★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。
【 第9回 】消極的情報開示姿勢が対学校不信をあおる
学校ホームページの運用状況はここ10年でだいぶ良くなりましたが、平均的な更新回数が年々増えているとはいえ、ごく一部の学校が熱心に更新する一方で、大多数の学校は1年に1度とか数回程度にとどまるという傾向は一向に変わっていません。
ホームページの更新なんて忙しくてやっていられない!と考える多くの学校にとって、一日20回以上更新する学校や365日欠かさず更新する学校の存在は想定外でしょうし、よほど暇な奴か偏執狂がやっているのだろう、と意識の外へ追いやろうとするでしょう。しかしながら、ある程度の負担を承知で高頻度かつ持続的に情報更新している学校は、個人ではなく組織で運用しているのが普通ですから、そこには個人的趣味や情熱を超える真っ当な理由があるのです。では、彼らの活動を内発的に動機付ける理由とは何でしょうか?
情報公開に対する態度には2つのループがある
周囲から強く要求されている訳でもないのに、自主的に高頻度の情報更新を行う学校がそれなりに存在するのは、思えば不思議な事です。しかし、実際に運用当事者にインタビューしてみると、そうした持続的活動がベストチョイスであるという強い信念を感じます。
そこで、私は学校情報公開に対する2つのループを想定するに至りました。ひとつは学校情報公開に対するネガティブなループ、もうひとつは、学校情報公開に対するポジティブなループです。
学校情報公開に対するネガティブ・ループ
ネガティブ・ループは、ホームページ運用を事実上放棄している大多数の学校で実際に起こっている現象です。
学校は元々児童生徒と保護者といった限られた相手だけを対象に活動してきた機関です。そもそも教職員にとってみれば、児童生徒や保護者以外は想定外の対象で、おまけに、昨今の対学校不信やマスコミによる教育機関バッシングが猛威を振るっている状況では、ホームページによる情報公開は、いわば不特定多数に対して無防備に自らを晒す自殺行為のように感じられ、「わざわざ痛くない腹を探られたくない」という意識が先に立ってしまいます。こうした消極的な情報公開態度は、対外的広報の態度や行いに露骨に現れるものです(第7回はその例です)。
しかし、学校にとっての「外の人」や保護者の立場でさえ、学校の消極的かつ一方的な態度に接すれば、「学校は何をやっているのかよく分からない」「情報を表に出さないのは都合の悪い事を隠しているに違いない」「不遜な態度はけしからん」と、より学校に対する不信や対抗意識を強めてしまいます。学校に対する態度はより険しいものになり、最初から喧嘩腰で厳しいやりとりをしようとする人々も出てくるでしょう(特に、事件・事故が生じた時の保護者会では、普段の不満鬱積が一気に爆発することになります)。
学校側にとって、周囲がすべて敵になるのは相当に過酷で、二度と関係修復することも叶わないかもしれません。このような炎上事態が起これば、学校側は余計に態度を硬化させ、内側に籠もってしまいます。つまり、学校情報公開に対するネガティブな態度は、結果として学校をより過酷な状況に追い込むということです。
学校情報公開に対するポジティブ・ループ
一方、情報更新を熱心に行う学校ではポジティブ・ループが機能しています。
学校側が一度積極的な情報開示姿勢をもって「地味でベタな学校日常」を届けようと決意すれば、保護者や地域は自然にその営みを受け入れるでしょう。何故ならば、もともと保護者は、我が子が学校で日々どのように過ごしているのか知りたいという欲求を持っているからです。学校が保護者や地域の人々の小さな期待や疑問にタイムリーに応える姿勢が明らかになれば、そこから徐々に信頼関係が形成されます。信頼関係を糧として地域に良い評判が定着すれば学校の自信と誇りにつながり、さらなる自発的積極的な情報開示姿勢を促すという訳です。
ステレオタイプな報道や悪い噂に対して情報量で圧倒する
2つのループを情報量という点から今一度比較してみましょう。
第8回ではマスメディアによって教育荒廃論が捏造される事を述べました。情報の受け手の「学校の現実」認識は、関連情報源との単純な接触頻度に左右されます。
ネガティブ・ループが機能している学校は、学校側からもたらされる直接情報量が極端に少ないので、マスメディア報道や根拠のない悪い噂の方が勝ってしまいます。何かマスコミを騒がせるような学校事案が起これば「あんたの学校は大丈夫なのか?」と、そのたび問われても仕方ありません。
ポジティブ・ループが機能している学校は、「学校の地味でベタな日常」を高頻度で届けているので、マスメディア報道や悪い噂を情報量で圧倒してしまいます。世の中にどのような学校事案が起ころうとも、保護者や地域の人々が当該の学校の事をよく知っていれば、その都度学校側を問い詰める必要はありません。
学校側から学校の現実が正しく伝わり、関係者と認識が共有出来ていれば、もはや根拠のない教育荒廃論や対学校不信を怖れる必要はありません。積極的な情報公開姿勢は関係者との相互信頼を形成するとともに、不条理なバッシングや不信から学校を守る良い方法にもなるということです。
積極的な情報公開に踏み切れない学校は、ぜひ一度ポジティブ・ループが機能している学校の力強さや誇り高さの理由を考えてみていただきたいと思います。
(2014年9月22日)