★このコラムは、平成25年3月から9月まで、26回にわたり、日本教育新聞に連載をしてきた「校長塾 経営力を高める最重要ポイント」の続きです。「ぜひ継続を」という声をいただき、この場をお借りすることにしました。校長としての様々な実践事例を紹介しながら、私が考える学校経営力を高めるためのポイントを示していきたいと思います。主な対象は、若手管理職やミドルリーダーのみなさんです。「なるほど!こういう方法があるのか」「このようなことに心掛けるべきなのか」と、心の中にストンと落としていただけるコラムになるようにいたします。どうぞよろしくお願いします。
【 第18回 】「ゲスト道徳」の勧め(1)
―ゲストのリアリティに圧倒される―
今年度は文部科学省の道徳実践研究校に指定されたこともあり、「ゲスト道徳」という試みをしている。
教員を今より忙しくしてはならないという思いが強く、研究計画づくりから授業実践まで、もっぱら道徳推進教師と私で行っている。担任には、その学級で道徳授業を行う場合はもちろんだが、他の学級で道徳授業を行う場合にも、できるだけ参観し、学ぶように指示している。
「ゲスト」の招聘は、私のネットワークを大いに活用している。どの方も主旨をお伝えし、授業に来ていただくようにお願すると、快諾をしていただける。難しいのは日程調整のみだ。
すでに「ゲスト道徳」ならではの授業が実現できている。その一つを紹介する。
向宇希さんという小学生のときに小児がんで苦しまれた方との出会いがあった。その当時の話を聞きながら、向さんを学校にお呼びして、生徒を向さんの人生に寄り添わせたいという衝動にかられた。この思いが次のような授業となった。
まずは向さんに自己紹介をしていただいた。小学生のとき、小児ガンで三年間ほど入院生活をしたこと、その病気を克服し、中学校には通学できるようになったこと、そのころには抗がん剤の影響で、髪の毛がなくなっていたことなどを、写真も見せながら話してもらった。授業中には、禿げ頭めがけて消しゴムを投げられたことを始め、大変ないじめにあったことも告白していただいた。
そこで発問だ。生徒に「君たちが向さんならどうするのか」と問いかけた。多くの生徒が「学校に行かない。休む」という反応を示した。予想通りだ。
ところが向さんは、わずか一日しか休まなかったという事実を伝えた。そして、「なぜ、向さんはそのようにできたのかを想像しよう」と発問し、向さんの人生に寄り添わせたのだ。
生徒はいじめられていることを教師に伝えて止めさせたとか、友だちが助けてくれたなど、様々な観点から、このときの向さんの思いを想像して発言した。十分に考えを発表させた後、向さんに語ってもらった。固唾をのんで向さんの話を聞く生徒たち。まさにリアリティが作り出す授業空間だ。
向さんは語った。これまで病気で随分と心配をかけてきた両親にこれ以上、悲しませてはいけないと思い、いじめられていることを黙っていたこと、しかし、耐えられなくなり、初めて両親に訴えたことなどが語られた。いじめのことを聞いた両親が翌日とられた行動と向さんに語った言葉。生徒は息をするのも忘れたように、向さんを見つめている。これぞ「ゲスト道徳」だからこその授業場面だ。(次号に続く)
(2014年11月4日)