愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第20回 】まず学校に対する協力者を獲得する

ホームページを利用した学校広報の基本線は学校ブログの高頻度更新ですが、取り組み前の学校からは「そんなに頻繁に更新したところで、保護者全員が読んでくれるわけでもないのに、労力のかけ過ぎではないのか」という懸念が示されることが少なくありません。続けていれば自然に反響は得られるものですが、初期の暖簾に腕押し状態を我慢しろというのも、やや担当者には酷な話です。

以前、学校広報の対象は保護者だけではない(第10回)と、主にその広がりについて述べましたが、今回は、学校の意思決定に関わる利害関係者(ステークホルダ)に注目して、具体的にどの層をターゲットにどのような広報を想定すべきか、考えてみましょう。

ステークホルダの対学校姿勢モデル

PTA総会などを思い浮かべると分かりやすいのですが、一般的な傾向としては、声の大きな人は少数であり、大多数の人は自ら意見表明しません。そして、声の大きな人の意見に全体の意思決定が影響を受けます。

図 1 ステークホルダの対学校姿勢モデル

図 1 ステークホルダの対学校姿勢モデル

図1は学校ステークホルダの学校に対する姿勢を2軸で示した概念図です。横軸は主張の強さ(強く主張するか、沈黙を保つか)、縦軸は主張の合理性(誰もが納得する合理性を持つか否か)を示しています。

保護者の大多数は自ら声高に主張しない、いわゆる「沈黙の多数派」(Silent Majority)で、横軸の左側に多く分布していると考えられます。

これに対して、主張をする人々はVocal Minorityと言いますが、性格付けは大雑把に2つに分けられます。学校に対して皆が納得するような合理性を主張する人々は、学校に対して力を貸したい、一緒に改善したいと考える「協力者・参画者」です。一方、自分の身勝手や理不尽な要求に従わせようとする人々は、俗に「モンスターペアレント(モンペ)」と呼ばれます。

ステークホルダに取り合わないとハイリスク状態に陥る

この2軸上のステークホルダの分布は、学校側の姿勢次第で大きく変わるというのがポイントです。

学校側の判断として一番まずいのは、本来学校に協力を惜しまない「協力者・参画者」群の人々を、口うるさいモンスターペアレントとして十把一絡げに扱うことです。保護者にとってみれば、学校に意見すること自体が心理的負担になるというのに、学校側が合理的要求まで真面目に取り合わなくなれば、態度を翻して強硬な批判側に回ってしまいます。

こうした結果生じるのが図2のハイリスク状態です。学校側に何か事件や不祥事でも起これば、鬱積した不満や批判に引火爆発し、沈黙の多数派が同調してしまうので、もう誰にも止められなくなります。多くの場合、こうした事案は決定的な相互不信に陥るので、回復には何年も要するでしょう。教職員も保護者も大きなダメージを被りますから、学校経営としては絶対に避けたい状況です。

図 2 対学校姿勢モデル(ハイリスク状態)

図 2 対学校姿勢モデル(ハイリスク状態)

信頼・協調関係があればリスクはマネジできる

学校側に必要なのは、口うるさく言ってくる相手の合理性の有無を見分けることです。手厳しい批判者は同時に最強の「協力者・参画者」にもなりうるからです。

モンペと言われかねないリスクを負っても学校に意見する協力者の立場からすれば、その意見主張には、他のステークホルダも納得するような合理性や妥当性が必要です。(別にそこまで深く考えていなくても)、学校に興味関心を持って協力しようとする人は、学校の状況を出来るだけ良く知りたいと考えるでしょう。

もし、ステークホルダから「学校の様子が良く分からない」、「こういう文書は公開しないのか」という意見が出ているとすれば、数は少数でも真剣に考えておく必要があります。そのような申し入れをする人は学校経営上とても貴重な存在です。意見する協力者との信頼・協調関係が維持出来れば、合理的・積極的な意見に全体の意思決定が牽引されるようになります。同時に、理不尽な主張や批判は抑止されるでしょう。これを示すのが図3のリスクマネジ状態です。

図 3 対学校姿勢モデル(リスクマネジ状態)

図 3 対学校姿勢モデル(リスクマネジ状態)

まずは協力者をターゲットに、次にステークホルダ全体に

学校ホームページは、読み手の側に積極的な関心がなければアクセスしてもらえないので、どんなに更新が盛んな学校でも、半数以上の保護者に毎日アクセスしてもらうのは至難の業です。

最初の問いに戻って答えるとすれば、最初から保護者全員に読んでもらう事を前提に考えるのはそもそも無理がありますし、全員に読んでもらえないならやらない、というのは屁理屈にもなりません。

戦略的に考えれば、高頻度の情報提供に高い価値を置き、学校経営にプラスの効果をもたらす「協力者・参画者」を最初のメイン・ターゲットに置くことが第一段階となるでしょう。協力者・参画者が学校側の姿勢に納得すれば、(半ば勝手に)学校の良さを各方面に広めてくれるので、沈黙の多数派にも徐々に浸透するようになります。

ちなみに、ステークホルダ全体を考えた場合、共通する魅力は「地味でベタな学校日常」の高頻度更新ですが、第一のターゲットとなる協力者・参画者は、時と場合によっては(例えば学校評価など)監査視点で課題の洗い出しを手伝ってくれることもありますので、例えば、教育計画・財務諸表・学校評価報告書といった硬めの文書もきちんと揃えておくことをお勧めします。

(2015年1月19日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。