★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。
【 第10回 】学校広報は誰を相手にしているのか
学校だよりや学級通信など、学校印刷広報物の大半は最初から配布対象者が決まっているので、いちいち普段から「誰が対象か」などと考える必要はありません。しかし、プル型メディア(第2回)としてのホームページが学校広報に加わる事で、より幅広い相手にリーチするチャンスが拡大しています。これらを俯瞰的に想定しておくことは学校広報戦略を組み立てる際にも役立つでしょう。
広報対象者=ステークホルダ
学校広報の対象者をひとくくりで説明すれば、ステークホルダ(=利害関係者)と表すことが出来ます。ステークホルダとは企業の担う社会的責任(CSR : Company Social Responsibility)の概念から産まれた言葉ですが、古くは株主やオーナーといった限定的捉え方がなされていたのに対し、最近では従業員や顧客、事業所や工場周辺の住民を含めた広い概念へと変化しています。CSRのステークホルダを参考にするならば、学校広報のステークホルダもまた同様に狭い解釈と広い解釈の両方があるわけです。
保護者・児童生徒は最も狭いとらえ方
いうまでもなく、学校がもっぱら日常的に接しているのは保護者と児童生徒で、おそらく広報物の大半はこれら二者を対象としています(狭い意味での広報対象)。ただし、学校ゆえの特徴として、保護者や児童生徒は学校側と対等な立場にないので、コミュニケーションは一方向になりやすく、仮にそれが原因でわだかまりが生じても、学校側には直接是正を求めにくいという課題があります。学校広報の定義でも取り上げた通り、広報の目的は相互の信頼・協調関係の形成維持にありますから、学校側と保護者側との認識ギャップが過大にならないように、双方向の仕掛けを取り入れる必要があります。
学校側が想定可能な相手は顕在的関係者
保護者・児童生徒が含まれる「顕在的関係者」とは、学校側が具体的に想定可能な(あるいは法的に情報開示を求められる)対象を指します。この中には、就学者と家族以外に内部組織とコスト負担の2つのカテゴリがあります。
内部組織のカテゴリには教育委員会等の上位組織と学校組織(職場)が含まれます。組織内の内部広報(いわゆるIR ; Internal Relations)は改めて別の機会に説明しますが、報告・通達といったフォーマルな事務連絡様式に加え、不定形でカジュアルなブログ記事のような様式が組織内の情報共有・課題把握・良好な関係の維持にプラスの効果を持ちます。
コスト負担のカテゴリは、いわゆる納税者に対して法的に求められるアカウンタビリティ(説明責任)として昨今特に強調されるようになりました。公立私立を問わず学校は税による支援を受けているので、組織としてのアカウンタビリティを果たさねばなりません。
ただし、説明責任を強調し過ぎると、学校内部の積極的情報開示の動機付けになりませんし、厳密な監査様式を要求すれば、学校は形式主義に陥って肝心の実態が余計に見えにくくなってしまいます。学校自身としては、極力後ろ向き姿勢にならぬよう、かつ、公明正大に成果や課題を公表できるようなマインドを醸成したいものです。
潜在的関係者へのリーチが新らたな可能性を拓く
表1の下半分にある「潜在的関係者」は、学校側が具体的に想定出来ない不特定多数の対象を示しています。不特定多数とはいっても別に怖じ気づく必要はありません。プッシュ型のマスメディアと違って、学校がふだん相手にするのは、あくまで学校に何らかの(多くの場合は好意的な)関心があってホームページにアクセスしてくる人々だからです。
たとえば、印刷広報物の学校だよりでは、校外掲示板や回覧板に添付する範囲にしか情報が行き渡りませんし、いつも丁寧に目を通してくれるとは限りません。そこには紙媒体ゆえの限界がある訳です。これに対して、プル型の学校ホームページは、情報を求める人の動機付けがアクセスに繋がります。たまに学校でイベントが催されたり、大勢の人出があったり、あるいは、新聞で学校の事が記事になったり、ふと母校の事が気になったり、とそのきっかけは様々ですが、訪問者のニーズを満たすだけの情報がタイムリーに提供出来れば、学校に対する評価は高まります。
ホームページをみて転校先を決めるのが当たり前に
高頻度でホームページを更新する学校でたびたび聞きますが、急な帰国・転勤で転居先を探す人々にとっては、子どもの通学先選定が決定理由のなかでも高順位にあり、そのためには学校ホームページがかなり重要な情報源になっているといいます。転校先の校長面談で「ホームページを見てこの学校に決めました」と言われるケースが少なくないとのこと。
表面的な学校概要のみならず、学校の毎日の様子が豊富に掲載されていれば、学校の事をよく理解した上で転校先が決定出来るので、児童生徒や保護者の不安解消と信頼関係構築にも役立つでしょう。
保護者以外の家族にも伝える価値がある
潜在的関係者に含まれる「保護者以外の家族」も実は見落としがちな対象です。具体的には離れて暮らす祖父母や単身赴任の親が当てはまります。印刷配布物では同居している家族にしかリーチ出来ませんが、学校ホームページが機能すれば、これまでは情報が届けられなかった家族に対しても、子どもたちの様子を伝えることができます。
潜在的関係者を意識した持続的広報は社会的評判につながる
潜在的関係者は学校側が具体的に想定出来ない対象なので、当然ながら直接的短期的な広報効果を期待するのは間違いです。学校広報を熱心にしたからといって、必ずしも入学・転入学者が大幅に増える訳ではありません。しかし、直接関係を持たない不特定多数の人々(=社会)を想定したうえで学校広報を持続的に行えば、学校に対する理解や支持は少しずつ広がり、確実な社会的評判の向上につながるものです。
(2014年9月29日)