愛される学校づくり研究会

授業改善

★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。

【第3回】失敗を前提としたプチ授業研究

前回、「伝える授業」を公開することを話題にしましたが、こういった授業ができる方が学校にいない場合はどうすればいいのでしょうか。研究指定を受けた時など、今までやってこなかったまったく新しい授業スタイルに挑戦することがあります。当然目指す授業ができる人は校内に存在しません。目指す授業のイメージが持てていないのに学校全体で一気に授業を変えていこうとうしても、五里霧中になってしまうことは想像に難くありません。多くの場合、先進校などモデルとなる授業を実現している学校を訪問して参考にすることから始めることになります。
 しかし、一部の人が見てそれを伝えようとしても、なかなかうまく伝わるものではありません。職員全員で視察に行くといった学校を目にすることがありますが、その理由がわかるような気がします。たとえモデルとなる授業を見たとしても、他校ですので環境も違いますし、子どもたちの様子も当然異なります。果たして自分たちの学校で同じようにできるのだろうか、今一つ確信が持てないこともよくあります。大切なことは、完璧でなくてもいいので、まず自分たちの学校の中にモデルとなる授業をつくりだすことです。

学校の授業改善を考える時、教務主任や研修主任といった立場の方がその中心になると思いますが、この方が学年や教科に対してこういった授業に挑戦してくださいと声をかけるだけでは、大きな動きにはなりません。またピラミッド型の組織にして、中心となる先生の下に、教科主任や学年主任を配してその方に中心となって授業改善を進めてくださいといっても、個での取り組みがたくさん集まるだけになってしまいます。
 授業改善がうまく進んでいる学校でよく見られるのが、まず教科や学年を超えたチームで授業づくりに挑戦するというものです。5〜6人で目指す授業について、本を読んだり、視察に行ったりして自分たちの目指す授業イメージを共有します。どうすればいいのか、何から始めるか、とりあえず自分たちでできることをやってみるのです。
 ここで大切なのは大上段に構えた授業研究を行うのではなく、試しに今日の授業で指名の仕方を変えてみよう、グループ活動を入れてみようといったレベルでいいので、気軽にやってみることです。もし他のメンバーで時間が空いていれば、1時間全部でなくていいので授業をのぞいて、子どもの様子で気づいたことを伝えます。子どもがいつもより積極的になった、ムダ話をして騒がしくなったといった事実を互いに共有し、うまくいきそうなことを他のメンバーも試してみる、うまくいかなった原因を考えてちょっと変えてみる、原因がよくわからなければ他のメンバーが同じようにやってみて今度はどうなるか試してみる。こういうことを繰り返すのです。公式の授業研究は失敗するわけにはいかないというプレッシャーがかかります。そうではなく、気軽に失敗を話し合える場を持つのです。「失敗が前提のプチ授業研究」といったものです。こうしたことを続けていくうちに、少しずつ目指す授業の形が見えてくるのです。

子どものよい変化が見られるようになってくれば、学校全体に公開することを考えます。まず伝えるのは、子どもたちの様子です。子どもたちによい変容が見られるようになったことを実際の姿で伝えることで、学校全体の授業改善へのエネルギーを引き出すことができます。先生方にこれなら自分たちもやってみたいと思ってもらうのです。その上で、みんなに意識してもらいたいこと、取り組んでもらいたいことを具体的に伝えます。この時、ここが難しかった、こういう失敗をしたという自分たちの経験を伝えることが大切です。失敗談を聞いてもらうことで、試してみることへのハードルを低くするのです。

次のステップは、チームのメンバーでない方に授業を公開してもらうことです。できれば若手がよいでしょう。もちろん、いきなり授業を公開してもうまくいきません。ここでも先ほどの「失敗が前提のプチ授業研究」が有効です。今度は、その方と同じ教科や学年の先生にも加わってもらい、事前に何度か行うのです。みんなの力を集めて授業をつくる経験を中心メンバー以外にも積んでもらうことで、授業改善の輪が広がっていきます。
 授業公開を通じて、たとえ若手でも目指す授業に近づけることを伝えることで、他の先生方も積極的に授業改善に取り組んでみようと思います。授業を公開して認められることで、授業者に継続して授業改善に取り組むエネルギーが生まれます。教科や学年を変えて何回も行うことで、次第に学校として目指す授業が明確になっていきます。互いの授業で目指すものを伝えあうのです。

授業改善を進めるためには、目指す授業のあり方を自分たちの学校の子どもの姿で伝え合うことが大切です。しかしそのことを大上段に掲げると、授業研究や授業公開に際して、うまくやらなければいけないというプレッシャーがかかります。かといって公開せずに個別に取り組んでもなかなか授業改善は進みません。「失敗を前提としたプチ授業研究」を気軽に行い、目指す授業のモデルをつくることが近道です。ここでつくられた授業を公開することで目指す授業がどのようなものか伝わり、学校全体に広がっていくのです。

次回は、愛される学校づくり研究会で行われたICTを活用した授業研究について報告したいと思います。

(2014年6月30日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。