★愛される学校づくり研究会では、昨年度までの授業研究に引き続き、より広い視点で授業改善についてこの1年間研究していくことになりました。「楽しく授業研究をしよう」と同じく、研究会と連携しながら学校の授業改善を日常的に行う方法について考えていきます。今回は「楽しく」だけでなく、いかに「手軽に」行うかという点でも提案できることを目指します。授業改善を通じて、学校経営や学校の活性化についても触れていくことができればと思っています。
【 第11回 】「愛される学校づくりフォーラム2015in大阪」から学んだこと
2月21日行われた「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪」の午後の部「楽しく、手軽に授業改善しよう」から学んだことをお伝えします。
最初の授業検討は、一宮市立大和中学校の山田貞二校長による道徳の模擬授業「いつわりのバイオリン」を、グループを活用した「3+1授業検討法」で行いました。
今回はフォーラム参加者の皆さんにもまわりの方とこの模擬授業について検討していただきました。会場のいたるところで熱心な検討が始まりました。模擬授業の質の高さもありますが、皆さんが積極的にこのフォーラムに参加されていることの現れだと思います。壇上での研究会員によるグループでの検討は2色の付箋紙を使い模造紙にまとめながら行いました。今回の全体での検討は、グループの代表者による発表ではなくホワイトボードに検討をまとめた模造紙を貼ってもらい、その内容をもとに意見を聞いていきました。模造紙には「資料の範読の上手さ」「子ども役に対する受容的な態度」「発言に対する切り返し」といった授業技術のよさが多く取り上げられていました。その内容に関する詳しい説明をそのグループの方にたずねたり、同じようなことが他のグループでも話題になったかを確認したりして全体で検討を進めます。こうすることでより具体的に話し合いの内容が伝わってきます。またその点に関して授業者の考えを聞くことで、互いに学びを深めることもできました。改善点については、子ども役の発言を受容した後、発表者の考えを「謝って、前に進みたいということだね」と何度も教師がまとめようとしていたことが挙げられました。この点について授業者に説明をお願いしました。時間の関係で本来やりたかった活動を省略したため、ここでまとめる必要があったのでちょっと強引に進めてしまったということです。また、話し合いながら深めていこうにも、子ども役の発言が素晴らしい内容で完結していたのでつなぐことができず、その結果すぐに授業者がまとめることにつながったようです。こういったカギとなる場面での授業者の心の動きを聞くことができると、より多くのことが学べます。
今回の全体での検討の進め方は、個別に発表している時間がない時によく使うやり方です。こうすることで、同じような内容を何度も聞かずにすみ、素早く検討に入ることができます。
このあとのまとめのパネルディスカッションで、道徳に関する内容が検討されなかったことが話題になりました。道徳の授業なのにそれはおかしいということです。今回の模擬授業では授業技術が素晴らしかったため、よかったことがそこに集中してしまったのです。何も条件をつけずに検討を行うとよくあることです。グループの検討では、その参加者にとって関心の高いことが話題になります。会場に確認したところ、道徳の内容が話題になったグループとそうでないグループに分かれていたようです。同じ授業を見ても話し合われる内容は異なるのです。ですから、全体で他のグループの話し合いの内容を聞き合うことも大切になります。また、話し合いの視点を多様化するために、グループの構成を異質なメンバーの組み合わせにすることも有効です。一方、「3+1授業検討法」ではできるだけ多くの人に発言の機会を持たせるためにグループでの話し合いの活性化を目指すものなのであまり勧めませんが、これとは逆の考え方もあります。若者、ベテラン、同じ教科、同じ学年というように同質のメンバーのグループで簡単に話し合い、全体での検討時間を多くとるという進め方です。視点の異なった見方や、各グループでまとめる時に切り捨てられて全体の場に上がってこないような意見が出やすくなるので、全体での話し合いが活性化することが期待できます。
「3+1」の中に、教科についてのことを必ず1つ入れるといったしばりをつける方法もあります。このしばりは、学校の研究テーマでも授業者がその授業で大切にした視点でもよいでしょう。「3+1授業検討法」に絶対にこうあるべきだというようなやり方があるわけではありません。学校の実情に応じて工夫していただければよいと思います。今回のフォーラムを通じて、多くの方が「3+1授業検討法」のよさと可能性を感じていただけたのではないかと思います。
2つ目の授業検討は、新城市立作手小学校の小西祥二校長による算数の模擬授業を、ICTを活用した「授業検討ツール」を活用して行いました。
授業者も進行役もこの「授業検討ツール」の特性をよく知っています。そのため、授業者はこの「授業検討ツール」の特性を考慮して授業を作りました。進行役も、あらかじめその特性を考慮した進行を予定していました。授業そのもの以外の要素が入ってしまったため、予想外のことが起こりました。
このツールを使った授業検討では授業の後半になるとボタンが押されなくなる傾向があります。授業者は流れが見えてしまうと「なるほど」と感心したり、おやっと「疑問」を持ったりしにくくなると考え、意図的にストレスを与えるような授業を行ないました。大人相手の模擬授業なので、授業者の意図をすぐに読まれて展開を予想されても面白くなくなるとも考えてのことです。この点では授業者のねらいは見事に達成されました。「授業者は何をねらっているのだろう」「この場面の意図は何だろう」と授業検討者も子ども役も頭を抱えていることがよくわかります。会場全体にストレスが溜まっていくのがわかりました。最後の授業者のまとめでねらっていたことがようやくわかり、ああそういうことと緊張が弛むのを感じました。
ボタンが押された状況を表わすグラフは、今までに見たことのないものでした。細かいピークがいくつもあります。これは最後まで続いていました。中でも一番高いピークは授業の最後にありました。進行役は、この部分を再生しました。しかし、この使い方には賛成できません。最後から再生すれば、続いて時間をさかのぼって検討していくことになります。検討の結果を受けて時間をさかのぼるのならよいのですが、あくまで最初はグラフからどこを扱うかを決めて授業の時間の流れにそって検討するのが自然でしょう。また、通常と異なり最後から再生するということは、進行役が何か意図を持った展開を準備していることになります。この検討法のねらいは参加者の多数の意志をもとに進めることなので、それに反することでもあるのです。とはいえ、進行役の気持ちもわかります、同じようなピークがいくつもあり、どこを扱ってよいのかよく見えなかったので、はっきりと起こったことがわかっている場面をまず再生したのでしょう。
再生された場面は、授業者のねらいがわかった場面です。検討者はこれに関連して口々に「ねらいがわからなかった」と言います。授業者はねらいを明らかにしなかった意図を説明しました。ボタンが押されたところには、ちゃんと意味があり検討の糸口を見つけ出せます。しかし、通常とは異なる状況に起因する要素が上がってきたため、ここをあまり深く追求しても本来の授業検討としての意味はありません。そのあと、司会者はどういう時にボタンを押したかといったことを検討者にたずねたり、グラフからこんなことが言えそうだという説明をしたりと、この「授業検討ツール」の感想や解説、使い方についての話が中心になってしまいました。「授業検討ツール」のことを伝えなければという思いと、おそらくどの場面を再生してもこの授業の特殊な状況に起因することがでてくるのではと考えてのことでしょう。検討者にボタンを押したときの気持ち聞いても、「なぜ押したかわからない」という答が返ってきます。「授業検討ツール」では、ボタンを押した場面が再生されると手元の端末のボタンが光ります。自分がボタンを押した場面が映像でわかるので、その時の気持ちを思い出すことができます。検討すべき場面を選んで、その場面を再生すればたくさんのことに気づけたと思います。「いいね」「疑問」両方のボタンが多く押されている場面がありました。ここから検討を出発することで、また違った授業検討になったと思います。
フォーラム終了後、授業の小西先生は、ボタンが押されているところを中心に授業を振り返ることで、自分の授業改善につなげることができると語っていました。今回の模擬授業をもとに、新しい授業の展開を考えて指導案を作成しました。小西先生の授業を改善しようという姿勢が、この「授業検討ツール」が個人で授業を振り返るためのツールとしても有効であることに気づかせてくれました。
昨年度参加された方からは、ボタンの集計がグラフになってずいぶん見やすくなり、使えるツールになったと評価いただけました。授業検討の方法も、ボタンがたくさん押された3シーンを取り上げるという以外にもいろいろな可能性がありそうです。このことも、今後研究していきたいと思います。
フォーラムという舞台を通じて、新たにたくさんのことに気づくことができました。私たち「愛される学校づくり研究会」の会員にとっても、とても有意義なものとなりました。
次回最終回は、フォーラムでのまとめのパネルディスカッションの話をもとに、楽しく、手軽に授業改善するための方法について考えてみたいと思います。
(2015年3月16日)