愛される学校づくり研究会

学校を離れて観ると

★学校に直接携わっている立場と、一歩、学校を離れた立場から観る学校現場は、ひと味違った受け止め方があるはずです。長きにわたり、教員・校長として学校に携わられた中林先生、平林先生、神戸先生、小西先生それぞれの視点から、現在の学校、教育について、率直な意見を示して頂きます。

【 第3回 】原点に返る
〜平林 哲也〜

1 はじめに

現場を定年退職し、嘱託職員として一宮市教育センターに勤務して2年目の夏を迎えました。
 はじめに、一宮市教育センターについて触れておきます。一宮市教育センターは、一宮市教育委員会の出先機関として昨年度開設したばかりで、業務の大枠は決まっていましたが、具体的に何をどのように進めていくのか、全く白紙の状態でした。開設当初は暗中模索が続き、連日のようにセンター職員でミーティングを繰り返し、業務の具体案を明確にしていく作業に明け暮れました。ある意味、現職時代よりも多忙な日々となりました。
 前例主義の傾向が強い中で、何をするにも「前例がない」というのは困ることも多いものですが、逆に私たちセンター立ち上がりのメンバーにとっては好都合でした。本当にやりたいと考えることがらを率直に出し合い、それを企画案として練り上げながら具体化していく自由さ、面白さにワクワク感を感じる毎日でした。(ただし、私を含めた校長退職者3名のセンター職員は、周囲から“暴走老人”と呼ばれることに…。)
 これまでの1年間をかけて練り上げてきた4日間の「夏季集中研修講座」を、初めてこの夏に開催することができました。

2 どんな伝統もはじめは革新

どんな学校にも、脈々と受け継がれてきた伝統があるものです。しかし、どんな伝統もはじめは革新であったはずです。どこかに起源があり、それを始めた理由があります。そして、そこに込められた思いや願いがあります。後に続く人々も、そこに価値を見出してきたからこそ、伝統として受け継がれているのです。
 しかし、それが意味もなく受け継がれていくと、やがて形骸化し、受け継ぐ人々の負担感ばかりが増幅していくものです。革新であった当初の思いや願いが薄れ、伝統としての価値さえ喪失する例は、誰しも思い当たるところがあるのではないでしょうか。
 私はどのキャリアステージであっても、特に赴任1年目は、その学校の中で毎日行われていることの意味や価値を問い続けました。分からないことや合点がいかないことがあれば、その学校に長年勤めている教職員に意味や価値を尋ねました。私自身が腑に落ちればそれでよいのですが、落ちないことは改善策を考えるようにしてきました。意味づけ、価値づけできないことに対しては、誰しもモチベーションを保つことができないものです。それでも続けることは、かえってさまざまな弊害を生みます。
 受け継ぐべき伝統と革新すべき伝統、それを見極めることが学校の活性化には不可欠です。とりわけ校長は、どの部分にメスを入れるのか、柔軟にかつ大胆に考え、実践していく実行力が求められます。それこそ、校長としての仕事なのです。

3 原点に返る

何も描かれていないキャンバスにどんな絵を描くのか、画家はアイデアを具体化し、さまざまな表現技法を駆使しながら作品を描いていきます。
  開設当初の一宮市教育センターは、まさに白紙の状態。誰のために、どんな業務を進めていけばよいのか、前例そのものがないのですから、前例にとらわれることなく、市内教職員や保護者のニーズに合わせた斬新なアイデアを具体化することができます。
  在職中には、前例を意識しつつ新たなものを構築する機会が多くありましたが、ゼロからの出発はとても新鮮な気持ちになれました。学校現場を離れ、新たにスタートした職場に配属されたことは、大変ではあっても、これから新たな伝統を築くチャンスであり、私にとってはこの上ない喜びです。
  私は一宮市教育センターの業務を通して、思考の「原点に返る」ことの大切さを日々痛感しています。前例があろうが無かろうが、これからやろうとしていることがらにどんな意味があるのか、それをすることによってどんな価値が生まれるのか、喜ぶ人は誰なのか…、まずは思考の「原点に返る」ことが大切です。
  現場にいた時も何かを始める際には、必ず「原点に返る」ことを意識していましたが、やはり流れを大きく変えるためには相当のエネルギーを要しました。ですから、私自身変えたいと思っていても、さまざまな配慮?(いや、日々の仕事に余裕がない?)ために、ついつい前例に従う場面も実はたくさんありました。しかし、内心は誰かに後押ししてもらえれば、誰かに強力に引っ張ってもらえれば、などという気持ちを抱いていたのも事実です。

学校を離れてみると、ものごとの原点が俯瞰的に、そして鮮明に見えてくるものです。それを具体的に提示し、業務企画の中に盛り込んでいくことは、結果的に現場を支援することにつながるのではないか、そう信じて“暴走する”毎日です。

(2016年8月10日)

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執筆者プロフィール

●平林 哲也
(ひらばやし・てつや)

1977年一宮市にて小学校教諭となる。小学校教諭・教頭・校長18年、中学校教諭・校長20年を経験し、2015年3月定年退職。校長在任中は、「発信なければ受信なし」をモットーに、学校ホームページを通して児童生徒の様子、学校や校長としての思い・考えを、趣味の写真とともに365日掲載。現在、一宮市教育センター・副センター長として各種の教員研修をコーディネートしている。