愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、教育コンサルタントの大西貞憲氏がユニークな取り組みで学校の活性化に成功している私立学校を取材し、その取り組みやノウハウを紹介しながら、学校を活性化させた原動力を明らかにします。

【第4回】二松學舎大学附属沼南高等学校

二松學舎大学附属沼南高等学校は、二松學舍創立90周年記念事業の一環として千葉県沼南町に大学の運動場を建設した際、地元有志の方々より高等学校開設の要請を受け、昭和44年に創立された学校である。平成23年度には中学校も開校する。 一人ひとりが夢や希望を見つけ、そこに向かって進んでいける確かな学力と強い心、考えを伝える表現力、他者の気持ちを理解できる温かな人間性を育むことを目指している。

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軽快なフットワークと柔軟な発想が学校を変える
 ― キーワードは、「変化をチャンスに!」

「企業でも一番営業成績を上げるのはトップです。学校でもトップセールスが大切。赴任した年の4月には、柏市内の中学校20校全部に挨拶に行きました」
 そう笑顔で語るのは、平成20年に九段にある二松學舎大学附属高等学校から校長として赴任して来られた木村誠次先生だ。
 学校改革は校長が指示するだけでは進まない。二松學舎大学附属沼南高等学校の改革の原動力を探ってみた。

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校長の木村誠次先生

◆校長自らが動く

木村先生が最初に進めた改革の一つに進路指導の充実がある。4年制大学への進学率を上げるには、生徒に4年制大学のよさを伝える必要がある。そのために担任には、自らの大学経験を生徒に語るようお願いした。トップセールスの発想は何も外部に対してだけではない。大学のオープンキャンパスに、校長が自ら生徒を引率することもある。校長が大学の案内をしてくれる。生徒の進学意識が高まらないはずがない。
 隔週6日制から完全週6日制への移行も赴任の年に打ち出した。新1年生から実施するのが普通だが、新2年、新3年生にも実施することで、彼らの夢の実現を図っていきたいと考えた。生徒を集めてその思いを話した。
 「もし嫌な人がいたら校長室で話を聞くよ」
 生徒にそう伝えた。思いが伝わったのか、結局校長室に来た生徒はいなかった。校長が前面に立って生徒と向き合う。こうして改革は進んでいった。

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校長が直接生徒と接触すればよい結果が生まれるというわけではない。職員が日ごろからきちんと生徒との関係を作っていなければ、校長ともよい関係はつくれない。また、校長と職員の間のコミュニケーションも大切である。生徒指導や進路指導の場面で「それだったら私が話できるから、その子を校長室に連れておいで」と校長が気軽に言えるのも、職員との信頼関係があればこそである。

◆チャレンジする風土をつくる

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教頭の中條保夫先生

学校ホームページで一番の人気を誇る校長ブログ「キムログ」。学校の様子を温かい語り口で毎日発信している。ところが、学校改革については様子が違う。中條保夫教頭の言葉から、学校改革に対する木村校長の厳しさが伺える。
 「校長はいつも職員に、『去年と同じことはするな。どこに工夫があるのかをはっきり示せ』と厳しく言っています」
 「失敗してもかまわない。向う傷は問わない」は、チャレンジする姿勢を大切に考える木村校長の言葉だ。職員は自校出身者が多い。伝統を守るという姿勢が時には抵抗勢力となる。チャレンジできない者はポジションから外す。やれる者に改革をやってもらうという厳しい姿勢を見せる。その陰で、「一番この学校に長くいる私が改革にNOと言わないように心がけています」と、中條先生は校長を支える。

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改革に対して厳しく臨むのは大切だが、それだけでは人はついてこない。責任を持たせると同時に、上手にサポートすることが大切だ。私学の教員は外の情報がなかなか手に入らない。そこで校長会で情報交換し、うまくいっている学校、一歩先をいっている学校を見つけて勉強に行かせる。こういったフォローをしっかりすることで、結果が見えるようになる。そのことが自信につながり、チャレンジする風土が生まれてくるのだ。

◆柔軟な発想で変化に対応する

平成25年には、大学が九段に集約されるという。それにより現在大学と共同で利用している無料のスクールバスを維持することが難しくなる。有料にすることも考えたが、かえって手間がかかる。そこで大胆な発想の転換をした。来年度開校の中学校は校時を変える。また大学が移転する時点で3年生の1時限目をなくして、出席は2時限目の教科担任がとる。担任は昼休みに学級に行けばよい。こうすることでバスを半減しても対応できる。問題はチャイムが混乱することだ。そこで、あっさりチャイムを廃止した。
 また、中学校新設に伴い新たに玄関と下駄箱を設ける必要が出てきた。ここでも発想を変えて、上履きをやめて土足にすることで費用を浮かした。とはいえ、中学生が来ると同時の変更では変化が大きすぎて何が起こるかわからない。事前に実施して問題点を洗い出そう。一番問題が出そうなのは来客も多い文化祭だ。だから文化祭の前に土足にしてしまおう。問題を全部出させてしまおう。
 これが木村校長の発想だ。「私は石橋をたたいて渡らない。その前に棒高跳びの棒を使って飛び越える」と木村先生は笑った。

 中学校新設にあたっては、短時間で多くのことを決定し準備を進めていかなくてはならない。そのためには多くのノウハウが必要となる。そこで、芝浦工業大学柏中学校と協定を結ぶという思いもよらない方法をとった。同じ地区の学校同士では通常考えられないことだ。母体となる大学が文系の二松學舎と理系の芝浦工業大学であること、二松學舎の理事長がもと芝浦工業大学柏中高等学校の校長であったことなども後押ししているが、その発想の柔軟さには驚くばかりだ。
 カリキュラムやシラバスを参考にする。新設準備担当の先生が校外学習に参加するなど、着々とノウハウを吸収している。新設初年度の立ち上げはきっとスムーズにいくにちがいない。

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伝統のある学校ほど、こうあるべきだという「原理主義」が横行する。何が本質なのかを考え、過去にとらわれずにチャレンジすることで道は開けるものだ。柔軟な発想でチャレンジする姿勢が改革の大きな原動力となる。
 「飲み屋で一杯やっているとき、勤めている学校がいい学校であればまわりから尊敬の目で見られる。ダメな学校なら馬鹿にされる。飲み屋に行って尊敬されたい。いい学校を残して去りたい」木村先生はこう語る。学校を取り巻く環境はこれからもどんどん変化していく。軽いフットワークと柔軟な発想で変化をチャンスに変え、二松學舎沼南高等学校はますますいい学校へと進化していくことだろう。

(2011年1月17日)

私学から学ぶ

●大西貞憲
(おおにし・さだのり)

東京大学卒業後、愛知県公立中学校・高等学校教諭として約10年間教壇に立つ。その後約11年間、ベネッセコーポレーションにて教育ソフト開発と活用研究を行う。2000年より小中高等学校のアドバイザーとして活動する。学校教育現場で、授業評価・改善、管理職のための学校の活性化、学校のIT活用、保護者向けの子育てへのアドバイス等、指導・講演を年50回以上行う。現場に出掛けてのアドバイスは「明日からの元気が出る」との定評がある。 教育コンサルタント/有限会社フォー・ネクスト代表/NPO法人元気な学校を支援し創る会理事