愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第19回 】コンテストの発想を180度変えてみた

前回は学校ホームページのコンテストを企画するうえで、従来行われてきたコンテスト企画の課題なるものを考えてみました。今回は、課題解消を踏まえて学校ホームページというメディアの特性を活かしたコンテストの骨組みがどのように出来上がったのか、その経緯について述べたいと思います。

応募させない勝手選考

感想文や図画コンテストのように個人作品を応募しない限り選考対象にならないタイプとは異なり、インターネットのホームページはオープン・アクセスが原則ですから、組織ごとのURLリストがあれば、わざわざ学校側から応募してもらわなくても、選考対象にすることが出来ます。

いわゆる、応募を前提としない勝手選考ならば、事務局は各地に呼びかけて募集動員する必要がありませんし、応募許可に関わる無用なトラブルも回避できます。賞を取りたい一心で期間限定作り込みするような運営者を冷静にさせる効果も期待出来ます。

ただし、この方法には2つ条件があります。ひとつは、学校を取りこぼさないように、出来るだけ完璧なエントリ・リスト(具体的には学校ホームページ・アドレスのデータベース)を持っていること。もうひとつは、リストの膨大な選考対象を効率よく、かつ、的確にフィルタする仕掛けを持っていることです。

2002年当時の小学校ホームページ総数は2014年現在よりだいぶ少ないとはいえ、すでに約12,000ありました。ラッキーなことに、私のサイトにはすでに学校ホームページのデータを集約したデータベースを持っていましたので、前者のエントリ・リストについてはすでに課題解決済みでした。しかし、後者の膨大な選考対象を延々と悉皆調査するのは、どう考えても非現実的です。そこで、私は次の方法を考える事にしました。

完成度の高さよりもまず活性度が高いこと

ウェブサイトの作り方にはいろいろありますが、第一の利用者が学校関係者であることを考えると、学校ホームページの第一の価値はやはり情報鮮度が高いことです。

ふつう、学校にはサイト運営のための人的予算的余裕はありませんので、一方で情報鮮度の高さを求めれば、いろいろ諦めざるを得ない点が出てくるのは当然です。つまり、情報鮮度の高さとサイト自体の完成度の高さはトレードオフだということになります。

そこで、まず私は学校ホームページの活性度が高いことを端的に捉えるようなデータの自動収集を考えました。それが更新頻度です。更新頻度は過去90日分の更新実績日数をパーセンテージで表したもので、年間学校稼働日数の200日を基準に60%を目標とし、以下48%・24%・12%でランクが決定されます。リストに掲載された学校サイトに対して継続的に巡回を行い、過去の更新データを全て蓄積します。

こうして蓄積された更新履歴データをもとに、コンテスト序盤では基準活性度をもとに更新実績をふるいにかけ、次の内容審査に進む選考対象数を絞り込みます。したがって、作りがどんなに立派でも、活性度の低い学校ホームページは選考から外されてしまいます。これには異論があることも承知していますが、学校ホームページの社会的意義に照らしたうえでの明確な選考ポリシーのひとつなのです。

利用者目線の厳しいチェック

活性度チェックを通過した学校ホームページ群は、いよいよ内容や機能のチェックを受けます。こればかりは自動検出できないので、人の目に頼るしかありません。その数は実に1000名に及びます。

この際、学校ホームページに対して最も厳しい評価目線を持っているのは、小学生保護者であろうことに疑いの余地はありません。半ば偶然、考えてみれば必然なのですが、協賛企業社内に呼びかけてボランティアを募っていただいたら、実は多くの方が小学生保護者ということになりました。

実際に保護者の立場になってみると、そうでない目線とは違うところが気になる、と選考をお手伝いいただいた方(あるいは事務局メンバー)は指摘します。こういう意見はたいへん貴重で、次に述べる評定項目の調整やコンセプトの絞り込みについて大きな示唆をいただきました。

客観的評定項目

従来のコンテストでみられるような曖昧な審査基準や選考理由では、特に立ち上げたばかりの学校ホームページ運用者にとって、何を参考に、あるいは、何を改善したらよいのか、よく把握出来ないことがあります。また、コンテスト上位校のとある優れた特徴は、必ずしも初心者向きでないこともありますから、受賞校の傾向だけを捉えることは運用上のミスリードに繋がります。

学校ホームページの普及を目指す以上、始めたばかりの担当者でも取り組み可能な改善点を見出したり、あるいは、学校の様々な事情で実現困難なポイントを区別・検討したり、といった事を可能にするには、学校ホームページの持つ機能・内容について、レベル別・階層別に示した客観的指標を設ける必要があります。

しかしながら、コンテストでこのような客観的評定項目を用いるケースはまずありません。通常は山のような選考対象を選別する必要がない、ということと、あまり知られたくない選考側の手のうち(実際の選考基準)を明かすことになるからです。

J-KIDS大賞の客観的評定項目は、大量の選考対象を多人数で出来るだけ公正に評価するため必要に迫られて作られたもので、どちらかといえば苦肉の策なのですが、オープンでフェアなコンテストを志向する以上は原則公開しようということになりました。

項目は毎年改訂されてきましたが、大きな軸や観点は変わっていないので、担当者は次に何を取り組むべきか自己評価をしつつ改善点を発見することが出来ます。もちろん、都道府県等代表に選ばれる学校は、これら項目よりひとつ上の魅力や個性で競うので、指標がおおかた事前に分かっているからといって、有利になるわけではありません。

いつ選考されるか分からない

J-KIDS大賞の年間スケジュールはだいたい決まっているので、正確に言うと、大雑把に2〜3ヶ月が最初の選考ステップにあたるわけですが、具体的にいつ選考されるかは、ボランティア側の都合で決まるので、事務局スタッフでさえはっきり分かりません。

たとえば、普段はサイト全体に鍵がかかっていて中が閲覧出来ないホームページの運営者から「ID・パスワードを出すので見て欲しい」とか「この期間に見て欲しい」という要請がきても、原則対応出来ないのです。

これは更新頻度とあわせて、学校ホームページが常にライブでオープンであり、完成状態がない事と関係するのですが、普段の利用者と同じ環境、同じ閲覧機会で選考側も中身を見せてもらうことにしています。これもJ-KIDS大賞の重要なポリシーのひとつです。

(2014年12月15日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。