研究会で、短時間でムダがなく、しかも成果を持ち帰ろうと全員が取り組む充実した研究協議を拝見しました。
 学校から戻り、「充実した協議ができるのはなぜだろう」と思いながら、資料を見直していると、「授業記録」と「授業研究にあたっての視点」という2つの資料が目にとまりました。指導案に比べれば使われる場面は多くなかったのですが、この資料に全体の印象と通じるものを感じたのです。
 この学校は常に一歩先のテーマに取り組むことで、近隣の学校からも注目される「先進校」です。もしも、充実した協議がこの資料を使い慣れた結果であり、今ではほとんど使う必要がなくなっているのだとすれば…。
 今回は、「充実した研究協議の『基礎基本』が2つの資料にあるのでは」との仮説に立って、この研究会の場面を振り返ってみたいと思います。
 

■1.子どもたちの「事実」を元に話す■■■

協議の前半では、「授業記録」などの「事実」を元にした質疑応答を通して、短時間で議論が深まっていきました。

「子どもの事実」から語る

先生A: 「Pさんは、(34×12の計算のしかたを考えて)34+34+34+…と12回たそうとしたけど、1回余分にたしちゃっていた。…」
授業者: 「でも、12を34回たすよりは、34を12回たす方が簡単だと考えてそうしていたので…」

質問した先生は、児童が取り組んでいたワークシート上の記述(事実)を元に質問し、授業者の先生は、その後の場面で子どもから聞いた言葉(事実)を元に答えています。
 授業を見ながら指導案に書き込んだメモや授業記録を元にして「子どもの事実から語る」姿勢は、その後のやり取りでも変わりませんでした。
 

授業記録がクッションに

先生B: 「最初の練習に「□×10」の問題があればもっとよかったのでは…」
司 会: 「確かありましたよ。(授業記録を見て)・・・2問めでしたね。」

協議が白熱してくると、「事実」から離れて自由にアイデアが飛び交います。そんな場面では、一度「事実」にあたって協議をすすめる「クッション」のように授業記録が使われていました。
 同じ授業を参観しても、見ている「事実」は一人ひとり違います。授業記録が「クッション」となって「事実」を押さえる時間が最小限にできれば、「中身」の話が進められそうです。
 

まず「事実」を共有する

「授業記録」は、ていねいな手書きのものでしたが決して詳しすぎず、一見して授業の流れが目で追えるものでした。B4判の用紙1枚の両面にきれいにおさまり、書き慣れていらっしゃる様子がうかがえました。
 ムダのない協議ができるための「基礎基本」の一つに、「事実」をきちんと共有し、それを元に話し合う姿勢がありそうです。
 

■2.視点を広げ、全員で成果を追求する■■■

後半になると、「授業研究にあたっての視点」から協議の流れを見直したり、異なる視点からの「事実」を引き出しあったり、この協議から成果を得るために全員が取り組む姿勢が印象的でした。

協議の「現在地」を共有する

司 会: 「ここまで・・・のお話が中心でしたが、「表現する力」はどうだったでしょう」
  (中略)
先生C: 「6の学習規律は、よくできていましたね。Qさんが言いかけて止まった後、Rさんが「Qさんを助けます」と続けたり…」

司会の先生だけでなく、他の先生も「授業研究にあたっての視点」の中から検討していない項目をあげて発言され、さまざまな視点から「事実」が出され、整理されていきました。
 整理された「視点」によって協議の「現在地」を全員が理解できるので、一人ひとりの児童の話題から学校全体の取り組みまで、次々に話題が移り変わっても、協議は自然に続けられたようです。
 

隣の学級の「事実」も共有する

先生B: 「私は前の時間の確認をする時に、後で使う予定でなくても黒板に残しておくのですが・・・」
授業者: 「そうか、そうすれば…」
  (中略)
先生D: 「授業の前に(子どもたちが)「4班できました」「2班できました」って言っていたのは何?」
授業者: 「あれですか?(笑)全員着席が60回できたら次の班替えをすることになったんですよ。」

質問の中で紹介された他の先生の実践を聞いて授業者が深くうなずいたり、質問の答えから授業者のふだんの学級経営に話が及ぶなど、協議は終始オープンな雰囲気で進みました。
 授業研究をきっかけに、身近な先生の「事実」がどんどん共有され、先生同士=学校全体の経験が高まっていく。お互いに教室の子どもたちの顔が見える校内研ならではの成果が得られそうです。
 

「授業への思い」を共有する

改めて「授業研究にあたっての視点」の項目を見直すと、一つひとつに「めざす授業への思い」がこめられている気がします。先生方は「自分のこだわり」を持ちよって作られたのではないでしょうか。  こうして作った「授業研究にあたっての視点」を研究協議で見直すことが、学校全体で共有した「それぞれの思い」をずっと持ち続け、全員が当事者として成果を持ち帰ろうとする姿勢につながっているのではないか、そんな気がします。

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「なぜ指導案通りに進まなかったのか」「そもそもなぜこの展開にしたのか」公開研究会で、指導案の不備や互いの主張の違いばかりを話す研究協議を見ることがあります。公立小中学校でうかがう「研究授業は苦労のわりに…」「授業を公開する先生がいない…」とのお話も無理もないのかと感じていました。
 でも、「こんな授業をめざしたい」という共通の「思い」からスタートする校内研究会ならばどうでしょう。指導案だけにとらわれず、「今見た授業の事実」から「めざす授業にどうつないでいくか」を話し合えれば、「準備に苦労しても、それ以上に得るものが大きい」場にできるのかもしれません。
 次にこの小学校を訪問させていただく折には、「授業記録」「授業研究にあたっての視点」をつくるようになった経緯をおうかがいしたい、そう考えています。

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(2004年3月1日)

後藤真一さんcolumn3_title.gif

●後藤 真一
(ごとう・しんいち)

教育コンサルタント。教材出版社で中学校向け教材作りに16年間たずさわった後、独立。学校と地域や専門家をつなぐ「学校の裏方」をめざす。現在は、学校現場を歩き、自分を磨く修行の日々を送っている。岡山県在住。