★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって
管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。
学校マネジメント考【11】
― 知多市立新田小学校長 山田 純一郎
昨年度からリレーコラムとして掲載されていた「学校マネジメント考」。それを本年度になって知った自分にとって、まず「何を書いたらよいのか。」ということが正直なところです。特に、カタカナ語が苦手な自分にとって、この題はなかなかハードルの高いものです。
そこで自分で考えたことは、肩肘張らず、昨年度から行ってきたことを書けば、なんとなく岡本薫氏のマネジメントの流れ(1)〜(7)に添っていくのではないかという淡い期待を持って筆を進めたいと思います。ですので、リレーにはなっていないと思いますがお許しください。
私は、平成21、22年度知多市教育委員会指導主事として(実は2回目なんですが…)勤め、新田小学校の話はいろいろ聞き、学校も訪問しました。その点でいえば、岡本氏の(1)実態把握については、赴任する前にある程度つかんでいました(本当にある程度ですが…)。
昨年度、実際に新田小学校に赴任してみると、指導主事時代につかんでいた実態が大筋では変わらないこともわかりました。私が一番感じたことは、学校祭(山車祭り)に教師の力の大半がいってしまい、日々の授業の教材研究にまで力がおよんでいないということでした((2)原因の特定かな?)。そこで、「授業を基盤とした学校経営」をめざすことを、先生方につたえました((3)目標の設定)。もう一つの理由として、昨年度は、新学習指導要領完全実施のときということもありましたが、その先生方の準備が十分にできていないと感じたからでもあります。
新田小学校の先生方は、全体的には指導力はあります。しかし、様々な授業を見る機会が少なかったり、授業に関する研修会にあまり参加していなかったりするため、なかなか自分の授業スタイルから脱しきれない部分がありました。例えば国語の物語文をどう指導すれば子どもに力がつくのかが具体的にイメージできないということがあり、全国学力状況調査においても「読み取り」の部分に弱さが見られました。
そこで、次の三つのことを主に行いました((4)手段を企画する〜(6)手段を実施するにあたるかな?)。
- 1.1年間の学習指導または学級経営で力を入れて実施するテーマを一つ決め、学級経営案、教職員評価シート、指導案に書き、常に意識できるようにする。
- 例えば、「『伝え合う力を育てるために』自分の考えを相手にわかるように、筋道を立てて話すことや人の話を正確に最後まで聞き取ることができる学習指導の工夫」を決めたとします。このテーマを達成するための具体的な手立てを三つ、ないし四つ決め、教職員評価シートにそのままを記入します(評価シートは二項目書くことになっていますので、もう一つは他の内容で書きます)。学級経営案には、一学期、二学期、三学期でどこまで、達成すればよいかを考え、手立てをさらに分析して記入します。指導案には、冒頭の部分に□枠でテーマを記入するようにし、常に意識できるようにしました。
- 2.1年間に最低でも一人1回は研究授業を行う。
- 学級数が多い(25学級)ため、すべての授業をすべての教師が見ることは現実的ではありません。そこで、学年で見る授業、低学年・中学年・高学年で見合う授業、全体で見る授業と分けて行いました。授業後には、参観した先生方でワークショップ型授業研究協議会を行いました。
- 3.優れた実践をしている先生の授業を見るとともに、積極的に研修会に参加する雰囲気をつくる。
- 知多市内にも授業力のある先生がいます。そこで、国語の物語文の授業、道徳の授業を参観させていただく場をつくり、10名以上の先生方が参加しました(国語は5回、道徳は2回授業をやっていただきました)。また、算数の研修会や絵画の研修、子ども理解の研修も行い、授業力を高めるようにしました。
こうして書いていくと、すべて私一人が行ったように思われるかもしれませんが、私は案を出すだけで、具体的に企画をしたのは、教頭、教務主任、研究主任です。
(7)評価にあたることかもしれませんが、昨年度の1月にCRC学力検査を行いました。結果は、おおむね良好でした。先生方の授業も少しずつ変わってきたという実感もあります。しかし、良くなったとはいえ、物語文の読み取りにはまだ弱い部分もあります。また、算数の計算はできますが、図形に弱い部分があります。本年度は個々に重点をおくとともに、現職教育のテーマ「関わり合いを大切にし、共に高め合う児童の育成 −教え合い、学び合える場を充実させた授業の工夫を通して−」をめざし、引き続き授業の焦点に当てて行っているところです。
最後に、話題がずれてしまいますが、6月末から大津市のいじめ問題がクローズアップされ、日本各地でもいじめ問題が発生しています。校長としてこの問題に対して、どう取り組んでいくかが問われているときだと思います。
福沢諭吉は「文明教育論」の中で、
「智徳の両者は人間欠くべからざるものにて、智恵あり道徳の心あらざる者は禽獣にひとしく、これを人非人という。また徳義のみを修めて智恵の働あらざる者は石の地蔵にひとしく、これまた人にして人にあらざる者なり。」と述べています。
また、夏目漱石は「草枕」のなかで、
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」と述べています。
人は「禽獣」であっても「石の地蔵」であってもいけません。人を人たらしめるためにも、知徳体のバランスのとれた人間の育成が必要であると思います。そして、未来を切り拓いていく子どもたちが、「住みにくい」世の中にしないためにも、校長としてしっかりした教育をしていかなければならないと感じる今日この頃です。
(2012年9月24日)