愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第5回 】効果的な写真掲載の方法

学校ホームページの魅力を高めるうえではとても重要な要素なのに、比較的どうでもいい扱いをされやすいのが写真です。特にトップページのビジュアルは学校の第一印象を大きく左右するもの。学校ホームページと写真といえば、すぐに肖像権や個人情報保護への配慮が話題に上りますが、それ以前に考えておくべき事は山ほどあります。

1.写真掲載の落とし穴

スマートフォンやデジカメの普及もあって、学校ホームページに気軽に写真掲載出来るようになりました。しかしながら、残念なことにせっかく作り込んだページも写真ひとつで印象を台無しにしているケースをよく見かけます。たとえばこんなケース。

1.1.何を見せたいのかはっきりしない

教室での座学授業や集会朝礼等は参加者に動きがないので、いつも同じカットになってしまいがちです。校庭や教室全体をただ漫然と撮った写真を多く見かけますが、この手のスナップは、せいぜい証拠写真の意味しかありません。何を伝えたいのか、何を撮りたいのか考えずにシャッターを切ってしまうと、写真1枚にあれもこれも要素が写り込んでしまうので、見た人は何を伝えたいのか理解出来ず、漠然とありきたりに感じてしまいます。
 上級者がたびたび指摘するように、写真撮影の大原則は写り込む要素の意図的な引き算です。その時のトピックを考えつつ、伝えたい要素を絞り込んで(余計な要素をプレビューから追い出して)丁寧に絵を作ることを心がけたいところです。また、イベント撮影の時は、ピンボケや狙い通りに撮れないことも考えて、撮影枚数は多めにしておく事もポイントです(細かな撮影テクニックについてはまた別の機会で述べたいと思います)。

1.2.人の気配がしない

人の気配がしない寂しい校舎外観写真をトップページに堂々と載せている学校は案外多いのですが、これはホームページを見る側から考えると実に奇妙な事です。学校の日常は人々の活動そのものなのに、何故人の要素を除いた抜け殻のような写真をわざわざ載せるのでしょうか。
 人の気配がしない校舎外観は見る者を不安にする効果があります。それは外圧から身を守る蟹の甲羅のようなもので、学校側の対外的不信・自信のなさや情報開示に対する拒否的態度を象徴しているようです。
 学校の特徴や魅力が一番良く現れるのは、校内で毎日起こっている出来事であり、年度を通じて営まれる持続的な教育活動そのものです。学校の事を良く理解して欲しい、学校に対して良い印象を持ってもらいたいと願うのであれば、人の気配やにぎわいなどが上手く写真に表されるような工夫をしたいものです。

1.3.目線(黒目線)や顔ぼかし

肖像権や個人情報の保護を理由に、人物の掲載写真にことごとく目線(黒目線)や顔ぼかしを入れている学校があります。個人特定が出来なければ良い、という判断でそうしているのでしょうが、学校の公的な情報発信としては問題があります。目線や顔ぼかしの入った写真は、見た目が異様で、容疑者のようないかがわしい雰囲気を醸します。そんな写真を当事者の児童生徒や保護者は喜んで何度も見てくれるでしょうか?
 たとえ学校側が意図していなくても、写真からの個人特徴の捨象行為(目線や顔ぼかし)は、児童生徒の人格・個性の否定・軽視と解釈されてしまいます。教育機関としてはかなり決定的なマイナス・イメージになると思ってください。

1.4.留意すべき被写体やテーマもある

学校からの公式の情報発信は、世間的にもフォーマルなコードが求められていますから、範疇を外れたものは掲載写真としてはふさわしくないことがあります。
 教室の授業風景に関してはほとんど問題ないのですが、スポーツ・校外イベントや修学旅行・宿泊研修など、非日常的な場面で撮影されたスナップの中に紛れ込みやすいので、写真の取捨選択には留意した方が良いでしょう。

2.写真掲載許諾の是非

オープンなホームページは受信者を限定できないので、印刷配布物とは異なった配慮が必要です。特に写真や動画の場合、被写体の人には肖像権がありますから、事前に掲載許諾を得ておかねばなりません。
 しかしながら、仮に学級で非許諾者が5人も出れば、写真の確認と処理に膨大な手間を必要とするので、授業風景をホームページに掲載するのは事実上不可能になってしまいます。では、どのような対応をしたら良いでしょうか。

写真掲載に関して特に留意すべきケースは、掲載された写真から個人が特定されることで、本人に明らかな不利益や危害が及ぶ事が予想される場合です(DV:ドメスティック・バイオレンスなど)。
 これ以外の一般的な関係者は、具体的な懸念事項を抱えている訳ではないのですが、ネットにむやみに個人情報を明らかにするのは危ないことで、何が起こるのか分からない、という漠然とした不安を持っています。
 もし、学校側が学校ホームページの運用実績をほとんど持たない状況で、写真掲載許諾にYESかNOかを問われたら、「不安だからNOにしておこう」と考える保護者は少なくないでしょう。実は、その結果写真掲載がNGになってしまう学校は少なくないのです。

学校ホームページは学校のいきいきとした日常を伝え、関係者との信頼関係を育てるため運営されるものですから、学校側の意図と意義・効果が徐々に関係者に浸透するにつれて、写真が掲載されることを積極的に評価する保護者は増えてくるでしょう。
 ホームページを開設したばかりの学校、もしくは、運営方針を変えて積極的に情報発信したいと考える学校は、関係者の理解と支持が得られるまでは、それなり時間がかかるものと考えて、半年・一年の作戦としてゆったり構えた方が良いかもしれません。

(2014年8月25日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。