愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第18回 】学校ホームページのコンテストを作るということ

より良い学校ホームページ運用のためには、各校の当事者・関係者に理論や方法を学んでいただく事も大切ですが、同時に、社会的認知を得てメディアとしての価値や重要度が向上するほど、その成果に対する評価も動機付けも高まることは間違いありません。

これまで教育界では、新しい営みを普及させる過程で、しばしば事例発掘やコンテスト表彰など、世間を盛り上げるイベントが仕掛けられますが、学校ホームページもまた例外ではありませんでした。

筆者はたまたま学校ホームページ・コンテストの企画・実行にどっぷりと関わる貴重な機会を得たのですが、その時の経験についていくつか述べておきたいと思います。話の半分は全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)を企画した際のコンテスト枠組み論なのですが、残りの半分は学校側の運用姿勢に関わる話でもあります。どうかおつきあいください。

1998〜2002年は学校ホームページ冬の時代

日本の学校ホームページはインターネット黎明期1994年に産声を上げました。当時はインターネットもホームページも新しい技術で、実験的なホームページを開設しただけでも話題になり、複数の学校ホームページ・コンテストが開催されたのです。

しかし3年も経過すると、技術的新奇性は失われ、学校ホームページをターゲットにするコンテストはあらかた消滅してしまいました。文科省の推奨によって学校ホームページ保有率は向上したものの、大半の学校では研修で作りかけのページを方々に放置したまま誰も省みないようなありさまとなっていました。

私がたまたまコンテスト企画の相談を受けたのは2002年の夏。ホームページはすでに多くの学校のお荷物になっており、世間を盛り上げようにも最悪のタイミングだったのです。私が企画提案する際にまず考えたのは、何故95年頃開催された先発のコンテストが不発に終わってしまったのか、ということでした。応募する側、選考する側双方を経験した立場からみると、こんなことが気になりました。

作品応募がコンテストの趣旨を歪める

ふつう、コンテストは作品や事例を応募してもらわないことには選考が成立しない訳です。しかしながら、この応募行為自体がコンテスト趣旨を歪めているケースは少なくありません。

たとえば、世間には学校教育系コンテストが数多く存在しますが、大半は応募数の確保に苦労しています。とにかく数が集まらないと、賞に値する品質レベルに達しない可能性があるので事務局も必死ですが、子ども作品の場合、貴重な夏休みがコンテスト作品募集の取り合いになっているような状況をみると、むやみにコンテストばかり作っても意味がないような気もします。

学校組織の場合、管理職や教育委員会から応募許可を得ること自体がハードルになるケースがあります。特に、一教員の新しい試みが周囲に理解されるのは簡単な事ではありません。それでなくても、学校ホームページは物好きの変人が暇に任せて作っているというような印象がまとわりつきやすく、結構地味で大変な作業なのに尊敬されにくいという側面もあります。応募許可が出ないがためにせっかくの成果が埋もれてしまうというのは、いかにももったいない話です。

曖昧な審査基準や選考理由ではモデルにならない

ふつうのコンテストは応募要項に審査基準が書かれてあるものですし、授賞に際しては審査委員からの選考理由や講評が発表されますが、あくまでそれは一部の受賞例に限られますし、理由自体が抽象的表現に終始していることもままあります。

また、大半の応募事例は事務局側からフィードバックが返ってこないので、何が評価されたのか、どこを改善すれば良いのか、客観的に把握することは出来ません。

学校ホームページは運用上の制約が付きものなので、受賞したスーパーケースではいろいろ恵まれすぎていて、一般校のモデルとしては妥当でない事もありますし、内容的にも機能的にも飛躍がある場合は、どこから手を付けたら良いか、見当さえつかない事もあるでしょう。動機付けはあるけれど、何から始めたら良いか決められない場合でも、ある程度のフィードバックが出来るような仕掛けが望ましいですね。

誰のための何のためのホームページかが不明瞭

学校ホームページを誰が審査するのか、というのは結構大きな問題です。ふつうのコンテストでは、有名なデザイナーとか、教育情報化に詳しい大学の先生が審査委員を担当しますが、しばしば、審査側は誰が何のためにホームページを閲覧するのか、という観点を忘れてしまいます。

専門的視点からみた厳しい評価観点というものは確実に存在しますが、それらは、必ずしも全ての利用シーンを網羅しているとは限りません。例えば、グラフィックスやレイアウトが奇抜なホームページサイトは、見る者の多くを惹きつけますが、製品CMのように一度強いインパクトを与えれば大成功という用途ならいざ知らず、日々何度も訪れるような学校ホームページの場合は奇抜さがかえって使いにくさになることもあります。

学校ホームページには、一般的なウェブの常識がそのまま通る部分もあれば、そうでない部分もあります。審査委員のウケが良くても、実際の利用者に評価される良い事例かどうかはまた別の問題なのです。その事を一番シビアに評価しているのは、一番利用する機会が多い児童生徒の保護者ですから、保護者目線での選考が出来なければ、学校当事者の周囲から納得は得られないでしょう。

選考期間中だけ更新されるホームページ

2003年当時は、ホームページをCD-ROMやDVDのような作品に見立てて作り込む事が流行った時期でもありました。ブログやCMSでページ更新の多くが自動化された現在とは違い、当時は1ページ1ページのコーディングが必要で、完成されたページは後から追加したり、部分的に改変したりする事が大変な手間なので、作られたページはそのままにされることが多かったのです。

コンテストでこのような一点豪華主義の作品ばかりが受賞することで、コンテストに目がけて作品を作り込み、選考期間中だけ更新し、選考後は放置するケースがまま見られるようになりました。もちろん、作り込んだページが不要という訳ではありませんが、期間限定で更新されるホームページでは学校広報本来の意義から離れてしまいます。

ホームページらしいコンテストを作れないか

学校ホームページというものは生き物ですから、時々刻々とその姿を変えていきます。内容は常にunder construction(構築中)で、完成という概念そのものがありません。そうしたメディア特性を理解したうえで、どうしたら学校を応援するような評価や表彰が出来るのだろうか、というのが次の懸案になりました。

さて、この先は長くなりそうなので、また次回に述べる事にしましょう。

(2014年12月8日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。