★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。
【 第12回 】広報は外向けの情報発信とは限らない
第10回では学校広報の対象について述べました。広報というと、ふつうよそ行きのまとまった情報を想像しがちですが、学校のような組織では、教育委員会や教職員といったいわば身内を対象とした情報共有手段としても有効です。
従来メディアを用いた内部広報の課題
学校広報のなかで意外に見落とされやすいのが、学校組織内や教育委員会を対象とした職場の「内部広報」です。職場内部の情報共有としては報告・連絡・伝達・会議といったフォーマルな方法が存在しますが、職員会議や連絡・伝達等の仕掛けがあっても、単独で立ち回る時間の長い学校教員は同僚や管理職との認識・課題共有が必ずしも十分ではありません。同じ校内に居ながら、管理職の学校経営理念や他学年・他学級の様子が把握出来ているとは限らない訳です。
昔ながらの情報共有方法では、同じ時間・空間をメンバー全員で共有しなければなりませんが、忙しい職場で単に情報伝達のための会議をたくさん設けても非効率なだけです。時間拘束した上に受け身で情報を受け取ってもらうより、参加者全員が出来るだけ積極的に頭を使ってアイデアを産み出したり、検討したり、といった知的生産に多く時間を割り当てた方が建設的です。
あるいは、同じ時間や空間を共有しなくても、たとえば、紙に刷れば読んでもらえますが、紙を相手に手渡す(プッシュする)以上は、報告書なり、学級通信なり、といったタイトルと積極的な理屈をつけて、読ませる工夫をする必要があります。校内状況を教育委員会に報告するためには、報告書としての体裁を整えなければなりません。読み手にとって積極的に読む意義を持たない紙の束は単なるゴミと化してしまうのも悩ましいところです。
そう考えると、時間も資源も無駄にしない内部の情報共有は意外に難しく、いろいろな制約の中では、現状が精一杯という言い方が出来るのかもしれません。
学校ホームページを内部広報手段として使う
しかし、学校ホームページが学校広報の要素として加わり、第3回で述べたようなプル型の情報提供が可能になると、少し状況が変わってきます。プル型は情報を必要とする人が勝手にアクセスする方法なので、たとえ保護者向けに提供されたものであっても、読み手の目的に適えば問題ありません。つまり、読み手にとってみると、必要な情報に臨機応変にリーチできれば良いし、書き手にとってみれば、しかるべき場所で公開しておけば読み手に合わせてわざわざ情報を編集し直さなくても済むというメリットが出来る訳です。
学校ホームページのブログで日常的かつ多様な情報発信が行われていれば、いろいろなメリットが生じるでしょう。たとえば、教育委員会サイドでは、学校状況を知るためにわざわざ報告文書の提出を求める必要がなくなります。また、クラス毎の日常が記事にまとめられていれば、保護者と同じ目線で校内教職員が一日の様子を相互に知ることが出来ます。
内部広報は管理職にとってメリットが大きい
実は、内部広報でもっとも大きなメリットは、管理職が教職員に向けて発信するパターンにあります。もともと、学校広報における管理職の役割は大きいので、管理職ブログを中心に運用されている学校も多いと思います。
では、管理職が普段どのような読者を想定しているか尋ねてみると、保護者だけでなく、教職員の意識合わせを念頭に置いている、と回答されるケースが少なくありません。
管理職が記事で扱う内容は様々ですが、学校組織のとらえ方や学校教育方針に関する内容は管理職でなければ書けないものです。保護者に向けた文章は教育関係者向けのように難しくできないので、分かりやすさを重視した記事になるでしょう。
教職員を対象にしたストレートな話よりオブラートに包まれた表現にならざるを得ませんが、まとまった大論考を構えて読まされるより、むしろ、カジュアルな情報が少しずつもたらされるメリットの方が大きいでしょう。記事更新は基本的に毎日行うことですから、月1回の学校だより巻頭言のように、手間をかけた立派なクオリティを求めるのは無理というものです。記事スタイルはつぶやきやエピソードのようなものになるかもしれません。しかし、管理職でなければ書けない視点、内容は長年の教育経験から導かれる自然な言葉がむしろ説得的であったりするものです。
(2014年10月14日)