愛される学校づくり研究会

分かりやすい学校サイト・デザイン講座


★このコラムは、「愛される学校づくり研究会」にて発表された、「わかりやすい学校サイト・ポイント講座」を元に、具体例を追加しながら、デザインにつてい解説していくシリーズです。

【第9回】ルネサンスから学ぶ

■ルネサンスの人と技術

ルネサンスは15世紀前後にユーロッパ、主にイタリアを中心におこった文化の再生(文化革命・運動)のことですが、絵画・彫刻の歴史から見た場合に重要なのは、技術・手法の確立と材料研究という部分が大きな位置をしめています。表現が技法を産むのか、技法が表現をつくるのかむずかしいところですが、両者がお互いに補完してあたらしい潮流が生まれたのは間違いないでしょう。
 その視点から見ると、ルネサンスは単なる再生ではなく、大きな変革とも言えます。 ギリシャ時代からの神への信仰を中心として発展してきた古典的な絵画・彫刻が、科学的なアプローチで神々や人間を表現するモノへと大きく変化したわけです。
 絵画・彫刻を宗教や歴史などのテーマから解説するのは、芸術にくわしい文献をあたっていただくとして、今回はルネサンスの技術や手法から、現在でも通用する基本的な部分について考えてみます。

■技法と表現

ルネサンス時代の巨匠と言えば誰もが知っているダビンチ、ミケランジェロでしょうが、その他ラファエロやボッティチェリ、ティツィアーノは聞いたことのある名前かもしれません。
 イタリアだけでなく、ドイツやオランダ(いわゆる北方ルネサンス)でも著名な画家がいます。デューラーなどは、その緻密さから学生〜年配まで人気の高い画家ですし、ヒエロニムス・ボッシュやファン・エイク兄弟は宗教画(祭壇画)では特に有名です。

画材技術の発展でいうと油絵の具の技術が確立されたのは、オランダ(フランドル地方)のファン・エイク兄弟の功績といわれていますし、自然や建物を2Dの中に描くための透視図法や、光・空気を表現する空気遠近法が発明されたのもこの時期です。
 まだ絵の具が高価だった時期でしょうから、多くの色を使わないで描くグリザイユ技法(白黒・グレーで描く)が用いられたのもこの時代の特徴のようです。
 グリザイユ技法は下絵を描く時に白黒・グレー(モノトーン)で形を描き、最後にその明度に合った赤、黄色、青といった色をのせて完成させたり、モノトーンのまま完成とする絵画手法です。
この技法は現在でも油彩や水彩の技法として用いられている方法です。第2回目のコラムで説明したように、明度は、見やすさにおいて、色相や彩度よりも強く支配します。絵やポスターなどで見やすい表現をする為には、明度設計が重要ですので、この手法は、短時間で絵を描くには理にかなった手法なのです。
 また、明度の設計をする時に、全体を明るくするか、暗くするかを決めるとテーマがわかりやすくなります。暗い明度で全体を統一すると重い感じになりますし、明るめの色が大半を占めると、軽くて優しい感じの印象になります。

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【デューラーの自画像】⇒ 参照

キャンバスの中で一番重要な部分にスポットを当ててコントラストで表現することは、中心となる物をストレートに見せます。左のデューラーの自画像のように、人間の顔と手にスポットを当てたような肖像画がおおいのは、おそらく人間の感情を表すには、顔と手が非常に重要というようなことなのかもしれません。(他の部分が不要と言うわけではありませんが。) 実際に人物を写真で撮るとこのような極端なコントラストはつきにくいものですが、作者は意図して暗めに設定してるわけで、絵画の表現上の工夫です。

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【ファン・エイクのアルノルフィーニ夫妻像】 ⇒ 参照

全体が暗いトーンの中に、見せたいところを明るく目立たせるのは写真でいうとローキーな写真と同じでしょう。黒は膨張色では無いので、全体に引き締まってみえ、真面目さや真摯さ、厳かな感じをイメージさせられます。
神聖な結婚式というイメージにぴったりです。

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【ボッティチェッリのビーナスの誕生】 ⇒ 参照

反対に、ハイキー(全体に明るい色が多く黒が少ない)で見せる絵画の代表格はボッティチェリではないでしょうか。神話を中心としたテーマ、ビーナスなどの神々を描いた作品が多いですが、女性の柔らかさ、やさしさにあふれています。隅から隅まで見えるように全体に明るく描いてあるので、ごちゃごちゃした感じになりますが、飽きずに目をたのしませてくれます。画面全体でストーリーを語る代表格です。

■遠近法と科学

景色や建物、室内などの絵画表現についてルネサンス最盛期には透視図法が完成されて、カメラのような視点が正確に描かれています。一点透視はトンネルのような奥行きと同時に厳正で静的なイメージを与えます。

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【ラファエロのアテナイの学堂】 ⇒ 参照

ラファエロのこの作品は、背景が一点透視なので、近景、中景の動きがゆったりとした時間の中にいるように見えます。 これに対して二点透視や三点透視はダイナミックな動きを画面に与え、より三次元に近づきます。
これは、校舎を真正面からとらえるのと、斜め45度からとらえるのと、伝えたいイメージによって視点(アングル)が重要ということです。

空気遠近法も重要な技法です。遠くの物はコントラストが弱く、彩度も低い。近景(手前)はコントラストが強く、彩度が高い。これは空気の層が光を弱めるからですが、この現象を上手に使うには、写真の中に積極的に遠景・中景・近景を入れます。(最低3つ無いと違いがわかりにくい)
 校舎の写真であれば、手前に木の枝や花壇の花やジャングルジム、遠景に山や林や雲などを入れるというような工夫です。体育館や教室等で少しくらい空間になっている場合は、手前にある物に照明(ストロボ)を当ててコントラストを上げ、鮮やかに撮影すると、遠近感が強調されるというわけです。

■教育としてのルネサンス

最後に、制作システムとして「工房」というものが出来上がったのもこの時代。著名な作家は弟子をかかえて量産体制を作りましたが、ここは工場という機能もあり、また教育機関としても機能していたようです。中でもベリーニの工房はティツィアーノ、ジョルジョーネ、ティントレットといった画家を生んでいますし、ラファエロの工房も50人規模の弟子を育てていたということです。
 当時は、絵画・彫刻だけでなく、建築から家具、装飾品まで生活全てのものを作り出すのが芸術家だったわけですが、芸術が人間を語り、信仰を支え、科学を発展させ、教育システムを作り、街を作っていたというとちょっと言い過ぎでしょうか。

次回は、もう少し時代を進めて、日本人に人気の「印象派時代」の絵画からいくつか取り上げてみようと思っています。

(2012年1月16日)

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●堀田敦士
(ほった あつし)
教育+ネットワーク+ゲームを3本柱に開発するデザイン会社勤務。若くて元気な頃は、シミュレーションゲーム「TheTower」「シーマン」などのアートディレクターとして徹夜の連続。現在はWEBサイトデザインやCMS開発で主に学校を対象にした広報支援のためのお手伝い。お手伝いがエスカレートして、息子の高校PTAのICT委員会顧問に抜擢され、ICT教育の準備で徹夜の連続。