愛される学校づくり研究会

授業改善

★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。

【第7回】「授業検討ツール」の実践からわかったこと

改良された「授業検討ツール」を実際の授業研究で活用させていただく機会を持つことができました。市内の各学校から50人ほどが参加して行われる研究会で、教科は数学でした。参加者の中から7人の方にモニターとして端末を持っていただきました。前回の研究会で「生徒」のボタンが他のボタンと使い分けしにくかったので、今回は「意見がある」という意志表示としての利用を意図して「コメント」に変更しました。「いいね!」「疑問?」「コメント」の3つのボタンです。事前に司会者の方にどのような時にボタンを押すかといった説明をしていただきました。司会者は愛される学校づくり研究会の会員です。準備等は非常にスムーズに進みましたが、機器を移動する際にメインとなるiPadと端末となるiPod touchのリンクが切れることがありました。このあたりがシステムとしての課題となりそうです。

授業後すぐに教室を移動して、授業検討会となりました。ボタンの押され方を見ると、今年の愛される学校づくりフォーラムでの模擬授業の時と同じ傾向がありました。つまり、最初の内はボタンが押されるのですが、途中で授業に集中するためか、あまり押されなくなるのです。ボタンが押されるのは、授業開始後10分ぐらいまでに集中していました。また、通常は子どもたちが問題を解いている時や相談している時には余裕を持って授業を見ることができるのでボタンを押しやすいのですが、そのような場面でもほとんど押されていなかったことが気になります。参加者の授業を見る様子を見ていても、視線が授業者に集中していたので、参加者の意識があまり子どもたちに向いていなかったのかもしれません。
  参加者が注目した場面はそれほど多くありません。後で確認したところ、司会者が話題にしたい場面とはずれていたようです。とはいえ、強引にボタンが押されていないところを話題にするのも無理があります。ボタンが多く押されていた導入場面を再生し、どのようなことを感じたか意見を聞きます。司会者はモニター以外の参加者にも指名をしますが、他の学校の授業ということもあるのか無難な意見に終始します。その一方でモニターであった方はボタンを押していなくても、指名されるとそれなりの意見が出ます。ボタンを押すという意識があると授業を見る目も違ってくるのかもしれません。また、特定の先生ですが、コメントボタンを何度か押された方がいました。この方に指名をすると、なるほどという意見を聞くことができます。コメントボタンは議論を深めたり転換させたりするきっかけがほしい時に役立ちそうですが、特に必要がなかったというモニターもいました。コメントすることに対する個人の感覚によって意見が分かれるのでしょう。
 続いてモニターが多く反応したところは、ICTの活用場面でした。スクリーンに既習事項のスライドを映しながら進める場面です。一通り意見が出たところで、ICTの活用の他の場面を司会者が取り上げ、そこで使われたスライドについて参加者に問いかけました。司会者がそこの図の見せ方について考えてほしいと思っていたのです。2つの見せ方を例示し、自分ならどちらかを選ぶか参加者全員に意思表示をさせた上で、話し合いを進めます。参加者の意見をもとに進めるので、議論の視点は司会者の意図したものと違ってしまいましたが、いろいろな考えは引き出すことができました。限られた時間だったので、大きく2つの場面を取り上げて終わりました。

検討会終了後、司会者と今回の授業検討会を振り返りました。一番の問題は、司会者と参加者の視点のずれです。今回は、授業と検討会の間に時間がなかったのでその場で考えながらの対応だったのですが、授業と検討会の間に少しでも時間があれば、進め方について事前に方向性を決めることができそうです。ボタンが押されているのがどのような場面かは、1分ごとのビデオのサムネールを見るだけで容易に想像がつきます。再生して確認するのも簡単なので素早く分析できます。ボタンが押された場面から司会者が話題にしたい場面へどうつなげるかといったことも考えやすいのです。例えば、「子どもがよく反応した場面が他にもありましたね」といった言葉でつないで、話題にしたい場面を再生するのです。司会者の悩みはどこまで自分が話題にしたい場面に誘導してよいものかです。あくまでも参加者の視点で進めるのか、自分の視点を重視するのか、難しいところです。いずれにしても、司会者が意図した場面を再生して参加者で共有するには、1分ごとにビデオが分割されていてサムネールがあるというのはとても扱いやすいという感想でした。また、今回は他の学校からの参加者がほとんどだったので、空気を読みながらの意見が多かったのですが、自校での検討会であれば、意図的に問い返したり、指名したりすることで、もっと議論を深めることはできたと思われます。また、研究テーマをもとに視点を設定することでボタンの押され方も変わり、議論の焦点化もしやすくなることでしょう。

今回の実践でわかったことは、授業場面の再生機能だけに限っても授業検討を進めるのにとても便利なツールだということです。一方、ボタンの機能は参加者の視点や質によっては上手く議論すべき場面を抽出できない可能性があります。この点は、検討会の前にデータを検討して進め方を工夫することである程度コントロールすることは可能だと思われます。しかし、ということは司会者にそれなりの力量が求められるということです。わかっていたこととはいえ、この課題が大きなものであることをあらためて実感させられました。2月のフォーラムまでに、少しでもこの課題を解決できるように実践を通じて研究を続けたいと思います。

次回は、「授業検討ツール」から少し離れて、授業改善が上手く進んでいる学校の特徴についてお伝えしたいと思います。

(2014年10月27日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。