★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。
【 第24回 】「好き」こそ教師
ふるさとのわが街は、今、桜梅桃李の花が爛漫の季節を迎えています。この欄を担当させていただいて3度目の春を迎えました。新城市では、4月2日に「全国さくらシンポジウム」が開催されました。「あん」の原作者であるドリアン助川さんと映画監督の河瀬直美さんとの対談があり、「新城の桜の美しさ」が、日本はじめフランスやドイツ、東南アジアなど世界で放映されるそうです。桜は桜なり、梅は梅なり、一人の子供はその子なりの輝きを放ってほしいとの願いを込めて書いてきました。そして、その根底にあるのが、最大の教育環境は教師であり、教師の資質力量の向上こそが、その鍵をにぎるとの信念でした。独りよがりな見解もあったでしょうが、子供の幸せを願う気持ちは、読者の皆様と共通するものと思います。現在の教育が直面する諸問題において、考えることは多々ありますが、今回は、最終回ということで、小学校・中学校の教師の資質要件として思うところを記してみます。
「人が好き」が第一条件。研究者と教育者を比較して、研究・追究という構えは双方とも必要ですが、教育者として不可欠な要素は「人が好き」ということです。どちらかといえば、性善説に立ち博愛的・楽天的である方が教師に向いているのかもしれません。教師から子供に対して「あなたが好き」というオーラが発せられていれば、子供も安心して接することができるのではないでしょうか。「人が好き」であれば、その人のために、多少の苦難があっても、前向きに挑戦して乗り越えようという気力が伴います。積極的に子供や保護者とかかわり、共に問題解決に当たろうとします。また、教職員の仲間とも相談して問題を共有しようとします。そして、苦労し頑張って問題を解決し目標を達成したときには、自分が教師であって良かったという喜びにひたることができます。逆に、子供との関わりができなかったり、対人恐怖症であったりする場合は、教育者には適さないと考えていいでしょう。
広い心で励まし褒める「おせっかい」で子供は輝く。その人を大切に思うからこそ生まれる「おせっかい」のはずですが、最近では、「おせっかい」自体が悪いことのように考えられるようになりました。小中学校においても、教師は「見守り」「支援し」「気づかせ」「刺激を与えず」「話し過ぎない」などの「おせっかい」とは逆のキーワードが現場を席巻しています。そのせいか、教師として大切な資質である「指導し」「声をかけ」「手をかけ」「師範する」といった子供に「働きかける力」が弱まっていると思われます。どちらも大切な教育的資質ですが、バランスが肝要です。とはいえ、子供でも大人でも、おせっかいと思っても褒められれば嬉しいもので、やる気も湧いてきます。タイミングを得て間髪を容れず褒め言葉を発することができる教師は、指導力があります。教材に精通し子供を熟知してできることで、結果、子供も教師を信頼し後を付いていきます。教師を続けて務める覚悟ならば、「おせっかい」の言葉かけの力を磨いていきたいものです。
第二は「自然が好き」ということです。虫や魚、動物や草花、川や海など、子供たちは、自然が大好きです。自然を題材に、子供と教師との共通話題も生まれます。自然に触れ体験することでフィールドワークの力が付きます。中央教育審議会や教育再生実行会議で話題となっているアクティブラーニングの素地も培われます。しかしながら、最近では、教師が自然に対して興味関心が薄い、疎いという傾向がみられます。これは、教師自身の育った生活環境や、高校時代に地学・生物や地理を学んでいないことに起因するのではないかと考えられます。高校で学べないなら、こうした教科を大学の免許取得の必須単位としてもらいたいものです。そして、子供が高い関心をもつ自然について、学びを深めたいものです。
第三は「学びが好き」ということです。教育者は知的な職業です。生涯にわたって学習者であるという教師の学びの姿勢を子供たちに感じさせたいものです。教師自身が常に新しい知識技能を求め、楽しく挑戦し体験する姿勢であれば、子供に自然と伝わるものです。よく本を読んでいる先生の話題は、常に新鮮で魅力があります。よく文章を書いている先生の赤ペンは、的を射て子供の心をとらえ、学習意欲を湧き立たせます。しっかり教材研究をしている先生の授業は、メリハリがある楽しい授業です。一人一人の子供の状況を熟知して学級経営をしている先生の学級の子供の表情は、明るく輝いています。教師自身が、学びが大好きであれば、自ずと子供たちも学びが大好きになります。
「明るい場所」「動きのある場所」「魅力のある場所」に、子供の心は動く。照明灯の明るさに魅かれて虫が集まるように、餌の動きに誘われて魚が移動するように、心をとらえる動画やゲームに人が夢中になるように、教師や教室や授業が、明るく動きのある魅力あるものであれば、子供は楽しく学校で学べます。その中核は、教師です。担任教師のこうした資質が、子供の学びの心に灯をともす大きなファクターです。そうした教師をめざして「人が好き」「自然が好き」「学びが好き」を心がけたいものです。くどいようですが、人・自然・学びが教師自身の趣味であり楽しみであれば、教師人生ほど味わいがあり面白い職はありません。
子供・保護者・地域住民とともに、共に過ごし共に学び共に育つ共育活動を展開し、教師人生をおおいに楽しもうではありませんか。日本社会が人口急減時代に突入するなかで、学校という空間のもつ役割が飛躍的に増すように思います。学校を拠点として、地域住民こぞっての活動を展開し、顔と名前のわかるネットワークを広げて、活力あるまちづくりを展開する時代が訪れます。人口減少、何をかいわんや、学校は地域における存在感を増し、いっそうに輝きを放つようになる。その一翼を担うのが教師です。話が大きくなり恐縮でしたが、長い間のご愛読、ありがとうございました。
(2015年4月13日)