★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。
【 第15回 】「ふるさと自慢」ができますか?
「親が大好き」「先生が大好き」「近所や地域の人々が大好き」と胸を張って言える子供たちは、当然のことながら、「家庭が大好き」「学校が大好き」「学区が大好き」と大きな声で言える子供たちです。家族や家庭を起点として、先生や学校、住民や地域の好きな子供たちは、ふるさとの良さを知っており、それを外に発信することができます。そんな子供たちなら、きっと「自己肯定感」も高いことと思います。
「わが町」「わがふるさと」にどれだけ愛着をもっているかは、教師にとっても大切なことです。わが町の「自然」「人」「歴史文化」の価値を教師がどれだけ知っており愛着をもっているかという、教師の発する「ふるさとオーラ」の差は、子供たちの心に反映します。あなたの「ふるさとオーラ」は、どの程度ですか。つらつらと文章に表現でき、とうとうと話すことができれば、合格です。
そこで、今回は、わたしの「ふるさと自慢」の一端を紹介させていただきたいと思います。あくまでも一端です。わが「ふるさと新城」において、「自然」は自慢の一つです。なかでも特徴的なのがジオ(地質・岩石)です。
新城は、ジオの宝庫です。1億年前の地殻変動により中央構造線ができ、1700万年前には海底となり、1500万年前には大火山活動。そして、5000年前に人間が住み始め、1300年前に鳳来寺山が開山、450年前の戦国時代と、ロマンあふれる悠久のジオの歴史が展開します。豊富な地質・岩石、名勝・景勝の数々、大地の成分を含んだ水は母なる豊川となり、田畑を潤し農産物を育て、産業を支え流域文化を形づくり、万物の命を育んでいます。
新城のジオや自然は、外部から多くの評価をいただいております。例えば、古くは、昭和一けたの時代に「国指定の名勝・天然記念物」として、阿寺の七滝、乳岩(ちいわ)・乳岩峡、鳳来寺山が指定されています。現在、市内の天然記念物の数は、国指定が6か所、県指定が6か所、市指定が28か所あります。さらに指定はされていませんが、「百間*滝(ひゃっけんだき/*印の正しい字体は「門」の中に「月」)」「鳳来峡」「寒狭峡(かんさきょう)」など多くの名勝があります。そして平成19年に「鳳来寺山」が「日本の地質百選」に選ばれましたが、「温泉」「棚田」「森」「にほんの里」「滝」など10数か所が日本百選に選定されています。新城のジオや自然の価値には「定評がある」と言っても過言ではありません。
全国的にも特筆すべき素晴らしい自然が新城にあるにもかかわらず、現代では、子供たちだけでなく親たちも身の周りの山や川などの自然との距離が遠くなってしまいました。河原にころがる石に込められた地球の歴史、地質の違いによる植生の変化や生き物たちのくらし、空を流れる雲や風の動きに秘められた気象の変化、自然と人間のかかわりのなかで生まれてきた言い伝えや格言など、知識や体験が乏しくなるとともに、風を読んだり空気を読んだりする感性も弱くなってきました。
新城には「鳳来寺山自然科学博物館」があります。ここは自然の宝庫である新城市の「自然の価値」を発信する拠点です。そのルーツは、昭和24年に鳳来寺山麓で結成された「東三河の地質と鉱物の会」に発します。地学の調査・研究の高まりのなか、鳳来寺駅の一角に「田口鉄道自然科学博物館」が開館され、鉱物や岩石、化石、動植物などを収集・展示する拠点が築かれ、昭和38年に現在ある博物館の開館に至りました。当時としては、自然系の博物館は珍しく、先人たちの思いの熱さが伝わってきます。以来50年、地元市民の献身的なご協力、学術委員はじめ研究者・協力隊員のご理解、全国トップクラスの会員を有する「友の会」会員のおかげで、博物館の今日があります。
今こそ、ジオや自然に長けた人材の育成が必要なときです。復興・復帰への道は険しいですが、東日本大震災・福島原発事故は、未曾有の大災害をもたらしました。東海・東南海・南海大地震も、いつ襲来しても不思議はないと言われています。温暖化をはじめとした局地的豪雨や竜巻、雹などの異常気象も多発しています。また、化石燃料をはじめとしたエネルギー問題も深刻です。人類の未来に向けて、深海や宇宙への期待には大きなものがあります。わたしたちは、謙虚な気持ちで、地球や宇宙を見つめ、持続可能な社会を見出す責任があるのではないでしょうか。そのためにも、ジオや自然を学ぶ素地となる「ふるさとの山河への愛着」が大切です。
愛知の子供たちよ、自然を学びたければ新城へ集え!大上段にかざした言葉ですが、心底から思います。県下でも沿岸部や平野部では、山すら無い地域があります。まして、清流や神秘的な岩石や化石、景勝は、あるところにしかありません。幼少年時代に自然に浸ることの大切さは、誰しも異存はないと思います。わがふるさと新城では、中央構造線の露頭が見られ、松脂岩や蛇紋岩などの多種の岩石を手に取って確かめられ、貝や木の葉の化石に太古をしのび、渓流や瀑布、千枚田や梅の里にやすらぎを覚え、わが命が自然とともにあることを実感できます。それが新城市です。
「うさぎ追いしかの山、こぶな釣りしかの川」の体験を子供たちに味わわせたい。 唱歌「ふるさと」の歌詞は、時代が移れども、子供の成長にとって必須の要件です。それが新城市には満ちあふれています。今回は「ふるさと自慢」に終始してしまい恐縮です。ぜひ、この文章を読んでくださったあなたも、「ふるさと自慢」を吹聴し、「ふるさとオーラ」を発散してみてください。
(2014年7月14日)