愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第7回 】2つの授業検討法の課題

8月の愛される学校づくり研究会では、来年2月のフォーラムの検討もかねて当日予定している3人の授業者による模擬授業と授業検討を行いました。

1つ目は、中学校国語の文法の授業で、「こそあど」言葉の「これ」「あれ」と「それ」の違いを考えるものでした。「3シーン授業検討法」を使って授業検討を行いましたが、時間が少ないため今回は2シーンに絞りました。「3シーン授業検討法」では、検討会の最初に参観者の心が動いたところ1分区切りで挙手し、多くの方の心が動いた場面を中心に検討を行います。若手など授業を見る視点が育っていない参観者は、名人や達人の授業ビデオを見てもほとんど手が挙がらないということも聞きます。しかし、今回の授業は、私の目にはさすがと思うところがとても多く、手元のメモに従えばすべての時間帯に挙手することになります。一つも手が挙がらないと同じことです。もちろん、自分の中で再度検討していくつかに絞り込んで挙手しましたが、時間が許すのならすべての場面を話題にしたいと思いました。優れた授業であれば、それだけ深く検討すべきことが見えてくるのです。

皆さんの心が多く動いた場面は、「子ども役から予想外の反応がでて、授業者が対応に苦労した場面」と「小道具を取り出して、子ども役を引き付けた場面」でした。なんとなくこうなるという予想はついていたのですが、授業者の「受け」の技術や引きつける「工夫」が焦点化されました。これらの場面から学ぶことはとても多かったのですから問題はないといえばないのですが、この授業の内容からいうと物足りなさを感じました。この授業のねらいである、「『それ』は、自分と相手が同じ領域にいる時と自分と相手が異なる領域にいる時では使われ方が異なることに気づかせる」ための授業の組み立て方や、発問といったことについて検討できなかったことです。後日授業者にお会いした時に、「このやり方では授業研究はしづらい」という言葉が出てきました。「3シーン授業検討法」では、ある場面が取り出されて検討されます。どうしても授業技術やその瞬間の対応といった「点」が話題となりやすい傾向があります。この授業者は、「目標を達成できたかどうか」「その要因は何か」「改善策は何か」を考えることが授業研究では大切だと考えています。確かに、授業の「目標」をもとにそこにいたる「流れ」を重視する視点からすれば、「点」で検討するこの方法では不十分だという意見は納得できるものです。今回の検討会について私の感じたことも、同じところに根差しているように思います。実際に試してみて「3シーン授業検討法」に対して同じように感じる方も多いのではないかと思います。今回の授業を研究会の会員で自由に検討し合えばもっと深い検討ができたかもしれません。

では、なぜ私たちがこのような検討法を提案するのでしょうか。それは多くの学校での授業研究が形だけのものになっているからなのです。第1回のコラムでも述べたように、主体的に参加してもらうことが、まず授業研究を意味あるものにする第一歩です。先ほどの授業者が考えるような授業研究が全員参加でなされている学校であれば、このような検討法は必要ないのです。

授業研究は料理と似ているところがあります。よい素材(授業)と腕のよい料理人(参加者)がいれば、素材を活かした素晴らしい料理をつくって食することができます。しかし、素晴らしい素材も料理技術がなければつまらない料理になってしまうこともあります。素材が悪い時には、繊細な料理技術を駆使しても凡庸な料理法に及ばないこともあります。意識の高い先生方が集まった研究会などは別として、学校現場では素晴らしい素材と腕のよい料理人の両方がいつも揃うとは限りません。また、腕のよい料理人がいても数人では、残りの方はただそれを見ているだけになってしまい、主体的に参加することはできません。私たちは、どのような素材であっても、どのような料理人であっても、一定水準以上のものができる料理法(授業検討法)を提供しようと考えているのです。

2つ目の授業は小学校社会の日本の海洋を考えるものでした。こちらは、グループを活用した「3+1授業検討法」で検討を行いました。授業者はICT機器を使いテンポよく進めていきます。「日本のまわりの海洋はどのようになっているのか」を「ノートに説明を書くことができる」と授業のゴールを具体的に示すことで、子どもたちが安心して授業に参加できるようにします。地図をもとに子どもに気づかせ、その気づきを整理し、子どもでは気づけない知識はこちらから与え、考えるための足場をつくります。日本が海洋大国であり、その資源はとても大きなものであること、そして領土問題はこの海洋資源を抜きしては考えられないことなどについて考えさせました。

「ICTの活用法」「板書の活かし方」「子どもに興味を持たせ、印象付けるためのクイズの使い方」「ずれた発言を修正させる技術」「物わかりの悪い教師を演じて子どもの発言内容を精緻化させる技術」「子どもを挑発して考えを深めさせる技術」「調べさせる知識と教える知識の切り分け」・・・、書ききれないほどたくさんのよいところがある授業でした。「よかったこと」を3つ、「改善点」を1つ見つける「3+1」というルールで行う検討法にふさわしいものだと思いました。

各グループでの検討後の全体発表は、ほとんどが「ゴールが明確」「資料の使い方」「テンポのよさ」でした。授業者から、「同じ意見は省略したら」という意見が出るほど各グループからの発表は似たものになってしまいました。通常であれば模造紙に各グループのまとめを貼り、整理してからの発表なのでムダな時間は減らせるのですが、それにしてもあまりに同じような意見ばかりでした。このことをどう考えるかが問題です。この検討法のねらいの1つは、よいところをたくさん発表し合うことで互いの視点を学び合い、自分の授業に反映させることです。全体での発表よりは、グループでの話し合いが主です。そういう意味では、各グループでどのくらい多様な意見が出たかが問われます。今回の例が教えてくれるように、まとめる過程で多様性が失われることもあります。あるグループでは、最後にまとめることを意識して個人の意見発表を3+1に制限していました。最初からまとめてしまうと同じようなことばかりが発言される可能性があります。このことには注意が必要です。

この検討法は、1つの授業からできるだけ多くのことを互いに学び合うための方法です。3+1にまとめるのはあくまでも、ポジティブなことをたくさん、ネガティブなことを少なく話題にするための仕掛けです。まとめの発表よりも、まとめる過程でのグループでの話し合いを大切にするものです。このことをきちんと伝える必要があると感じました。

2つの模擬授業と授業検討から、フォーラムへ向けての課題が明らかになりました。私たちの提案する授業検討法は、あくまでも授業研究がうまくいかない時に活性化させるための方法の1つであって、決して万能なものではないこと。よいところもあればいたらないところもあること。このことを、フォーラムの冒頭でしっかりと参加者の方々に伝える必要があるということです。素晴らしい授業であったからこそ、このことが明確になりました。

3つ目の小学校理科の実験の授業は、子ども役が終了後も考え続けるような素晴らしいものでした。ここでは、会員企業につくっていただいたソフトのプロトタイプを使って授業検討を試みました。まだまだ、どのように活用していけばよいか未知数ですが、その可能性はとても大きいという手ごたえを得ることができました。これからフォーラムまでにその活用方法の検討とソフトの改善を続けたいと思います。ICTを活用した授業検討法についてはフォーラム当日まではシークレットにします。参加される方は是非楽しみにしてください。

次回は、授業研究にとって大切なことは何か、今までの研究会を少し振り返ってみることで考えてみたいと思っています。

(2013年9月23日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。