愛される学校づくり研究会

お母さんは学校の応援団長

★このコラムは、小牧市立小牧中学校のホームページ「小牧中PTAの部屋」を運営されていた斎藤早苗さんによる保護者コラムです。「愛される学校づくり研究会」から強くお願いして、保護者の目から見た学校や教育について執筆していただくことになりました。ご自身は「私は学校の応援団長」と称しておられますが、さてどのような切り口で学校教育に迫っていただけるのでしょうか。とても楽しみなコラムです。

【 第40回 】「インクルーシブ教育」に想う(1)

◆「インクルーシブ教育」のこと

もちろん、学校の先生方はよくご存じであろう「インクルーシブ教育」(インクルージョン教育とも言うそうです)ですが、残念ながら、一般の人々や保護者の中ではほとんど知られていません。
  よほど注意深くニュースを見たり、教育関連の情報を見ていなければ、言葉を聞くこともなく、どのような教育を指すのかも知らずに過ぎていってしまうでしょう。
  しかし、この「インクルーシブ教育」は、先生や児童生徒だけでなく、保護者や地域の方々にも大いに関わってくることなのです。
  ですから、教育関係者だけでなく、保護者や地域の方々にも知っていただけるといいなと思います。

文科省の資料を見ると「インクルーシブ教育システム」と表記されていますが、もともとは国連の「障害者権利条約」に批准するように法整備を進めていく中で生まれた考え方だそうです。
  「インクルーシブ教育」とは、障害の有無に関わらず、誰もが地域の学校で学べる教育のことです。
  今年4月(2016年)に、「障害者差別解消法」が施行されたことに伴い、障害のある人(子ども)に対する不当な差別的な扱いを禁止し、学校には合理的配慮の提供が義務付けられることになりました。
  つまり、すべての学校が「インクルーシブ教育」を行わなければならない、ということになったわけです。

◆特別支援学級のことだけではありません

あぁ、これは特別支援学級のことね、と思われた方も多いだろうと思います。

 しかし、文科省の資料をよく読むと、どうやらこの「インクルーシブ教育」とは、特別支援教育(特別支援学級)のことだけを指している、というわけではなさそうです。
  少し長いですが、文科省の資料からの抜粋を、以下に一部引用します。

  • 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。
  • インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。

(文部科学省:共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要より一部抜粋)

「多様性を尊重」し、障害のある者と障害のない者が「共に学ぶ」仕組み・・・これは、公立学校における特別支援学級のことだけではなく、通常学級のことも含まれているのです。

通常学級には、最近よく耳にするようになった「ちょっと気になる子」が複数在籍していることも珍しいことではないそうです。
  多様性を尊重することは、通常学級にも求められています。
  それは先生が、児童生徒一人ひとりが、その子に応じた学びができるように「合理的配慮」をしなければならないことを意味します。
  担任の先生の負担がさらに増えることは、容易に想像できます。
  もはや、一人の担任では抱えきれない状態になってきているだろうということは明らかだと思います。

◆みんなで考えたいこと

では、どうすればいいのか? 私は、そのカギになるのは、学校の「チーム力」ではないかと感じています。

保護者の皆さんにぜひ知っていただきたいのは、こうした学校の現状を見て、「それなら、もっと特別支援のクラスを増やせばいいんじゃないの?」「先生の人数を増やせばいいんじゃないの?」という安易な解決策に頼っていては、これからの学校は立ち行かなくなる状況になっている、ということです。

通常学級に在籍している「気になるあの子」を特別支援学級に追いやることは、子どもの学びを保障することだと言えるのでしょうか。
  インクルーシブ教育が目指すのは、いろいろな状態の子どもたちが「共に学ぶ」ことです。
  すべての子どもたちが共に学べるようにするにはどうすればいいのか、という大きな難しい課題を、子どもに関わる大人がみんなで考えることが必要ではないかと感じています。

(2016年7月4日)

斎藤さん

●斎藤 早苗
(さいとう・さなえ)

愛知県在住 の3人の子供たちの母。
小牧市立小牧中学校にて、2014年度に、開校以来初めての女性PTA会長を務めた。
2012年春、玉置崇先生が校長として小牧中学校へ赴任されたのを機に、学校HP内の「PTAの部屋」の自主運営を始め、3年間にわたり、PTAの各委員会活動だけでなく、学校HPで発信される「学校の想い」に応えながら「保護者の想い」を発信して、学校と先生を応援してきた。
学校と保護者の温かい交流がある「愛される学校」が、全国に増えるといいなと願っているお母さん。