愛される学校づくり研究会

お母さんは学校の応援団長

★このコラムは、小牧市立小牧中学校のホームページ「小牧中PTAの部屋」を運営されていた斎藤早苗さんによる保護者コラムです。「愛される学校づくり研究会」から強くお願いして、保護者の目から見た学校や教育について執筆していただくことになりました。ご自身は「私は学校の応援団長」と称しておられますが、さてどのような切り口で学校教育に迫っていただけるのでしょうか。とても楽しみなコラムです。

【 第41回 】「インクルーシブ教育」に想う(2)

◆ドキュメンタリー映画「みんなの学校」を観て

昨年公開され話題となったドキュメンタリー映画「みんなの学校」を、先日観る機会がありました。
  「みんなの学校」は、大阪市にある公立小学校(大空小学校)の日常を記録した映画です。
 公式サイトリンク

大空小学校の特徴は、すべての子どもたちに居場所がある学校を目指していることです。映画のタイトルのとおり、「みんなの学校」になることを目指しているのです。
  大空小学校の校門には、次の言葉が掲示されています。

  みんながつくる
みんなの学校
大空小学校は
学校と地域が共に学び
共に協力し合いながら
「地域に生きる子ども」を
育てている学校です。

この目標を実現するために、大空小学校では、特別な支援が必要な子どもも、他人と関わることが難しい子どもも、みんなが一緒の教室で学んでいます。「インクルーシブ教育」の理念である、「多様性を尊重し、すべての子どもが共に学ぶ」が体現されている小学校です。

そうした取り組みを聞いて、全国から、困難を抱える子どもたちが転校を希望してやってきます。
  大空小学校は公立小学校ですから、そうした子どもたちを受け入れてきました。
  その結果、全校児童数の一割を超える特別支援対象児童が通っているといいます。
  マスコミによる報道や映画の公開に伴い、全国から転入・入学希望者が来ているとのことなので、現在はもっと増えているかもしれません。
  それほど多くの支援を要する児童を受け入れることは、教職員の加配や特別な予算措置がなければ、現実的にはとても厳しい状態であるといえるでしょう。
  しかし大空小学校では、そのような特別措置は一切なく、他の学校と同じ枠組みで学校経営がされているとお聞きして、大変驚きました。

映画では、木村素子元校長先生の日常に、他校から転校してきた支援が必要な児童らとの触れ合いを中心にして、密着していました。
  先生方の懸命な関わりのおかげで、初めはなかなか教室に入ることができなかった子が、だんだん教室で過ごす時間が増え、クラスメートと衝突を繰り返しながらも、いつしか仲良く笑い合えるようになる姿に、映画を観た人は皆感動したことと思います。
  「その子、その子に合った関わりを続けていけば、どの子もきっと伸びる」という信念を貫かれている大空小学校の先生方や日常を見ていると、「これがインクルーシブ教育の一つの形なんだな」ということが実感できました。

◆「みんなの学校」をつくるのは・・・

先に書いたように、大空小学校は「みんながつくる、みんなの学校」というスローガンを掲げています。
  この「みんながつくる」の部分に、とても興味を持ちました。
  学校をつくるのは、「教職員」「児童生徒」だけではありません。「保護者」「地域の人」「ボランティア」など、さまざまな人々が学校に関わっています。

大空小学校のように、支援が必要な子どもたちも通常学級で学ぶ、というスタイルを取るためには、何人もの先生方が教室に入らなければなりません。
  しかし、決して教職員の人数が多いわけではないのです。それをどうやって補っていくのか、という問題の解決策は「チーム学校」にあるように感じました。
  学年団はもちろん、すべての教職員が情報を共有し、必要な手助けをしあう体制ができている。管理職が全体をよく見ていて、こまめにフォローを入れている、ということが大空小学校のスタッフを「チーム」にしているのだなと思ったのです。

このような成功事例には必ず、「きっと『スーパー校長先生』だからできたことでしょう。どこでもできることではないよ」という批判的な声が聞こえてきます。
  たしかに、元校長先生の情熱によってもたらせられたさまざまな良い効果が、こうした成果につながっていることはあるでしょう。優れたリーダーシップが集団をよりよく機能させることができる、ということの好例であると思います。
  ですが、映画上映会のあとのトークショーで、木村元校長先生はおっしゃいました。

「『みんなの学校』はどこにでもある普通の学校です。ということは、どの学校も、今すぐに『みんなの学校』になれるのです」

この言葉の意味を、学校関係者だけでなく、学校に関わるすべての人々に考えてもらいたいなと思うのです。
  「みんなの学校」には、地域の人がたくさん登場します。そして保護者も出てきます。開かれた学校には、いつも近所の大人がいて、たくさんの温かい目に子どもたちは見守られているのです。

学校の中が「チーム」として機能していることは、とても大事なことです。
  そしてそれ以外にも、心強い仲間は地域にもいる、ということなのですね。
  学校が、現状を丁寧に説明し、地域や保護者に協力を求めれば、その求めに応じて手助けしてくれる強力なサポーターがいるということです。
  映画の中には、立場を超えて協働している大人たちの姿がありました。

もう一度、大空小学校の校門に掲示されている言葉を思い出してください。
 「学校と地域が共に学び 共に協力し合いながら 『地域に生きる子ども』を 育てている学校です」
  「協力し合う」ことはもちろん大切なことですが、「学び合う」ことの大切さにも触れられています。
  学校側の意識が、「お願いしてやってもらう」という気持ちから、「一緒に学び合いながら協力し合う」という思いに変わっていけば、きっとどの学校も「みんなの学校」になれるのだろうと思います。

すべての学校に「インクルーシブ教育」が求められるようになった今日、学校の在り方が問われているように思えてなりません。
  夏休みに入り、少し余裕がある今、先生方には「チームになる」ことにも目を向けていただけるといいですね。
  それぞれの学校の現状に応じた「地域連携」や「協働」を、みんなが本気で考える機会が持てることを願っています。

(2016年8月1日)

斎藤さん

●斎藤 早苗
(さいとう・さなえ)

愛知県在住 の3人の子供たちの母。
小牧市立小牧中学校にて、2014年度に、開校以来初めての女性PTA会長を務めた。
2012年春、玉置崇先生が校長として小牧中学校へ赴任されたのを機に、学校HP内の「PTAの部屋」の自主運営を始め、3年間にわたり、PTAの各委員会活動だけでなく、学校HPで発信される「学校の想い」に応えながら「保護者の想い」を発信して、学校と先生を応援してきた。
学校と保護者の温かい交流がある「愛される学校」が、全国に増えるといいなと願っているお母さん。