愛される学校づくり研究会

辛口コラム

★このコラムは、津市の太郎生小学校の校長だった中林則孝先生によるものです。中林先生は校長としてほぼ毎日「学校便り」を発行していらっしゃいました。教室で起こるドラマをドキュメンタリー風に書き綴った便りからは長年の実践に裏打ちされた深い教育哲学と固い信念を感じます。真っ直ぐで媚びを売らないその論調から「中林則孝のゴメンネ辛口コラム」というタイトルにしました。教育にまつわるさまざまな話題を独特の切り口で切ってもらいます。

【 第4回 】「皆さん、どうですか」「いいです」を考え直す!

今回は授業についての話題です。
 授業の中で教師が発問します。その答えが仮に「3つ」だったとします。指名されたある児童は「3つだと思います。皆さん、どうですか」と発言し、他の児童が口をそろえて「いいです」と答えます。こんな授業を見たことはないでしょうか。
 私が今年、指導している初任者の授業ではこんな「皆さん、どうですか」「いいです」がたびたび繰り返されました。おそらく他の先生たちの授業を見ることで学んだのだと思います。あるいは子どもたちが昨年度の担任からそのような指導を受けていたのかもしれません。

この「皆さん、どうですか」「いいです」という子ども同士の受け答えは、子どもが子どもの発言に反応しているわけですから授業としては好ましいように思えます。だからこそ初任者はそれを受け入れているのだと思われます。
 ある初任者の授業でこんなことがありました。「意味段落で分ける」という学習でした。いくつに分けるかという発問に対して、子どもたちはノートに「2つ」「3つ」「4つ」と自分の考えを書いています。私は机間巡視し、子どものノートをカメラに収めていました。ノートには「3つ」や「4つ」という意見が多かったです。
 さて、授業では担任の「いくつに分けましたか」という発問に、「……なので、3つに分けました。皆さん、どうですか」と発言しました。すると、他の子どもたちが大きな声で「いいです」と反応します。担任は「ではみんなの分けた3つでいいですね」と続けていきました。

ところが、私がその時に見た子どもたちのノートには「4つ」と書いてあった児童が3割程度いたのです。「3つ」と書いてあった児童は半数程度でした。「どうですか」に対して、3割の児童は「よくないです」と言わなければならないのです。ところが、それが言えません。これは子どもたちが悪いわけではありません。「違います。私は4つに分けました」という声を上げるのは勇気がいるのです。
 教師が一言、「3つに分けた人?(手を挙げなさいという意味)」と問うべきでした。すると、授業が活気を帯びるはずです。3つに分けた児童は3割程度ですから、当然「では、2つに分けた人?」「4つに分けた人?」という発問が続き、その理由を言わせることになります。すると話し合いの授業が成立します。教師主導の一斉授業だからこそ可能なのです。

つまり子どもの「皆さん、どうですか」は少数意見を出しにくくさせているのです。特に間違えた意見が言いにくいのです。一部の児童の意見だけで進める授業になっていく必然性があるのです。
 少数意見を大事にするためには子ども一人ひとりの意見を「外在化」させなければなりません。外在化とは一人ひとりの意見を見えるようにすることです。そのために有効な方法は「書くこと」です。自分の意見を書くことは授業における基本中の基本です。
 書いた後はそれぞれの意見を表明することです。30人のクラスであっても、先ほど例にしたような場合は3種類の意見に分かれるだけです。選択肢がない場合であっても、30通りということは普通はありえません。Aさんが意見を言った後、「Aさんとほぼ同じ意見の人?」を挙手させます。さらに「Aさんと違う意見は?」と問うことで、いくつかの意見に分かれます。
 「皆さん、どうですか」「いいです」をやめて、「今の意見と同じ人?」(「今の意見と違う人?」でも良い)と問うことで授業が変わります。「全員参加」の授業になるのです。

(2014年7月15日)

準備中

●中林 則孝
(なかばやし・のりたか)

1951年生まれ。初任者研修指導員。一輪車が小学校に普及し始めた頃、練習を継続すれば大半の児童が一輪車に乗れるようになることを知り、「練習量が、ある時、質に転化すること」を実感する。初任者研修では、スローガンや方向性だけではなく、子どもを念頭に置いた具体的な指導を心がけている。