★新教育コラム「出会いこそが教師をつくる」開始にあたって
だれしも、教師人生に変化をもたらした、心に残る出会い(人、物、出来事など)があるといいます。このコラムでは、その出会いについてリレー方式で語っていただきます。
【第19回】環境の変化は最大の研修
〜岩倉市立岩倉中学校 校長 野木森 広〜
平成19年4月、愛知県教育委員会義務教育課に赴任した初日、初めて座る私の机には文部科学省からの書類が2通。1通は4月8日までに回答するもの。それまで行政経験のなかった私には、書類の内容も処理の仕方も分からない。聞くと、教育事務所を通して各市町村教育委員会に照会し、取りまとめて文科省に提出するらしい。そのためには、その日のうちに決裁を済ませて教育事務所へ依頼せねばならない。依頼文の作成から決裁の仕方などを、一から十まで教えてもらう。こうして書類と格闘する間にも、文科省からのメールや電話が入る。それ以外の電話も、要件が私の担当であれば容赦無く回ってくる。教育事務所からの問い合わせ、マスコミからの質問、県民からの要望。それらに右往左往しながら、ようやく当初の仕事を終えたのは夜の9時。私の義務教育課での初日はこうして始まった。
平成19年度から始まった全国学力・学習状況調査。私はその担当者として赴任した。上記書類の内容は、当時懸案となっていた小学校調査における「氏名個人番号対照方式」(記名をすることによる情報漏洩を避けるため解答用紙に番号を書いて個人を特定する方式)に関する照会。その回答を受けて文科省は、この方式を希望する市町村向けに説明会を開催することを決定した。これを採用する市町村は文科省の説明を直接または県の担当者を介して聞かねばならない。愛知県で本方式を希望する市町村は多い。数日後に開催される文科省での説明会に当該市町村すべての出席は望めない。私が伝達するしかなく急遽東京へと出張した。説明会場は物々しい雰囲気。冒頭の初等中等教育局長の挨拶後はマスコミをシャットアウト。説明内容を必死でメモ。その後、各県の担当者は質問のために文科省担当官の前に長蛇の列を作った。私は出遅れて最後尾に並ぶ。順番を待ってじっくり質問。帰りの新幹線ではモバイルで報告をまとめ、翌朝、課内で検討。その翌日に市町村向け説明会を開催。急遽、FAXで招集をかけての会議。運営上の手ほどきを受けながら、何とか説明会を乗り切った。
学力調査当日(4月24日)は、マスコミからの照会電話が朝から鳴りっぱなし。調査は無事終了したものの、息つく間もなく結果の生かし方や分析の仕方、審議会の組織とそこでの提案など。そうこうしているうちに、あっという間に10月24日の結果公表を迎えた。国の学力調査担当者会はその一週間前。そこで受け取った結果をまとめて教委内で報告。速報にまとめ、解禁と同時にマスコミに発表。記者会見もした。テレビの取材も受けた。その後も、各校が自校の結果を分析するためのソフト開発と機能の説明、さらに、県の傾向をまとめて授業改善を促す資料の作成など、息つく間もなく初年度を終えた。
このように、全国学力・学習状況調査との出会いは、私にとってカルチャーショックであった。緊張の連続であったが、一方で充実感もあった。このときの多くの人との出会いが今の自分につながっている。濃密な二年間であった。
異動は最大の研修というが、思えばこのような濃密な時間は、環境の変化によって起こる。異動ばかりではなく、思いがけない役割がまわってくることもある。苦しいこともあるが、それを楽しむ新しい自分を発見することもある。誰かが見ているのであろう、チャンスを与えてくれた人がいるということだ。今の自分には、その時々の立場を楽しむゆとりはないが、目の前の役割を必死でこなしていく中に新しい気付きがあることは実感している。
(2014年3月3日)