愛される学校づくり研究会

【第2回】学校はどのように情報化していくべきか(第2回)

※インタビュー形式で、3回に分けてお伝えします。
 

Q.文部科学省が今年度教員向けのEラーニングを始めるそうですが、具体的にはどのようなものですか。

interview_face.gif ITを活用した教員の指導力の評価基準、要するにチェックリストですね。ぼくもその開発にかかわっています。
 例えばあなたが数学の先生だとして、チェックリストを渡される。グラフの指導のところで「グラフツールを使って子どもを教えられるか」といったチェック項目がある。これではできるな、これはできないなというかたちでチェックしていき、どこができないかでケースごとに研修を行うわけです。その研修というのは、WBTでできるものもあれば、知識があればドリルみたいなものでもできるし、集合研修のようなかたちで集まってやらなければできないような研修もある。
 いま教員の研修のほとんどが集まってやる研修です。なかなか集まる時間がないし、理解したかどうかの評価ではなく、「来た」ということで評価されている。何ができるようになったかが評価されないのです。教員は人のことは評価するけれど、自分は評価されない。だからそういうことを少し変えようというねらいもあるのです。
 

Q.誰が評価するのですか。

interview_face.gifまずは自己評価です。このチェックリストは世の中に公開されます。結果ではなく、リストが。文部科学省はチェックリストのここが足りないからこの研修を、というコンサルティングができている教育委員会に予算をつけます。
 自己評価だけでは、十分ではないのでは、という話になってくると、しかるべき評価が必要になってきます。いま上が評価するようにしてしまうと、勤務評定みたいになって、うまくいかないんです。前向きな人は、自己評価で、「私はこれをやらなくては」と、道が標される人もいるかもしれません。まずはそこから変えていこうというわけです。
 

Q.あくまで自己評価ということですね。それをよりよい方向へ導いていくための具体的な策はありますか。

interview_face.gifそのチェックリストが使われているかどうかの調査が入るかも知れません。あなたの学校の先生は、Aランクの人が何人、Bランクの人が何人、Cランクの人が何人、ということを報告しなさいというわけです。主権は地方にあるので強要はできませんが、調査は入れます。
 民間とは違うので、学校に私的な目を入れると、公教育がゆがむといった面もあります。いまはマイナス面ばかり並べていますが、プラスの面もあるんです。そこをどう動かしていくかは、文部科学省にかかっていると言えますが。
 具体策という意味では、まずはリストが公表され、次に「その評価があなたのところには何人いますか?」と聞き、「それにちゃんと対応できていますか?」とまた聞き、「ケアができている」と答えた教育委員会にのみ、予算をつけるという仕掛けがあります。それにより、教育委員会は予算がほしいので、よくわかっているところは変わっていくのです。そして格差が広がっていく。そういう時代です。
 

Q.格差が広がっていくことは、しかたがないことなのでしょうか。

interview_face.gifいまもすでに格差はあります。公平に子どもの数に応じてケアしてきても、使っている学校と使っていない学校がある。お金が等しければ、教育効果が等しいというわけではないのです。これからは効果を上げているところにはお金がつく仕組みになっていくのです。お金は限られているのですから。
 例えば、授業で使うコンテンツがあるのですが、そのコンテンツを使った授業の好例を公募しているんです。応募は特定の県に集中しています。全く応募してきていない県もたくさんある。そういった情報をきちんとチェックして拾いにいく県には、予算がつくのです。
 チェックリストは今月公開されます。そして、毎年修正されていきます。今回初めての試みです。教育委員会では、すでに動いているところもありますが、そのリストを使って、教育資質を確かめるのが行政の責任であると意識できているところは、人事異動や昇給に影響させる、という声もあるのです。教員は自治体の管理下にあるので、文部科学省はどうしろとは言えない。使い方の好例をまた載せていくわけです。
 

Q.ミレニアムプロジェクトでは、小中学校に一人一台のパソコン教室、全ての普通教室に2台、特別教室用に6台を2005年度末までに整備することを目標としていますが、全国の整備状況はどうでしょう?

interview_face.gifここに、教育の情報化に関する文部科学省のさまざまな答申や報告がリンクされています。現在の最新データは、2002年3月末のものです。これが2002年8月に公開されました。2003年3月のデータは、今夏8月に公開されます。
 2002年3月の調査によれば、教室までネットワークがきているのはまだ20%強に過ぎません。これは2004年度までに完了することになっています。ただし、これらの国の予算は、地方交付税として措置されていますから、みなさんの地域がこのお金をきちんと学校の情報化に使うという保証はありません。みなさんの自治体が教育の情報化の整備に積極的になるような働きかけが大切です。もはや、待っているだけで自然にいい情報環境が整備されるという時代ではないのです。
  

Q.予算を執行する役所の担当者の中には、職員室のネットワーク化に対して否定的な方もみえます。導入はあくまでも子どもたちのためのものであり、先生のためのソフトやシステムは入れることができないと。

interview_face.gif一見正論に見えますが、その考えは間違っています。先に述べたように、先生の校務が効率化するのは、あくまで子どもたちへの学習指導に直結することです。
 また、現在、教育の情報化を阻んでいるボトルネックは、先生の情報化への意識が低いことです。校務が情報化していないのだから、情報化のメリットなどが理解できない。そして社会の動向についていけなくなっているんです。ぼくは、これが社会から問題視されていることを自覚してほしいと思っています。
 情報教育が地域をあげて成功している地区は、先生が電子メールで連絡を取り合ったり、Webページを使って教材研究をしたりするなどのコンピュータスキルが高いことからも、教員の仕事が情報化することは、子どもたちに必ず返ってきます。しかも、そこまで教員に力がつくためには数年かかることを考えれば、さっきの形式論で意思決定をしている自治体は、他から大きく水をあけられてしまうでしょうね。
 先生が電子メール使っていないと、電子メールで起こるさまざまな問題や、利便性を子どもたちに伝えることはできないんです。先生の中には、必要ないから使っていないという人も多い。だから使わせることがまず大事なんです。先生が使う一番のメリットは、忙しい校務が効率化するということです。
 戦略を持っている教育委員会は、まず教員に導入し、教員の底上げをして、価値観を少し変えていく。そして子どもを支援できるようにするために、校務の情報化措置を考えていくのです。
 

(2003年8月4日)

堀田 龍也先生column2_title.gif

●堀田 龍也
(ほりた・たつや)

静岡大学情報学部情報社会学科助教授。学校現場での情報教育の授業研究、カリキュラム開発、情報教育教材の開発などにかかわる。大学の研究室にいる時間よりも、学校現場に出かけていたり、政策会議に参加したりしている時間の方が長い。