【第1回】学校はどのように情報化していくべきか(第1回)
※インタビュー形式で、3回に分けてお伝えします。
Q.堀田先生は、情報教育の分野で幅広くご活躍されていますが、ご専門は?
ぼくの専門は、「学校現場の情報化のあり方」についてです。社会の情報化にともない、学校はどのように情報化しなければならないのか。これからの時代に生きていく子どもたちは、何をどこまで知って、何ができなくてはならないのか。同じように、教師はそのような子どもたちを育てるために何をどこまで知るべきで、また、何ができなくてはならないのか。そして、情報社会において学校の役割はどのように変わっていくのか…。こういったことを研究するために、実際に学校現場に数多く足を運び、先生方とともに悩みながら研究を進めています。
また、NHKの学校放送番組「しらべてまとめて伝えよう」(小学校3・4年生向け情報教育番組)、「体験!メディアのABC」(小学校5・6年生向けメディア・リテラシー教育番組)、「わかる算数」(小学校4年生向け算数教育番組)などの番組づくりにもかかわっています。
Q.文部科学省の委員もされているそうですが。
文部科学省初等中等教育局「初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議」の委員をしました。この検討会議の議事録は文部科学省のホームページに掲載されていますが、これは、これから数年の学校における情報化の施策を決めていく会議です。文部科学省初等中等教育局「コンテンツ改善・普及委員会」委員、同「ITを活用した指導力の評価基準検討委員会」委員、同「校内ネットワークの在り方に関する調査研究委員会」委員も歴任しています。
Q.「校内ネットワークの在り方に関する調査研究委員会」では、具体的にどのような研究をされているのですか?
(資料を出して)この報告書は、「校内ネットワークの在り方に関する調査研究報告書」です。校内ネットワークをどのように整備し、活用していけばよいのか、その指針が記されています。いわば、校内ネットワークのガイドラインですね。例えばここに「校務の情報化が重要である」と書いてあれば、これが根拠になります。国が出しているものだから。「国の書類に書いてあるので、うちではこう整備しましょう」というのが自治体。なかなかわかってもらえない自治体の担当者に対して、さまざまな方法で攻めようとしているわけです。文科科学省もこれを出していなかったがために、いろいろ聞かれても根拠になる政策がなかったわけです。
Q.こうした具体的なものは今回が初めてですか?
はい、今回が初めてです。整備が進まないのはお金がないからなんです。お金はないんです。必要だって言うから予算がつくわけで、「必要だ」と言わないところには、お金はないのです。どうして言わないのかというと、ニーズがないわけです。ここが重要だという意識がお金をつけている人たちにないんですね。ミレニアムプロジェクトで2004年までに校内ネットワークを整備します。ところがお役所は、「ケーブルを張ればいいんでしょう」ぐらいにしか思っていない。まあ、それで半分はあっていますが、それは何のためで、どういうふうになっていなくてはいけないかが現実を伴っていない。いわばそれを理解してもらうための啓蒙書ですね。
それに、地方自治体の中には、「国がこういうふうに言っていますから、うちはこういうふうにやらなきゃいけません」という考えがどうしてもあるので、国がこう言っているという根拠となる冊子でもあるのです。だから、「地方交付税でちゃんとお金は入っています」とも書いているんです。
Q.地方に配られるお金は、実際に整備のために使われているのでしょうか。
残念ながら、整備のためとして使われなかった例はたくさんあります。 校内ネットワークのため、コンピューターのためにいくら必要という積算根拠があって、それで額を決めて、地方交付税という税金を国が地方に渡すわけです。それは、国からの歳入でしかなくて、積算根拠はいろいろあるけど、もらったお金はもらったお金。校内ネットワークが必要と誰も思っていなければ、トンネルにして橋にして…ほかにまわってしまうのです。ミレニアムプロジェクトで国が「このように進めなさい」と示していても、地方自治体としては、どう進めたらいいのかわからないのだと思う。何で必要かがピンときていない。やっていいものかどうかがわからないからピンとこないということもあるんですよね。「それでは詳細に解説しましょう」というのが、この報告書なんです。
Q.現場の先生から、本来コンピュータの整備は子どもたちのために行うもので、先生が楽をするためのものではないと言われることがありますが。
先生が楽になるのはいけないことという感覚が、現場にはあるんですよ。先生は大変なものだっていうこだわりみたいなものが。変わることに対しての抵抗もあるでしょう。教育が簡単に変わってしまったら戦争になってしまったりするわけですから。そもそも、今の教育はそういった反省のもとに成り立っている。体制にあまり影響されないようになっているんですよ。それはある意味でしかたがないことです。情報化については、社会が動いているのに学校だけ動いていない。「あれ? 社会とずれているのかなぁ」みたいなところに、気づかないまま過ごしている。
だから今、いろいろな風穴をあけて外部の人が、気軽に学校の情報を知ることができるようにして、情報が行き来しやすい環境を作っているんです。
Q.コンピュータをさわったことのない先生が、いったん自分でも使えることがわかると、どんどん使えるようになりますよね。
そうなんです。先生たちは、ただ使い方を知らないだけなんです。企業だったら知らないのはお前が悪いということになりますが…。これは学校の体質と言うか、カルチャーですね。だから学校を変えるのは実は簡単なことなんです。使えることを知らせればすぐに変わっていきます。ぼくは、学校現場に行くと「こうやったらこうなるでしょう」と実際にやって見せるんです。そうすると、「ああーっ」という反応が返ってきて、「ほら、あなたたちに役に立つでしょう」「できそうでしょう」という話になる。「もっとこうやってみよう」とか、「あちらの学校ではこのようにやったらうまくいった」というふうに、先生方と一緒に試行錯誤をしながらやっていくと、半年くらいでたちまち変わっていくんです。だからこそ、学校にいろんな情報が入っていく仕組みをつくってあげることが重要なのです。
Q.学校教育の情報化と言っても、いろいろな観点があると思うのですが。
学校教育の情報化は3つで成り立っています。1番目は情報教育です。情報教育を進めている学校はすでにたくさんあります。情報活用能力を身につけさせる学校カリキュラムが整っている学校は、みなさんの周りにもあるでしょう。単にパソコンの操作ばかりに目がいっている学校は要注意です。情報教育はパソコン教育ではありません。
いま学校で使っているパソコンは、型落ちの世にもう出回っていないものです。そのパソコンの操作方法を覚えても、社会で役に立たない。そのソフトを使ってどういう問題解決ができるのか、そういったことを教えてください。
2番目は教科におけるIT活用です。
この注目校は、熊本大学教育学部附属小学校です。すべての教師が、教科の授業でITを活用した実践を進めています。先生が授業の場面で使う。例えば算数がわかるようになる。社会科がよくわかるようになる。理科の発芽の場面を、時間を短縮して、映像を見せる。
これからはすべての教室にコンピュータが入り高速回線で接続されコンテンツがそろってきます。これからの時代、子どもたちの学力を強化するのは重要なことですから、先生がそのために、自分の授業の中で、数秒の動画を使ったり、数枚の接写を使ったりするのも、プロジェクターがあってコンピュータがあればできる話。環境をそろえようというのが、2005年までの目標なのです。
Q.いま文部科学省は、教科におけるIT活用を中心に考えているということですか。
そうです。ちょっと前までは、1番目を中心考えていました。なぜかというと教室にITが整備されていなかったからです。3番目は校務の情報化です。
この注目校は、愛知県小牧市立小牧中学校です。校内ネットワークを上手に活用しています。そして、教員の仕事の効率を上げようとしています。社会が学校に求めることは、子どもたちに望ましい体験を通じ、力をつけてもらうことです。その意味で、教員の本務はあくまで「授業」です。授業でITを使い、わかりやすい授業にするのは、このラインにあります。
ところが、教員は忙しい。なぜ忙しいかというと、授業の準備で忙しいわけではないのです。さまざまな校務で忙しいのです。これは、社会から見れば、学校に期待していることとずれています。ですから、校務を軽減したり、効率的に進めたりすることは、学校が取り組むべき重要課題です。その結果生まれた時間や労力を、授業に割いていくのは当然です。
小牧中学校は、校内ネットワーク上で動く、学校用グループウェアを導入しました。そして積極的に校務の効率化・情報の共有化を図っています。その結果、時間を有効的に使って子どもに目がいくようになっているのです。すばらしいことじゃないですか。
(2003年6月30日)