愛される学校づくり研究会

★このコラムでは、教育コンサルタントの大西貞憲氏がユニークな取り組みで学校の活性化に成功している私立学校を取材し、その取り組みやノウハウを紹介しながら、学校を活性化させた原動力を明らかにします。

【第3回】学校法人雲雀丘学園中学校・高等学校

雲雀丘学園は昭和25年の創立以来、人間性を育てる「孝道」を基本とした人間教育の充実と、学力の向上の両立を目指している学校である。子どもの健やかな成長は家庭との連携なくして実現できないという考えのもと、家庭と学校が協力して子どもを育てる「教育は共育」、保護者も教員も子どもと一緒に学ぶ「教育は共学」を標榜している。
 また、近年は、環境に配慮することは優しさ、思いやり、感謝のこころにも繋がるという考えのもと、人間教育の一環として環境教育にも取り組んでいる。

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一人ひとりを伸ばす学校力 〜強いリーダーシップと自主性の尊重〜

 「優秀な生徒がよい結果を出すのは当たり前。大切なのは生徒がどれだけ伸びたかということです。学校はきちんとデータに基づいて話をしないから説得力がない。きちんと結果を“見える化”しなければいけないのです」
 と、語るのは、民間出身校長として公立高校で4年の経験後、2006年に雲雀丘学園中学校・高等学校の校長として赴任した中尾直史先生。
 学校説明会では、他校と比べてどれだけ生徒の学力が伸びているのかを具体的な資料で示す。生徒一人ひとりが伸びる学校になってきた。企業での経験に基づく強いリーダーシップがその原動力に見えるが、それだけではなかった。

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校長の中尾直史先生

◆長期的なビジョンを持つ

 「私学の強みは、創立の精神があることです」と中尾先生は言う。だからこそ長期的な視点で学校を経営できるのだ。
 「雲雀丘学園の生徒は伝統的に“のんびりで穏やか”だという声があります。しかし、そう言っているのは、この学園に関わってせいぜい30年未満の人たちです。この学園には60年の歴史があります。今の時代は“のんびり、穏やか”は通用しません。今こそ創立の精神に立ち返って、“社会で活躍できる人間”に育てることが大切なのです」
 目指す子ども像をきちんと掲げた上で、より具体的な姿を描いていく。子どもたちに自ら問題を見つける力、解決する力をつける。では、そのために何をするのか。これを学校全体で考えるのだ。

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リーダーの一番の仕事は目指すところを明確に示すことだ。その上で、何をすればよいか、そのためにどういう仕組みを作ればよいかを分掌や学年、教科で考えて実現していく。目指すところがなければ、学校改革を叫んでも実際の行動にはつながっていかない。私学にとってはゆるぎない創立の精神があることが、大きな強みとなるのだ。

◆実行力と評価力

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教頭の影浦正二先生

学校改革に手をつけたとき、子どもたちに学力をつけるにはどうしたらよいかという議論がおこった。 「これだけの授業時間がなければ力はつかない」―そういって各教科から出された時間数を積み上げていったところ、8時限目まで授業のある日が週2日になってしまったという。
 無理を承知で、まずはやってみようと1年間実施してみたものの、やはり無理があることがはっきりしたため、翌年から8時限の日はなくすことになった。きちんと評価した上での変更だった。
「実はこの話には伏線があるのです」と影浦正二教頭は言う。
「以前、学力10%アップを目標にしたことがありました。ある教科がそのためにはどうしても授業時間数を増やすことが必要だと主張して、他教科から1時間もらったのです。ところが、成績のデータを採ったところ、変わっていないどころか下がっていた。『これでは授業時間数を増やしたら成績が下がってしまうことになるよ』という話になりました」
 雲雀丘学園では、このようにデータに基づいた議論をする土壌が醸成されている。これがPDCAのサイクルがきちんとまわるためのベースとなっているのだ。

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改革に対して厳しく臨むのは大切だが、それだけでは人はついてこない。責任を持たせると同時に、上手にサポートすることが大切だ。私学の教員は外の情報がなかなか手に入らない。そこで校長会で情報交換し、うまくいっている学校、一歩先をいっている学校を見つけて勉強に行かせる。こういったフォローをしっかりすることで、結果が見えるようになる。そのことが自信につながり、チャレンジする風土が生まれてくるのだ。

◆成功体験を積む

「学校改革を始めた当初は、決して一枚岩ではありませんでした」と、影浦教頭は言う。「圧倒的多数が賛成して歩み出したわけではありません。『何で土曜日に授業をするんですか』という親の反発もありました」
 しかし、目指すところを実現するためには譲れないこともある。一つひとつの成果を積み重ねていくことで次第に一枚岩になっていく。そのためには、やりたいことに挑戦させ、どんな小さな成果も見落とさず、きちんと見える化をしていくことが大切だと影浦教頭は考えている。
 例えば、各学年の各教科がどのように伸びているのかをデータで示す。職員会議で各学年の取り組みを発表して、次の学年に生かす。一つひとつの取り組みをきちんと評価し、成功をみんなで共有する。このようにして、職員全員が同じ方向を向いて取り組めるようになってきた。

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トップダウンだけでは学校経営はうまくいかない。譲れないところはきちんと押さえるが、それぞれの自主性を大切にしないと結局はうまくいかない。校舎の改築では、教室をどのようにしたいか職員に聞いた。自ら考えて実行するからこそ、うまくいったことが自信につながり、取り組みが定着するのだ。職員が自らやろうとする、やれる仕組みを作ることが大切なのだ。

◆ホームページが共有化のツール

こうした教師の取り組みを広げ、共有化するのに大きな役割を果たしているのがホームページだ。
 雲雀丘学園のホームページは実にたくさんのブログから構成されている。学年、クラブ活動、分掌など、多くの部署が発信している。更新は分担して行っているものもあれば担当が中心となっているものもある。それぞれの部署ごとに工夫がある。多くの人が関わっているので、必然的に職員間の相互チェックが行われる。自然に互いの取り組みを学び合う。生徒や保護者、志願者という外部だけではなく、内向けの発信でもあるのだ。
 「トップはいろいろ言うが、やはり先頭切って走ることが大切なのです」と、中尾校長は言う。
 校長ブログは、日々更新され、今日起こったことが次の日の朝には掲載されている。「校長は夜にやっているんだな。校長も頑張っているんだ」と職員は思う。だから「日々更新は譲れない」と中尾校長は言う。その結果、他のブログの更新頻度も上がっていく。
 「凡事徹底」が中尾校長の座右の銘という。ブログの日々更新もその一つの例だ。

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情報の共有化は、やれといってできるものではない。そのための仕組みづくりが大切である。
 例えば、雲雀丘学園の職員室には、情報の共有化の仕組みが見られる。机のグルーピングや配置を工夫して、できるだけ見通しがよく、互いに話がしやすいようにしている。
 ICTも校務の効率化だけではなく、サーバーでデータを共有することで、互いの仕事が見えることに役だっている。授業をオープンにし、互いの工夫が見えるようにするなど、具体的にいろいろな仕掛けを作る必要があるのだ。
 小さな成功を見える化し、それを共有化して積み重ねていく。このことが学校を進化させていくことになる。

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雲雀丘学園の学校改革は目に見える形になってきた。もっと進学実績のある学校が見学にくる。実績は上がっているが次に何をすればよいか行き詰っているからだ。しかし、雲雀丘学園にはその心配はないだろう。「今やっていることが正解ではない、その過程である。今の時点で必要なことをやっているのだ。このことが次のステップにつながる」と語る中尾校長。進学実績、入学者のレベルアップ。出口、入口を固めた次は中身だと新たな取り組みを始めている。長期的な視野に立ち、ゴールへのステップを一つひとつ見える形にしてクリアしている。雲雀丘学園はまだまだ進化していくことだろう。

(2010年12月20日)

私学から学ぶ

●大西貞憲
(おおにし・さだのり)

東京大学卒業後、愛知県公立中学校・高等学校教諭として約10年間教壇に立つ。その後約11年間、ベネッセコーポレーションにて教育ソフト開発と活用研究を行う。2000年より小中高等学校のアドバイザーとして活動する。学校教育現場で、授業評価・改善、管理職のための学校の活性化、学校のIT活用、保護者向けの子育てへのアドバイス等、指導・講演を年50回以上行う。現場に出掛けてのアドバイスは「明日からの元気が出る」との定評がある。 教育コンサルタント/有限会社フォー・ネクスト代表/NPO法人元気な学校を支援し創る会理事