愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第16回 】学校広報と学校ホームページの成長段階 その3

学校広報成長段階には「宣伝・信頼・説得」に続き第4段階「協働」があるのですが、まだこの段階に到達した学校は1校もありません。ただし、各地の実践ではいくつかその萌芽が見られます。学校ホームページの将来像として、現状考えうるポイントを(やや技術的な視点から)いくつか述べておきたいと思います。

条件は学校情報環境のデジタル化

国際的にみても日本の学校ホームページはクオリティも更新頻度も悪くないレベルになってきたのですが、児童生徒と学校、もしくは、保護者と学校を直接つなぐ連絡手段のデジタル化は、まだまだ未分化と言わざるを得ません。日本の学校では、電子メールやSNSはきわめて利用が限られており、いまだに印刷配布物や電話が幅を効かせているからです。

例えば、児童生徒のための教材・学習材・宿題提出物も原則は紙媒体が用いられ、電子媒体でのやりとりは特定のICT利活用授業の枠のなかに閉じています。授業の外や家庭にデジタル情報(コンテンツ)を持ち出したり、あるいは、家庭で作り込んだ作品を学校に持ち込んだり、といった自由はありません。

しかしながら、海外の学校事例を見ますと、学校と家庭との連絡(連絡帳・出欠連絡や成績通知表を含む)がほとんどデジタルに置き換えられた国もありますし、家庭のパソコンで作業した宿題のWORDファイルを学校のSNSに提出するといった事も当たり前に行われています。

学校の教育活動の大部分は知的生産に関わる事柄であり、特に欧米諸国では情報化の普及拡大と共に、多くが自然にデジタル環境へ移行してきています。残念ながら、我が国の教育情報化は20年近く停滞していますが、やがて堰を切ったようなデジタル化への変化が起こるでしょう。

学校ホームページの統合化

学校情報環境のデジタル化が進むと、学校ホームページのシステムは情報発信のみならず、SNS的な役割を持たされるようになります。これが多機能化と統合化の動きです。従前はシステムやメディアがバラバラで、いちいち変換や打ち直しを必要とした面倒がなくなり、格段に情報流通の効率が向上します。

具体的な例をいくつか挙げましょう。IDとパスワードを打ち込んでログインすれば、担任との個人的連絡、各種申請、出欠や成績の確認をワンストップで行えます。あわせて、保護者会や学校運営上の会合もリアル会議以外にパソコンを用いた遠隔会議やSNSで進行出来るようになるでしょう。あるいは、それまではもっぱら紙でアンケート調査していた内容がシステム化されることでオンライン・アンケートになり、告知・回答・分析までが全てデジタルで完結します。もはや担任の先生が手作業で正の字を書いて集計する必要はありません。

一方、パブリックな情報提供を目的とする学校ホームページは、SNSや一部校務システムの機能と連携することで、よりタイムリーで効率的な運用が出来るようになるでしょう。例えば、校務システム内の学内スケジュールを掲示したり、出欠状況や病欠状況をリアルタイムで表示したり出来ます。このように学校ホームページの多機能化と統合化が促されることで、新しい可能性が見えてきます。

パブリックな情報発信の自律分散化

もうひとつの動きは、学校ホームページが担っているパブリックな情報発信の自律分散化です。第3段階までは、組織広報としてのまとまりをまず考え、学校経営を念頭に置いた情報発信が中心でした。第4段階になれば、教員・児童生徒・保護者(PTA)がそれぞれの立場で、学校を基盤とした独立した活動を展開するでしょう。

海外事例では、各教員が外部のブログサービス(bloggerやgoogle sitesなどごく普通のサービスが多い)を利用して個人サイトを作成し、そこに手作りカリキュラムや学習材を置き、授業中にアクセスして生徒に利用させるパターンが多く見られます。

日本国内での教員個人サイトはほとんど盛り上がらないジャンルですが、学校とのつながりを保ちつつ、それぞれの先生方の見識と経験の強みを活かしたカリキュラムづくりや教材の蓄積が展開されれば、学校にとっても大きな魅力につながります。

一方、すでに「地味でベタな学校日常の情報発信」で重要な位置付けを持っているのが、児童生徒による情報発信活動です。小学校を中心にすでに全国数十校で取り組まれているこの活動は「学校こどもブログ活動」といい、約10年のノウハウ蓄積があります(詳しくは後日述べます)。

小学生レベルでは作文作法など基礎的トレーニングが必要ですが、中高生になれば情報構成や発信活動の工夫も高度なものになるでしょう。大人が太刀打ち出来ない素晴らしい作品が産まれてくる可能性も大です。

学校ホームページは児童生徒の創作意欲と社会的な意義・関心とをつなぐ接点として機能するようになります。地域や社会の課題と向き合い、社会に対して問いかける窓口としてアクティブな活用がなされるでしょう。

第4段階「協働」:多様な情報発信と交流が広がる

先に述べたような統合化と自律分散化を強化することで、第4段階の協働(コラボレーション)が実現します。児童生徒を含んだ多様な立場の自律的な情報発信や交流に関わる活動が活発化し、学校を拠点として社会との接点を紡いでゆく事を想定しています。

例えば、子どもたちの地域学習で集められたメモや写真が地域のまちづくり資料やハザードマップとしてまとめられたり、地域史料として図書館にアーカイヴされたり、行政広報紙に取材記事が紹介されたり、といった学校枠に囚われない活動のプラットフォームとして機能することが期待されます。

(2014年11月17日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。