愛される学校づくり研究会

校長塾 経営力を高めるためのポイント

★このコラムは、平成25年3月から9月まで、26回にわたり、日本教育新聞に連載をしてきた「校長塾 経営力を高める最重要ポイント」の続きです。「ぜひ継続を」という声をいただき、この場をお借りすることにしました。校長としての様々な実践事例を紹介しながら、私が考える学校経営力を高めるためのポイントを示していきたいと思います。主な対象は、若手管理職やミドルリーダーのみなさんです。「なるほど!こういう方法があるのか」「このようなことに心掛けるべきなのか」と、心の中にストンと落としていただけるコラムになるようにいたします。どうぞよろしくお願いします。

【 第19回 】「ゲスト道徳」の勧め(2)
―ゲストの人生に寄り添う道徳―

前回は、向さんをゲストに招いてのゲスト道徳の前半をお伝えした。今回は後半である。

まず、いじめられていることを告白した息子さんに対して向さんのご両親がされたことを書いておこう。告白があった翌日は、共稼ぎであったご両親が勤めを休まれたのだ。これだけでも、傷ついた子どもにとっては心安らぐことである。家族で一日かけてゆっくり話し合う中で、お父さんが発せられた「あなたは何か悪いことをしたのか」という言葉が、当時の向少年を勇気づけたのだった。向さんは、この言葉で、以後学校を休むことはなかったと言われた。

このことを物語にして生徒に伝えることはできる。しかし、実体験者が目の前で語るリアリティには、当然だが及ばない。ここに「ゲスト道徳」の大いなる価値を感じている。

「ゲスト道徳」は、ほとんどの場合は、二つの発問で授業構成をしている。ゲストに寄り添い、自分なりの考えを持たせたり、話し合ったりすることを大切にするには、十分に考える時間を確保しなくてはならない。そのため発問は限定している。

二つ目の発問は、向さんへのインタビューの中から生まれた。向さんは現在、動物を院内学級や介護施設に連れて行き、そこにおられる方々の気持ちを癒すアニマルセラピーをしておられる。この仕事に就かれるきっかけは、小学生時の三年間の入院生活体験にあると言われた。

「目覚めて天井を見ると真っ白なのです。壁も真っ白なのです。あちこち見回しても真っ白な世界なのです。病院なのでしかたがないのですが、いつも思っていました。『病院はつまらない』と」

この「病院はつまらない」という言葉は、まさに向さんの心情を端的に表した言葉だ。この言葉を二つ目の発問とすることにして、授業では次のように、生徒に問いかけた。

「向さんはね、今は、動物を病院や施設に連れて行って、そこにいる子どもや高齢者の心を癒すアニマルセラピーをしておられるんだ。それは、ご自身の入院生活で、『病院が〇〇〇〇〇』と強く思われたからだ。さて、この〇の5文字は、どのような言葉だと思いますか。向さんの気持ちを想像して考えてみましょう」

教室の隅で座っておられる向さんをチラチラ見ながら考えている生徒がいる。目をつぶってじっと考えている生徒がいる。隣と話し合っている生徒がいる。向さんの人生に寄り添っているといっても過言ではない教室となった。多くの生徒は「病院はつまらない」という向さんの言葉にたどり着いた。最後に、向さんからこの言葉が意味するところと、現在、自分が目指していることを語っていただいた。けっして話し上手ではないが、だれもの心に染み入る話はゲストならではである。

(2014年11月25日)

準備中

●玉置 崇
(たまおき・たかし)

1956年生まれ。1979年教員スタート。小学校、中学校教諭を経て、1998年教頭、2004年校長に就任。2007年より愛知県教育委員会指導主事、主査、海部教育事務所長を経て、2012年に小牧市立小牧中学校長に就任。学び続ける子供を育てるために、地域・保護者と一体となって「親子で学ぶ小牧中特別講座」など独自の取り組み実践中。
著書には、「玉置流・学校が元気になるICT活用術―ICTは学校力向上ツール 」(プラネクサス)「学校を応援する人のための学校がよくわかる本(1)(2)」(プラネクサス)「スペシャリスト直伝!中学校数学授業成功の極意」(明治図書)など多数。
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