愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第16回 】学区を歩き、平和と命を考える夏に!

「夏季休業中」ならではの行動をしたい。先生方は、毎日、さまざまな研修に励んでみえることと思います。多少の時間的な余裕もでき、久しぶりの家庭サービスにいそしんだり、旅にでかけたりする方も多いことと思います。貪欲に充実した時間を過ごしていただきたいものです。そんななかで、私としては、2つのことを、ぜひ実行していただきたいと願っています。

1つは、学区を自分の足で歩いてみることです。自分で動いて、学区の輝く宝石を見つけて、それを子供や同僚に語ってほしいのです。ホームページや学級通信などで、保護者や地域の人にその価値を伝えてほしいのです。教育は、教師や子供の足がふるさとの地にしっかりと着いていなくては、根無し草や糸の切れた凧と同じです。ふるさとの大地を歩いて五体で確かめ五感で感じて、学んだこととつなげて考えることが大切です。そうすることで本物になり、ふるさとが好きになり、ふるさとへの愛が芽生えます。

教師は、「学区の三宝を自慢する」先鞭をつけたい。「学区の三宝」とは、学区にある自然と人と歴史文化の3つの宝です。宝は探さなくては見つかりません。宝は磨かなくては輝きを増しません。「ふるさとを愛し、誇りに思う子供」を育てるためには、まずは、その学校に赴任した教職員が、学区を散歩して三宝を見つけてその価値に惚れ学区を愛する人になれるか、その努力をするかが肝心なのです。担任が子供たちの日々生活する学区を知らずして、また学区の三宝に対する愛なくして、どうして愛郷心をもった子供を育てることができるでしょうか。

「消滅可能性都市などと言わせない」気概をもちたい。日本は人口減少社会に突入し、このままでは消滅する市町村が多数生まれるといった報道が世間を騒がしています。何もしなければ、予測どおりになるでしょう。子供たちは、成長するとふるさとを離れ都市部へ移り住むという高度経済成長以来の流れが続いています。これを食い止める手段は、ふるさとが都市部より魅力あることを学ばせればいい。若者をふるさとにとどめ担い手とする手段は、「故郷の三宝」の存在と価値を学ばせればいい。そうすれば、ふるさとの未来につながる道筋を拓く術が見えてきます。

ふるさとを愛する教師に教壇に立ってほしい。逆に、ふるさとを愛せない教師には教壇に立ってほしくない。なぜならば、子供は教師の鑑だから、教師のふるさとへの想いは、言葉に出さなくても子供に伝わってしまいます。同様に、市役所の職員はじめ行政に携わるものは皆、ふるさとを愛し三宝の価値を発信するスポークスマンでありたい。ふるさとを愛せない者に、ふるさとにプラスとなる行政はできない。その意味で、この夏、ふるさとの街を歩いてみましょう。学区を歩いて三宝を発見しましょう。ところで、ふるさとで生きる人々のささやかな幸せや温もりは、国家や世界の平和があって初めて得られるものです。そこで、次に、「平和」について考えてみました。

2つは、夏は「平和」と「命」について考えを深める時です。敗戦後69年を経て、戦争体験は確実に風化してきています。8月6日の広島原爆投下、7日の豊川海軍工廠の空襲、9日の長崎原爆投下・・・そして、15日の玉音放送による降伏、9月2日の戦艦ミズーリー号での降伏文書調印へと続きます。第二次世界大戦による犠牲者数は、全世界で5千万人とも8千万人とも言われます。日本でも、2百万人の軍人と百万人の民間人が犠牲となっています。戦争は、加害者も被害者もありません。戦争ほど悲惨なものはありません。庶民を不幸のどん底に陥れる非人道の地獄の沙汰です。原爆はその最たるものです。戦争の悲惨な歴史と非道がしっかりと刻印された場所が多くあります。永久に消えない永遠に忘れられることのない悲しい刻印です。教育で「生命の大切さ」を扱うならば、この歴史の事実に目をそむけてはなりません。

教師は「現代史」や「平和文学」に関心をもちたい。歴史の事実を学び考えるのは社会科の使命です。なかでも今と関係の深い現代史や近代史については、授業で大切に扱われたいものです。「グローバルな人材の育成」が学校教育に求められますが、自国の歴史文化を語れないようでは、世界から相手にされません。
 また、「命の大切さの指導」も常に学校教育に求められています。主に道徳で扱いますが、国語科で扱う戦争を題材とした「平和文学」は、子供たちに強烈なインパクトをもって命の尊さを考えさせます。教科書教材としても、「ヒロシマのうた」「アンネの日記」「お母さんの木」「一つの花」「生ましめんかな」「人間をかえせ」など、数多くの教材が掲載されています。子供たちは授業をとおして、人間の業、生命の大切さ、戦争の悲惨さ、人の絆、生きることの尊さなど、多くのことを学びます。

教師は69年続いた「平和」を守るべく未来を展望したい。教育者にとって必要な「人間性」と「専門性」は、磨き続けないと錆びてしまいます。この「人間性」の根底をなすのは「人間愛」です。愛に育まれて人は人間らしく成長し、成長することで個性が発揮されます。戦争は、この愛も個性もズタズタに引き裂いてしまうことは、歴史の事実が証明しています。第二次大戦後も地球上のあちこちで戦争が続き悲劇が繰り返されています。そんななかで日本は奇跡的に平和を維持しています。この平和を守り、世界平和へと発展させる術は、教育により、一人一人の心のなかに「平和の砦」を築くほかはありません。この夏、教育に携わる者の一人として、「平和」と「命」について考え未来を展望してみましょう。

(2014年8月12日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。