愛される学校づくり研究会

地域とともにある学校づくり

★このコラムは、愛知県一宮市の公立小中学校長を歴任された平林哲也先生によるものです。平林先生は「発信なければ受信なし」の理念のもと、校長としての思いを学校ホームページに毎日発信していらっしゃいました。アクセス数が増えるのに伴って強くなる保護者や地域との絆。さまざまな実践を工夫されてきた平林先生に、学校と家庭・地域との結びつきはどうあるべきかについて語っていただきます。

【 第8回 】地域の小中連携の進め方

中学校区で考える学校経営

私は、一宮市内小中学校の校長を経験してきましたが、奇しくも同じ地域の小中学校に赴任する機会に恵まれました。しかも、両校とも私の居住地の学校であり、母校であるという極めて濃密な関係をもつ学校です。
 そこで再確認できたのは、学校は地域の中でこそ機能する場であるということです。校長としての立場だけでなく、かつての在校生、かつての保護者、現在の住民としての立場でも学校を見つめることができ、学校経営を考える上での多面性を確保できたことは限りない幸運でした。
 義務教育学校の最大の願いは、将来の地域を担う人材の育成です。ですから、中学校区の小学校は、その中学校と深く連携することが求められるのです。

小中連携の図り方

では、具体的にどのような小中連携を図ればよいのでしょうか?

(1)学校経営目標のベクトル合わせ。

学校経営目標は校長の願いや思いを具体化するものですが、そこには、校長の人生観や教育観、それまで経てきた教育実践歴が色濃く出るものです。校長の専門教科を反映し、体力向上、言語力や計算力向上などを学校経営の軸にすることは、決して否定されるものではありません。しかし、大切なのはそれを手段として最終的な目標をどこに置くかです。
 同じ中学校区の校長は、最終的な学校経営目標について熟議すべきです。当たり前と言えば当たり前のことなのですが、アプローチは異なっても、めざすべき9年間のゴールは同じであることが、保護者やその地域に住む人々にとっては重要なのです。

(2)小中教職員の風通し

中1ギャップ解消のために、小中学校の相互授業参観や中学校の教科担任が小学校に出前授業に出かけるなど、どの中学校区も工夫を凝らしていると思います。トピック的な授業交流には意義もありますが、何より心がけたいのは、日々の授業に小中の一貫性を持たせることです。特に、授業規律やマナーに関しては統一性が求められます。
 また、中学校区の小中教員が一堂に会して授業の進め方についての研修会を持つことも大切です。学校生活の大半は授業時間です。小中の間で授業の進め方に大きなギャップがあれば、戸惑うのは子どもたちですから。授業は小中が連携すべき重要な視点です。

地域とともにある学校づくり8-1

地域とともにある学校づくり8-2

小中教員が一堂に会して教科の授業研修会を持つことは難しいものですが、道徳の授業ならば誰もが実践しているので、シミュレーション授業や授業法検討会もしやすいはずです。少なくとも年1回は小中合同の研修会を開催し、同じ中学校区の教員が小中のつながりを意識した授業展開を身につけたいものです。

(3)コミュニティ・スクール

コミュニティ・スクールのねらいの一つは小中連携です。
 存立地域を同じくする小中学校が、それぞれの学校経営目標に大きな違いがあるとすれば、学校と地域の連携を進める上で必ずどこかで支障や軋轢が生じます。ですから、保護者や地域が学校に参画しやすい土壌をつくっておくためにも、まずは校長同士のベクトル合わせは必須事項です。めざす方向性が同じであってこそ、保護者や地域は安心して学校に参画することができるのです。
 さらに、小中連携を深めるには、教職員の連携だけでなく、小中PTA・小中保護者同士の連携、小中に関わる地域全体の連携といった視点も重要です。要件に応じて小中相互の連携を密にする仕掛けが必要です。
 私が在職した一宮市立木曽川中学校では、スマホなどの携帯電話をめぐる問題に対して、中学校PTA役員が小学校の保護者を対象に「ネットおしゃべり広場in木曽川」を開催(詳細は第3回に掲載)し、ネット利用についての学習会を行ったり、中学校「おやじの会」が小中学生親子を対象に「ペットボトル水ロケット大会」を開催(詳細は第4回に掲載)したりしながら、積極的に小中保護者の連携をつくり出しました。
  また、中学生が地域の諸行事にスタッフとしてボランティア参加する機会を創出し、生徒の地域への参画意識と同時に、地域での自己有用感を高める仕掛け(詳細は第7回に掲載)をしました。

信頼の上に成り立つ連携

よく、児童生徒たちの問題を小学校は中学校のせいにし、中学校は小学校のせいにする声を耳にすることがあります。
 例えば、中学校の数学の力が伸びないのは、小学校の算数で基礎をきちんと培っていないから、小学校の授業では意見をよく言っていた子どもたちが、中学校で言わなくなるのは中学校の授業の進め方が一方的だから、などといった声です。傾聴に値する部分が全くないわけではありませんが、これでは子どもたちが可哀想です。
 小中がともに9年間というスパンでものごとを考え、子どもたちの成長を見守っていけば、このような小中ギャップは極力減らすことが可能です。
 「小中連携」は「小中信頼」の上に初めて成り立つものです。「信頼」の始まりは、「共通理解」です。現状をどう理解し、互いに力を注ぐべき点を明らかにすることが求められます。

(2015年11月9日)

平林先生

●平林 哲也
(ひらばやし・てつや)

1977年一宮市にて小学校教諭となる。小学校教諭・教頭・校長18年、中学校教諭・校長20年を経験し、2015年3月定年退職。校長在任中は、「発信なければ受信なし」をモットーに、学校ホームページを通して児童生徒の様子、学校や校長としての思い・考えを、趣味の写真とともに365日掲載。現在、一宮市教育センター・副センター長として各種の教員研修をコーディネートしている。