愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第9回 】授業研究の何を解決するのか

前回の愛される学校づくり研究会では、「第8回 授業研究で大切なこと」で述べた内容をもとに、現場での授業研究の実際について話し合い、私たちの提案する授業検討法は何を解決できるのかを考えました。

提案される授業の質を問う意見が出ました。特にあらかじめテーマが決まっている場合、そのテーマに迫る授業でなければ検討会は活性化しないというわけです。この場面は想像がつきます。例えば、「言語活動の活性化」というテーマで授業研究を行った時を考えてみましょう。子どもをグループで活動させて発表させるといった授業で、今までの授業と課題も変えない、発表もグループの代表者が順番に発表して授業者がまとめるだけ。何らかの提案がなければ、どこを評価していいかわかりません。通り一遍の発言にどうしてもなってしまいます。提案のないことを指摘すれば、どうしてもネガティブな発言になります。場の雰囲気を壊すので、発言を控えようとする方も出てきます。子どもが話し合えるように課題を工夫した、発表の方法を変えてみるといったテーマにそった何らかの挑戦があれば、評価すべきことが明確になります。たとえ上手くいかなくてもそこから学ぶことはたくさんあります。検討会は活性化するのです。

場の雰囲気ということも大切だという意見が出ました。特に若い先生は自分の発言がKY(空気読めない)であるかを気にします。どんな意見も温かく受け止めてくれる空気がないと、どうしても発言を控えてしまいます。一方、若い先生は授業を見る視点が育っていないという指摘もありました。若い先生に限らず、授業を見る視点がなければ検討会の質は高まりません。参加者の質を高めるためには、検討会で視点を広げるような発言に出会うことが必要です。ニワトリが先か卵か先かという問題で、なかなか改善できないという話です。

そして、もう1つでてきたのが司会者の問題です。順番に指名して意見を発表してもらうだけで、それをつなぎ、焦点化できなければ議論は拡散するばかりです。提案性の高い授業であっても、散漫な検討会になってしまいます。授業と全く同じです。授業検討会の質は、司会者に頼るところが大きいのです。学校訪問時の授業検討会の司会を教務主任が行う地区があります。教務主任によって授業検討会の質が大きく変わるというので、出席する指導主事が教務主任の司会を指導するようにしたというような話を聞いたこともあります。

このような意見も元に授業検討会を2つの軸でとらえ直してみました。まず、授業研究のテーマや参加者の気づきを「気づき⇔テーマ」という軸としました。「気づき」は参加者が自分の視点でとらえた授業についての意見、「テーマ」は授業で提案された内容です。もう1つの軸は、「拡散⇔焦点化」という議論の方向性です。次の図を見てください。2つの軸をもとに授業検討会をマッピングしてみました。

授業検討法の位置づけ

左下にあるのが、先ほどのような問題を抱えている、「通常の検討会」です。先生方の気づいたことが発表されるだけで、意見が焦点化されることなく拡散したまま終わってしまうものです。その対極として、「研究指定校や研究会」が中央から右上に位置します。学校や研究会のテーマがはっきりしているので、提案授業も主張がはっきりしたものになります。力のある先生方が検討会を主導すれば、右上に位置します。しかし、授業や参加者の質によっては、「通常の検討会」に近づいていくことになります。それに対して私たちが提案する授業検討法はどうでしょう。グループを活用した「3+1」授業検討法は、参加者が意見を言いやすい方法です。若手も多くの意見に触れることで授業を見る視点が広がります。「3+1」を意識することで、グループ内で自然に焦点化されますので、司会者の技量の影響も余りうけません。その結果、先ほどのような問題があったとしても。左側の中央から上方に位置します。もう1つの「3シーン授業検討法」は、検討に入る前に既に3シーンに絞られているので焦点化がされています。司会の技量によらず、焦点化できる仕組みなのです。若手も、自分がチェックした場面とベテランのチェックした場面の違いを意識することで授業を見る視点が育ちます。また、焦点化された場面に集中して検討が進むので、参加者の気づきとテーマとの関連が明確になりやすいという利点もあります。そのため、上方の左から中央に位置します。

私たちの提案する授業検討法が絶対的に優れているということではありません。目指したのは、どんな提案授業でも、どんな参加者でも、そしてどんな司会者でも、検討会が焦点化され教師集団が成長する授業検討法なのです。

次回は少し視点を変えて、私たちが提案するもう1つの検討法、「ICTを活用した授業検討法」に関連して、ICTと授業研究の接点について考えてみたいと思います。

(2013年11月25日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。