★新教育コラム「出会いこそが教師をつくる」開始にあたって
だれしも、教師人生に変化をもたらした、心に残る出会い(人、物、出来事など)があるといいます。このコラムでは、その出会いについてリレー方式で語っていただきます。
【第8回】恩師の言葉
〜大府市立東山小学校 水野京子〜
「1時間の授業をするには、前に6時間、後で1時間必要なんだよ。」
これは、私の恩師、愛知教育大学教授西光寺亨先生が美術教育の講義でおっしゃった言葉です。他にも、
「結果を出すために、無理な指導をしてはいけないよ。その授業で得たものが次の授業で発揮されればいい。無理をさせないで、じっくり待つことが必要なんだよ。」
「子どもたちの絵は、先生へのラブレターなんだよ。」
と、先生が私たちに語ってくださった言葉は数多くあります。教師の役割は、子どもたちの心を理解し、子どもたちが自然に描いたりつくったりしたくなる瞬間を見逃さずに捉え、製作することだと教えていただきました。私が何よりも感動したことは、一人一人の子どもたちへの深い愛情をもっての授業、子どもたちの心が満たされ、自信になり、子どもたちが変わっていく様子を伺ったことです。私の求めているものはこれなんだと確信しました。
大学には入学することができたものの、「これでよかったのか」と満たされないものが心にありました。恩師との出会いで、「教師という仕事の魅力」を知ることができ、一生の仕事とすることができました。
学生の時、また教師になってからも、先生とご一緒させていただき、鳥取、福岡、広島、青森の実践家の先生方の授業を拝見することができました。先生方の情熱、子どもたちへの愛情、すばらしい授業を目の当たりにすることができました。
学生時代の忘れられない西光寺先生の言葉は、
「教師になったら、よい実践をして、論文にまとめなさい。」
というものでした。これは、卒論のテーマとして「子どもの描画表現」にしたのですが、実際に子どもたちに接していないので、筆が進まず困っていました。その時にいただいた言葉です。教師になったら、実践を論文にまとめたいと思いました。そして、いくつかの実践をまとめました。うまくまとめられたら、もっとよかったのですが・・・。
また、教育実習を前にした私たち学生に、
「困ったら、顔を見せに来るといいよ。話すだけでも気が楽になるよ。」
と声を掛けていただきました。
卒業して2年間は、月に何度か先輩の先生方と先生のお宅におじゃまをし、学級の子どもたちが製作した作品を見ていただきました。指導が不十分な作品だったのですが、必ず、
「この作品がいいよ。 今度は、○○してみては。」
と、ご指導と共にうれしい言葉もいただきました。その後、先生は兵庫教育大学にお変わりになりましたが、年に何回かは名古屋に来て学習会を開いてくださいました。そのおかげで、卒業して20年間、貴重な言葉をたくさんいただくことができました。
12年前の10月10日に、先生はお亡くなりになりました。先生からどれだけ多くのものをいただいたことか。最後にいただいた年賀状の言葉に、
「元気な先生、熱心な先生、まじめな先生、今年もがんばってください。」
と、先生の流麗な文字の言葉をいただきました。それまでの年賀状は、幼児画が描かれていて、言葉はないものでした。言葉をいただいたことに喜んでおりましたが、先生が亡くなられて、私へ最後の言葉を残してくださったように思うのです。
さらに、この教育コラム「出会いこそが教師をつくる」の順番をこの10月上旬にしていただいたことも、何か縁を感じずにはいられません。
恩師の言葉は、いつも私の心の中にあります。
(2012年10月10日)