★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。
【第4回】ICTを活用した「授業検討ツール」の課題と可能性
愛される学校づくり研究会では、昨年度に引き続きICTを活用した授業研究について研究を続けています。今回は昨年度の愛される学校づくりフォーラムで使用した授業検討ツールを再度使用して、問題点や改善点について検討しました。
このツールでは、タブレットPCやスマートフォンとサーバーをつなぎ、表示されたボタンを押すことでその時間等の情報が記録されると同時に、リアルタイムにどのボタンが押されているかを画面で見ることができます。また、その情報を元にしてサーバーに記録した授業の映像をすぐに再生することもできます(詳しくは「楽しく授業研究をしよう」第13回参照)。
フォーラムでは、情報量が多いため、それらのデータをどう処理して見るかが課題として浮かび上がりました。そこで今回は教師と生徒の2つにボタンを絞り、それぞれについて「心が動いた」時に押すことにしました。誰が押したかの個人情報もとりません。原点に戻り単純化することで、どこが授業で注目すべきところかが明確になると考えたからです。
いつものように会員から授業者と生徒役を選んで模擬授業を行い、他の会員が参観者になります。内容は中学校数学の課題学習のネタとして有名な「17段目の秘密」です。数の面白い性質に大人でも思わず引き込まれる教材です。
今回も前回と同じく前半はたくさんボタンが押されたのですが、後半になるにつれボタンが押されなくなってしまいます。前回の授業でもそうですが、子どもたちが考える場面で、検討者も一緒になって考えてしまうことが原因としてありそうです。
個人追究の時に、子ども役が真剣に考えているが、手がかりがないため動きが止まった場面がありました。ここは間違いなく検討すべき場面ですが、まったくボタンが押されませんでした。この場面がクローズアップされなければこの授業検討法には問題があるということです。
このことについて検討を行いました。参観者が子ども役と一緒になって考えていたこと以外にも、「心が動いた」時にボタンを押すというルールにも原因があるという意見が出ました。「心が動いた」というのはプラスのイメージだが、問題の場面はマイナスととらえた。「心が動いた」は動的なイメージだが、問題の場面は静的だった。だからボタンを押さなかったというのです。となると、どういうときにボタンを押すかというルールの問題ということになります。生徒が行き詰まっている、集中力が切れているといったサインが現れた時にボタンを押すといったルールにすればよいのでしょうか。
行き詰まったときに生徒を導くヒントがでたり、生徒が「わかった」と思う瞬間があったりしたのならわぁっと押されたはずという意見が出ました。今回はそこまでいかなかったので押されなかったというのです。沈黙が思考であればよいが、停滞では問題です。結局その場面がどうであったかはその後の活動で判断することになります。しかし、このシステムでは過去にさかのぼってボタンを押すことはできません。このことも、問題の場面がクローズアップされなかった原因というわけです。
このことに関連して、数学の教師ならば心が動くだろうという場面でもボタンが押されなかったことが取り上げられました。授業者が数学的な根拠を示さずに結果をまとめて先に進んだ場面です。それに対して、きちんと説明せずに進んだことが、後の学習への布石となっているかもしれないと考えたので押さなかったという意見がでました。先ほど問題となった場面でも、「いつまで待つ?」「どこで先生が出てくるだろう?」「どう切り返す?」と次の展開を期待している可能性があります。するとリアルタイムでは押せないということになってしまいます。では、3シーン授業検討法のように、後からの挙手であればどうでしょうか?この場合、全体を見てからなので、布石を打った場面などは後から調整して挙手できます。心が動いた場面が、話題にしたい場面に変わるのです。オンタイムだと全体を見ずに考えることになるので、その瞬間に気づかなければ取り上げることはできません。すべてを見終わった後に押す「話題にしたい」ボタンを付け加えるというアイデアも出てきました。
このツールでは問題の場面はクローズアップされなかったが、検討会を行ってみれば、結局のところここが話題になるのではないかという意見が出ました。しかし、話題として取り上げられるかどうかは司会者の力量に依存します。我々が目指す、どんな司会者でも扱うべき場面がクローズアップされるということは実現できていないということです。
逆に司会者や参観者の力量があれば、べつの可能性もあります。見たいところを簡単に再生できるので、話題となった場面や多くの方が見落とした重要な場面をすぐに全体で共有することができます。ボタンが押された状況が全員の端末に反映されることをいかして、「ここを見よう」といったボタンを作ることで、ベテランの視点をリアルタイムに参観者に伝えることができます。
ICTを活用した「授業検討ツール」では場面ごとに瞬間的に授業を評価することが求められます。アナログでは後から調整できるので「心が動いた」という曖昧で広くとらえやすい視点が有効ですが、デジタルでは視点をよほど明確にしないとクローズアップすべき場面が浮かび上がってきません。視点を意識したボタンの設定が求められますが、ボタンが増えればそれだけ瞬間的にたくさんの判断を求められ、かえって押しにくくなる可能性もあります。また、時間をさかのぼってボタンを押せるといった仕組みも必要になりそうです。次への課題が明確になった研究会でした。
次回は、授業(子ども)を見る視点を育てることについて取り上げたいと思います。
(2014年7月28日)