愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第7回 】校舎外の掲示物に露見すること

学校広報とはいっても印刷物やホームページばかりではありません。たとえば、こんなところも意外に見られていますよ、というお話です。

ひらかれた学校が教育目標でも

学校評価や地域連携が学校経営のトピックとして取り上げられる機会が増えたせいか、「ひらかれた学校」を目標として挙げる学校は少なくありません。とかく内向き閉鎖的と批判されてきた学校の意識も、ここ十年で随分変化してきたものだと感じます。
  しかしながら、どんなに立派な目標を作っても、組織全体にスローガンが浸透・徹底していないと、思わぬところから馬脚を現すような事になってしまうこともあります。たとえば、校舎敷地周囲に設置している大小全ての掲示物を写真に収めてじっくりと眺めてみてください。はたしてどんなものがあったでしょうか?

その標語は誰に対して発している言葉ですか?

たとえば、教育目標のキャッチフレーズを正面門や昇降口などの上など目立つ位置に貼り出している小中学校がよくあります。高等学校の場合は、部活動のインターハイ出場や対戦成績、あるいは、進学実績などを垂れ幕にして掲げているケースをよく見ます。学校正面に大きく掲示物を掲げることは、良くも悪くも学校の顔をかなり強力にアピールすることになります。
  悪い例の典型は、第二次世界大戦中のアウシュビッツ強制収容所の正面門に掲げられた「働けば自由になる(Arbeit macht frei)」です。実際には、ここで多くの収容者が命を落とすことになった訳で、この標語は偽りと残虐行為の象徴となってしまいました。空々しい標語は逆に薄気味悪さを演出してしまうのです。
  学校スローガンや実績の掲示は当然好印象を狙って行われていることなのでしょうが、その言葉が誰に向けてアピールされているのか、ちょっと考え込んでしまうケースがあります。子どもたちや教職員だけ理解できるような、とらえどころのない抽象的な言葉ばかりだと、それ以外の多くの人々は、そこに薄気味悪さと疎外感を感じてしまうでしょう。
  もし、学校としてもっと対外的にきちんと理解して欲しいと考えるなら、学校の事を全く知らない人にも理解出来るような内容や言葉を選ぶ必要があるという訳です。

掲示物はすべて対外的配慮・不信・敵意のあらわれである

目立つ位置に掲げられたスローガン以外で、もっと留意すべきことがあります。無造作に貼られた「許可なく立ち入ることを禁ず」「警備警戒中」「自動車乗り入れ禁止」「敷地内禁煙」などの威圧掲示です。
  痛ましい学校児童殺傷事件が起こって以来、学校側は特に児童生徒の安全確保に配慮するようになったのですが、塀やフェンスなどの物理的障害の設置とあわせて、敷地周囲の威圧掲示が増えることになりました。
  当然ながら、威圧掲示は陰陽師の結界護符ではありませんから、掲示があるからといって確実な抑止力にはなりません。強い悪意や殺意を持った相手ならまったく効力を持たないでしょう。むしろ、影響を受けてしまうのは、それら無造作に貼られた掲示を日頃目にする普通の周囲の人々なのです。
  普段学校の中で営まれている教育活動に触れる機会のない人々は、結界(校舎敷地周囲)の外から中をうかがい知ることしか出来ません。境界に貼られた掲示物は、すべて外界に対する内部の人々の認識を象徴していると受け取るでしょう。そこに書かれた文言が威圧的であるほど、外界に対して強い不信と敵意を持ち、同時に怖れていることが顕わになってしまいます。
  実は、多くの学校敷地周囲の掲示物は、学校側がまだ内側に籠もっていて外からの来訪を喜ばないことを図らずしも証明しています。もし、学校目標に「ひらかれた学校」を掲げるなら、学校に対して興味関心を抱いている人に緊張を強いるような仕打ちは避けるべきで、人々をがっかりさせない言葉遣いや配慮を工夫すべきでしょう。

アナログな掲示板を活用する

学校広報には、印刷物やホームページに限らない持続的体系的アプローチが必要です。校舎外掲示物もそのひとつですから、学校経営方針や課題意識にあわせてその運用方法を検討する必要があります。
  目立つ垂れ幕や看板はそこそこ費用がかかりますので、頻繁に掛け替えができません。長く使う事を前提に掲載情報の決定は慎重に行う必要があります。
  一方、学校ホームページのようなタイムリーな話題を提供するには、アナログな掲示板が案外役に立つものです。たとえば、お寺や幼稚園に設けられた掲示板は、季節の風物や行事をうまく反映するのが得意で、折り紙などを使ったアイキャッチのデコレーションも素敵です。心配りのある掲示板の場合は、板が空白にならないような、内容が古くならないような工夫をしており、定期的な入れ替えが行われているものですね。
  逆に、掲示物が日に焼けて変色したり取れかかったりしていても誰も気にしない学校は、外に対する関心がない事を掲示板運用ひとつで表してしまうわけで、なかなか手強く気の抜けない話でもあります。

(2014年9月8日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。