愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第8回 】教科書の長音記述を補う指導を!

前回の「辛口コラム」で「長音」のことを話題にしました。それを読んでいただいた何人かの方から「私はしらなかった」とか「おおかみのこと、楽しみです」という声を聞かせていただきました。私の予想通り、初等教育に関わる教員ですら長音のことを理解していない人がいます。私の感覚では、理解していない人の方が多いようです。
 前回も触れたように、ひらがなの長音は小学校の1年1学期に学習します。
 東京書籍の来年度版(27年度版)には手をたたく絵があり、音の拍子(モーラとも言う)が明記されています。「おばさん」は「4個たたく」となっています。「おばあさん」は「お」はたたく、「ばあ」のところは「たたいておろす」と書いてあります。のばす音(長音)を「拍子・下ろす」という手の動きで表しているのです。「おじさん」に対して、「おじいさん」はやはり「じい」のところは「たたいておろす」記号になっています。現行の23年度版にはそれがでていませんから、長音指導については明らかに分かりやすくなっています。
 また、学校図書の現行版はすでに十分にていねいな長音の説明が載っています。

小学校国語で最もシェアの高いM社の長音に関する記述の変遷を見てみます。平成16年度版は「おばさんとおばあさん」というタイトルで、記述が2ページです。「まほうのほうきで そらとぶおばさん。げんきにたいそうおばあさん」という詩に1ページ使い、もう1ページには「おかあさん・おばあさん・おにいさん」など10の単語が並んでいるだけです。後、4つの単語が大きく書かれており、まるで書き方です。
 M社の現行版(23年度版)はタイトルがなくなり、1ページだけ。「おかあさん」などという単語が10と「まほうのほうきで…」という詩が載っているだけです。書き方的に2つの単語が大きく。
 M社の来年度版(27年度版)は2ページになり、ここにも書き方的に「ゆうやけ・いもうと」が大きな字体で載っています。ここまでは16年度版に似ています。それに加えて「おとうとをよぶ」という文が大きな字体で目立つように載っています。「を」を強調するためか、○がついています。助詞の「を」が目立ちます。もしかすると長音の指導そっちのけで「を」の指導をする指導者がでるかもしれません。
 M社の3代に渡る長音に関する記述に触れたのは先に書いたように、シェアが高く影響力が大きいからです。長音に関する限りM社の記述はとても貧弱です。それを指導者が補っているとは思えません。 

「おおかみ」が小学校1年の長音のところで取り上げられていることに触れましょう。片仮名の「長音」は「ー」という記号で表します。平仮名にはそんな記号がなく、「あ・い・う・え・お」という文字で表記します。このことは昭和60年の国語審議会試案でまとめられています。「おの長音」は「う」と表記することになっています。「おとうさん・そうじ」などのように。
 ところが、「おの長音」なのに「お」と表記する例外がいくつかあります。それが「こおり」だったり「おおかみ」なのです。
 「おの長音」の例外を覚えるための呪文のような言葉があります。「とおくの おおきな こおりのうえを おおくの おおかみ とおずつ とおった」というものです。これ以外は「う」と表記します。この呪文(?)を指導している1年生の担任はいます。長音指導のことが分かっている方です。でも、私の見るところ少数派です。
 長音は日本語の基礎です。このコラムを読んでいただいた皆さん、ぜひ自分の関わっている子どもたちに正しい長音の表記と読み方を教えてやってください。

次回の「辛口コラム」は小学校での作文指導について取り上げます。国語の時間の中で「書くこと」に費やす時間数はどの程度でしょうか。10%? 20%? いいえ、もっと多いのです。学習指導要領(解説編)には時間数が明記されています。 次回に。

(2014年11月17日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。