愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第11回 】学校広報はマスコミと勝負できるか

一部の高校や私立校を除けば、一般的な学校に広報のための十分な予算はありません。校内の分掌を増やしても、業務として広報活動に割く時間は限られています。学校の現実を伝えるメディアとしてフラットに比較したとき、潤沢な予算とプロ集団を擁するマスメディアと素人仕事の学校広報とでは、あまりに条件が違いすぎるのですが、私達は強力過ぎる相手に無駄な戦を挑もうとしているのでしょうか?

マスを対象としたメディアは非日常を求める

言うまでもなく、マスメディアの主なターゲットは大衆(マス)です。彼らは、ふだんマスメディアに対して特段の動機付けを持っているわけではないので、関心・注目を集めるための刺激を常に必要としています。刺激の大要素は「非日常性」と「納得性(分かりやすさ)」です。
  目を惹くような「非日常性」とは、ゴシップ・ハプニング・イベントのようなものです。これらに隠された事象の暴露、解釈や批判、あるいは偶像化・ラベリングといった脚色がなされ、大衆が容易く理解できるような「納得性」を帯びたストーリー(因果や説明)が比較的短期間に用意されます。ストーリーに誘導される形で、大きな社会的課題喚起や世論形成がなされますが、しばしばこれらは特定の目的をもって意図的に仕組まれることもあります。
  学校にとってのマスメディアは気まぐれな落雷のようなものです。しばしば学校はマスメディアを頼って話題に取り上げてもらおうとしますが、たいがいの場合は学校側の思い通りにはなりません。
  もともと学校には関心や不信が集まりやすいので、ひときわ大きな誘雷装置が付いているのですが、マスメディアの注目する学校の非日常とは、たいがい学校にとって都合の良い話ではないうえに、分かりやすさ重視のストーリー脚色によって、かえって周囲に誤解が広まったり、当事者が理不尽なバッシングを受けたりする事もあります。ひとたび大きな雷撃を受けて、周囲との信頼関係を損なえば、学校がそこから立ち直るために長い年月を必要とするかもしれません。

ステークホルダを対象とした学校広報は日常を求める

大衆(マス)を対象としたマスメディアとは違って、学校がターゲットとするのはステークホルダと呼ばれます。ステークホルダとは利害関係者の事ですが、学校の場合は当該校に興味関心を持つ全ての人々を指します。ステークホルダが大衆(マス)と決定的に違うのは、学校に対する(多くの場合は好意的な)関心を持っていることです。彼らは何かしら知りたいという動機付けのもと広報に対して能動的に関わります。
  ステークホルダが必要とする情報とはありのままの「学校の現実」であり、学校の日常です。学校の日常から産み出される細かな情報は、多くの場合、ステークホルダ以外の人々にとっては何の価値もありませんが、ステークホルダの人々にとっては欠かせないものです。例えば、今日の給食のメニューがカレーであることは、一般社会人やマスメディアにとっては全く意味がありませんが、保護者にとってみれば、夕食の献立を決めるための重要な情報であったりする訳です。
  学校日常の情報には強い刺激や脚色は必要ありませんが、求める情報はかなり詳細なこともあります。学校行事の様子がまとめて文章で報告されるより、我が子の様子が一目で分かるようなスナップが欲しいと思うのは当然の事ですね。
  ステークホルダは学校日常の情報を得ることで安心や共感を覚えます。抱えている小さな不安が解消出来れば問題解決にもなります。つまり、学校広報はマスメディアのような大きなインパクトを与える事は出来ませんが、日々の活動を通じて信頼や良い評判を形成するための強力な手段となりうると言うことです。

目的に応じた広報活動を認識しよう

では、今一度マスメディアと学校広報との違いを整理してみましょう。ステークホルダを対象とした学校広報が求めないものとは、たとえば、

  • マスメディアのような派手さや脚色
  • 解説者や評論家のような権威付け
  • 見栄えのするボリューム

といったものです。一方、ステークホルダ目線から学校広報に求められるものとは、

  • 知りたい詳細情報が柔軟に入手出来る事
  • 速報性、迅速かつ高頻度な情報更新
  • 学校日常の多面的な捉え、多様な視点や考え方

といったものでしょう。
  特に印刷配布物の場合は、新聞や冊子の体裁に気を取られてしまい、作文や編集に膨大な時間を費やすあまり、本題の意義を損なうケースがままみられます。これはもったいないことです。
  ステークホルダとの信頼関係形成を第一の目的においた学校広報が目指すスタイルとは、できるだけフットワークの軽い体制で、時間と手間をかけず、学校生活の様子をタイムリーに提供することにあります。学校ホームページはこれら目的を叶えるためには最適なメディアであると言えるでしょう。

(2014年10月6日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。