愛される学校づくり研究会

★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって

 管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
 そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。

学校マネジメント考【9】 
 ― 一宮市立尾西第三中学校長 長谷川 濃里

4月本校に新米校長として赴任し、昨年度本コラムで連載された岡本薫氏の示されたマネジメントの流れ (1)現状を把握する (2)原因を特定する (3)目標を設定する (4)手段を企画する (5)集団意思を決定する (6)手段を実施する (7)比較(評価)する を考える間もなく、まず今日、明日をどうしていくのかという現実に直面しました。教育目標の作成すら自分ではままならぬなか、待ったなしで学校を動かしていかなければなりませんでした。今回は、新米校長がばたばたしながら行ってきた1学期の取り組みの一例を、マネジメントの流れに照らし合わせながら振り返ってみたいと思います。

赴任初日、私の手元にある資料は、持参した1冊の大学ノートの他はすべて前任校長や教頭、教務主任の手による当初予定や年間計画でした。それがよいのか悪いのかの判断もつかないまま、まずは出来上がっている計画に沿って新学年は始まりました。

唯一持参してきた大学ノートとは、教頭時代に自分の考えを整理するため、あれこれと書きとめた雑記帳です。なかには「学校を開くとは:親も教師も子どもの健やかな成長という同じ方向を向いているはずなのに苦情が出るのは、学校の気持ちが伝わっていないから。学校の気持ちを伝えることが学校を開くこと。」「聞くことの評価は:意図指名し、復唱できることを確認すること。」「校外活動で指導すること:児童生徒には 1)命と身体の安全 2)校外活動の目的を指導する。職員には、危険予知のイメージつくりと具体的な動き方を指導する機会とする。」「大地震に備えるには:地域に体育館の開錠を依頼し…」など、その時に思ったままの内容がメモされています。

流れる日々のなかで何から手をつけていけばよいのか。私はまずこのメモの内容を、目標(3)の原案として自分の問題意識に留めることにしました。現状が把握できていないわけですから、この先押し寄せてくる行事や事件と向き合いながら、問題として引っかかったものを本校の現状(1)をとらえ、このままでよいのか、変えていくべきなのかを考えることにしました。

最初に直面したのは、保護者からの苦情の多さです。個人的には保護者とよい関係を築いている先生は多くいるのですが、その保護者からでも部活動や友達関係で学校へお叱りの電話をいただくことが多くありました。これが現状(1)です。直接的な原因は初期の対応のまずさと説明不足です。しかし根底にあるのは、学校への信頼感が希薄であるからだと感じました。多くのお叱りは学校からの謝罪と少しの説明で納得してもらえるものであったからです。これを原因(2)と考えました。そして、目標(3)を、地域や保護者に学校を理解してもらうこととしました。学校広報の充実です。内容は、地域・保護者の興味関心と学校がPRしたいことから、1)学校生活の様子 2)学校の予定 3)先生方の仕事ぶり 4)教育活動の根拠 5)地域や学校の歴史などを中心にしようと考えました。

手段(4)は、学校ホームページと毎月発行する学年通信には「事実報告型」から「熱い思い併記型」の記事を増やしていくこととしました。また学校運営協議会やPTA役員会、おやじの会、地域の会議などで、校長が学校の願いや行事の意図をたくさん話すこととしました。そしてまず実行に移しました。手段を実施(6)です。まず実行に移したのは、職員全員に十分に意図説明をし、集団意思の決定(5)を待つより、走りながらでも集団意思は固めていけると判断したからです。ホームページの記事承認や起案文書の修正などで一つ一つの広報記事の手直しを図りながら、毎日の職員連絡や、毎週の企画委員会、職員会議で少しずつ学校広報を充実させる意図を伝えていきました。校長としては集団意思の決定(5)ではなく、意図の浸透を図ったというのが本当のところです。

おかげで、地域・保護者に学校ホームページの認知度はずいぶん上がってきました。休日にまとめて読んでいただける方もあるようです。保護者や近所の方、各会の委員の方から「学校のことが分かるようになってきた」「学校は隠さないんだね」との声もいただけるようになりました。本年度依頼したホームページモニターの方からも、ホームページだけでなく通信の内容に対しても厳しいながらも建設的な意見をいただけるようになりました。苦情も若干減っているようですが、これはまだ来年まで分かりません。

今回、本校に赴任して最初に取り組んだ学校広報の充実について、マネジメントの流れに照らし合わせて振り返ってみました。項目に沿ってマネジメントしていくのが本来かもしれませんが、その場対応であっても7つの項目は、現在の状況と今後何をなすべきかを整理する意味で有用なものでした。少しずつ学校の様子が見えてきた今、学校評価の結果もにらみながら、短期、中期、長期のサイクルで学校をマネジメントしていきたいと考えています。

(2012年7月12日)

学校マネジメント考

●長谷川 濃里
(はせがわ・あつさと)

1982年小牧市にて教員生活を始める。中学校教諭24年、指導主事3年、市職員1年、小学校教頭2年を経て、今春から現職に至る。初めてのボーナスで買ったパソコンを数学の授業に使ってみたことが始まりで、コンピュータ活用、数学教育で多くの先生と出会え、学べたことが今日の自分を支えている。今に至っても隙あらば授業へ、部活動へ行こうと狙っている。