★新教育コラム「出会いこそが教師をつくる」開始にあたって
だれしも、教師人生に変化をもたらした、心に残る出会い(人、物、出来事など)があるといいます。このコラムでは、その出会いについてリレー方式で語っていただきます。
【第12回】異質に触れる機会から「気づき」を。
〜株式会社Z会 理科課課長 寺西隆行〜
7月末から8月上旬にかけて、3回ほど、小学校の先生とお話ししたり、ディスカッションをしたりする機会がありました。まずはこの3回の事例をご紹介させていただきます。
1つめは、経営コンサルタント阪本啓一さんの札幌セミナーにて、北海道在住の小学校教師の友人、furu-tさんと久しぶりにお会いし、語らいあった出来事です。経営コンサルタントと小学校教師、という、一見つながりがなさそうなお2人は、約3年前に福島にて阪本さんが授業見学する形で出会っています。そして、その場に同席していた僕は、人間関係の化学反応が起きているのをまざまざと感じました。 furu-tさんが今回、セミナーで感じたことはブログにまとめてあり、教師として「在り方(being)」が大切、「やり方(doing)」はあとについてくる、という想いを再確認することにつながったようです。
2つめは、とある小学校に、学力向上のための教材づくり、という演題の講師として招かれたときのお話です。勤務先(Z会)の教材づくりに期待されてのご依頼だったと思いますし、もちろんそのお話しもしたのですが、そもそも公教育と教育産業は存在意義が異なりますから、民間企業における「前提」を冒頭にお話しさせていただきました。制約条件や優先順位、さらに企業の強み弱みなどを考えた上で、このような教材を作成している、と。
このような僕の説明に違和感を覚えた先生も大勢いらっしゃるでしょう。学級にはできる子どもとできない子どもの差が激しいため、“全員に真剣に向き合っていきたい!”という姿勢の強い方ほど、「優先順位」という言葉に同意できない様子もうかがえました。
3つめは、「第9回教室『学び合い』フォーラムin福島」への参加です。『学び合い』は、上越教育大学の、西川純先生が提唱している教育手法ですが、本手法に共感している教師の皆さんは、「多様性を認めること」という価値観を共有しているため、毎年の『学び合い』フォーラムは、様々な教師の多様な考え方を忌憚なく伺えるとても良い機会となっています。
開催された翌日、西川純先生からこんなメッセージを頂戴しました。
「(教師ではない)寺西さんのおかげで、集団の多様性が担保されています。どんどん、教師以外の人を引き込んで下さい。」
以上3つの事例で共通しているのは、「異質」を受容する機会をつくっていることです。経営コンサルタントが小学校の授業に出ること、一民間企業人の講義を教師全員が受けること、教師集団に教師以外の人を巻き込み意図的に多様性を持たせようとするイベント、すべて普段の教師生活ではなかなか巡りあわない機会かと思います。1つめの事例はその後の学びにつながった好例ですが、2つめの事例のように「違和感を覚える」こともまた、自らの価値観を広げるチャンス。違和感の中から、自らの価値観を修正したり、一方では逆に信念を強めたり、そんなキッカケになりますから。
学ぶベクトルが、そのときの自分が“学びたい”と思っている方向だけでは、人間としての懐が大きくなりにくいのです。異質に触れることで初めて、“そんなことがあるんだ!”という「気づき」をもたらされること、僕自身もたくさん経験しております。
忙しい教師生活、なかなか自ら機会を求めたり、機会を創ったりすることは難しいかもしれません。そこでお勧めしたいのは、「知人から紹介された機会を活かす」ということです。“えーそういうのはちょっと…”と感じて引っ込めていた足を、ほんのちょっとだけ伸ばすことで、教師生活を豊かにする出会いがきっと生まれるでしょう。
是非、多くの子どもたちの心を理解するため、異質に触れる機会から「気づき」を得てください。
(2013年8月26日)