★このコラムは、小牧市立小牧中学校のホームページ「小牧中PTAの部屋」を運営されていた斎藤早苗さんによる保護者コラムです。「愛される学校づくり研究会」から強くお願いして、保護者の目から見た学校や教育について執筆していただくことになりました。ご自身は「私は学校の応援団長」と称しておられますが、さてどのような切り口で学校教育に迫っていただけるのでしょうか。とても楽しみなコラムです。
【 第42回 】「インクルーシブ教育」に想う(3)
◆「みんなが同じ教室で」がいいのかどうか
前回のコラムで話題にした「みんなの学校」では、支援が必要な子どもたちも通常学級で学んでいました。
映画では、そのような子どもたちが少しずつ成長し、「多様性を尊重し、すべての子どもが共に学ぶ」姿を具体的に見ることできました。
感動的な映画だったので、観客の中には「すべての子どもたちが通常学級で学ぶのはよいことだ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、必ずしもそうではない、ということを知っていただきたいと思います。
特別支援に関わっておられる先生や障害のあるお子さんの保護者の方などにお話をうかがうと、「特別支援学級や特別支援学校の方が子どもに合っている、というケースもたくさんある」と教えてくださいました。
子どもの特性に合わせて、また保護者の意向なども考慮して、関係者がみんなで、その子にとってどの選択がよいかを検討されるのだそうです。
ですから「みんなが通常学級で学ぶこと」がベストの選択かどうかということは、それほど単純に答えが出ることではない、ということなのですね。
◆「みんなの学校」で気になったこと
映画を観ながら、私にはずっと気になっていることがありました。画面には出てこない、その他のたくさんの児童のことです。
映画は支援が必要な子どもへの関わりが中心になっていますが、学校にはそれ以外にもたくさんの児童が通っています。そして、同じ教室で学んでいます。しかし、その子どもたちの姿があまり見えてこなかったのです。彼らは戸惑っていないのか、困っていないのか、どう感じているのか、とても気になりました。
「インクルーシブ教育」では、障害がある子どもや支援が必要な子どものニーズに合わせた教育を提供することが求められています。「一人ひとりに寄り添った教育」が求められる、ということだと思います。
そうであれば、これは「気になるあの子」だけでなく、すべての子どもに対して向けられるべきことなのではないかと思うのです。
支援が必要な「気になるあの子」にばかり目がいって、他の子どもはほったらかしになっても仕方がない、ということではないですよね。
クラスの子どもたち全員に対して、それぞれのニーズに合わせた教育を提供する・・・それが理想ではありますが、現実的には、かなり難しいことだろうと思います。
しかし、できる限り「子どもたちの学びを保障する」努力をしよう、という思いを、先生方が持っていてくださるといいなと感じました。
◆クラスメートに求められる「関わる力」
「みんなの学校」の大空小学校では、他の学校であれば「特別支援学級」に在籍しているであろう子どもたちが、通常学級で生活しています。
子どもたちの日常の中では、どんなクラスであっても、大なり小なりトラブルは起きます。
映画の中でも、そんな場面が出てきました。そこでは、先生に「あんたたちはどうするべきだったのか」と問われているクラスメートの姿がありました。
それを見て、「この子たちは、すごく高い次元の(厳しい)要求をされている」と驚きました。子どもたちに対して「自分で考えること」を求める先生の思いが感じられたからです。
そして、子どもたちの姿からは「自分の役割」を強く意識している様子がうかがえて、「子どもたちが育っているな」ということが伝わってきたのです。
支援が必要な子がクラスにいる、という状況が、子どもたちに「自分ができることは何か?」ということを意識させているのだと思いました。
クラスのみんなが気持ちよく学習したり生活したりできるように、一人ひとりが考えているように見えたのです。
これはきっと、日ごろから、先生方が子どもたちに「関わる力」を付けてこられたからでしょう。大空小学校の先生方の教育に感服しました。
◆この経験は大人になってからも活きる
こうして「多様性のあるクラス」で過ごした子どもたちは、おそらく、障害のある人に手を貸すことや、困っている人を手助けすることに、何のためらいも持たないでしょう。自然に体が動くだろうと思います。これは、本当にすばらしいことだと思うのです。
私自身、子どものころには、学校で特別支援学級の児童生徒と触れ合う機会はありませんでした。そればかりか、実際に目にする機会もほとんどなく、障害について言葉は知っていても、具体的にはどのような状態なのか、どのように接すればいいのか、まったくわかりませんでした。
大人になってからも、「何かできることがあれば手助けしたい」という思いは持っていても、どうしていいかわからず、結局声をかけることができなかったことが何度もあります。さらに、親となり、我が子に手本を見せなければいけない立場になりましたが、今でも戸惑うことばかりです。
このような経験からも、「みんなの学校」のクラスメートの自然な態度には、驚きと羨望の思いを抱きました。
いろいろな人々が生きています。誰もが安心して生活できる社会になってほしいと願っています。
今「多様性を尊重する」教育を受けている子どもたちが大人になり、違うことを排除するのではなく、違いを受け入れて、ともに認め合える、そんな社会になるといいですね。
(2016年8月29日)