★このコラムでは、教育コンサルタントの大西貞憲氏がユニークな取り組みで学校の活性化に成功している私立学校を取材し、その取り組みやノウハウを紹介しながら、学校を活性化させた原動力を明らかにします。
【第2回】学校法人浪商学園 大阪青凌中学高等学校
大阪青凌中学高等学校は、創立28年目の比較的小規模の学校である。小規模校の利点を生かしたきめ細やかな指導が行われている。中学校では、「コミュニケーション力」「プレゼンテーション力」「文章力」の3つの能力向上を目指し、高等学校ではこれらの力をさらに深め、世の中で求められる力の基礎を身につけることを目指している。
個の取り組みが「学校力」に
〜コミュニケーション力で選ばれる学校へ〜
大阪青凌中学高等学校を一言でいうと、「コミュニケーション力のある学校」である。ホームページや学級だより等での発信はもちろん、教師が積極的に保護者や生徒の思いを受け止める、教師同士が互いに課題や情報を共有する、こうした取り組みが自然に行われている学校だ。教頭の福力稔先生は言う。 |
教頭の福力稔先生 |
教師一人の取り組みが、上からの命令なしに全校に広がることは容易なことではない。この、個の取り組みを学校力へと変える「コミュニケーション力」はどのようにして生まれたのだろうか。
◆広がり始めたホームページ
入試広報部長の向忠彦先生 岡橋昌俊先生 |
大阪青凌中学高等学校のホームページを見ると、中学校・高校の各学年による青凌通信、図書館通信、校長ブログなど、実に多くの先生方による日常的な発信にあふれ、鮮度の高いホームページとなっている。しかし、入試広報部長の向忠彦先生は言う。「3年ほど前までは、ホームページをそれほど重要なものとは考えていませんでした」 |
ホームページを積極的に活用している他校の校長先生から、「とにかく今の時代、ホームページを更新しないことには始まらない。うちの学校は毎日更新している」という話を聞き、「これは負けてはいられない」と奮起したという。まずは365日毎日更新を目標に、学校の様子を発信し始めた。目標は達成し、生徒や保護者がホームページを見てくれるようになった。しかし、なかなか他の先生が記事を書いてくれるようにはならない。中学校、高校の各学年に担当をおき、デジカメも渡して環境を整えたが、「操作がわからない」「何を書いていいかわからない」「日々の業務が忙して手が回らない」 ―そんな声が上がってくる。
そこで根気よく操作方法を説明し、「生徒のふだんの様子を書けばいい」と声をかけることで、次第に記事を書いてくれる先生が増えてきた。記事をアップすると生徒や保護者から記事に対して感想が返ってくる。ときには、対外試合で出会った他校の先生も「読んでますよ」と感想を述べてくれる。こうしたことが励みになって、今では多くの先生が記事を書いてくれるようになったという。
新しいことを定着させるためには、まずは核となる先生がいて動きださなければ始まらない。そして、その取り組みのよさを伝えて広げていくことが大切になる。大阪青凌中学高等学校では岡橋先生の頑張りでホームページが充実したが、そこでとどまらず、担当を増やし、会議や職員室での会話、いろいろな場でホームページのよさや反響を根気よく伝えたことが広がるきっかけになっている。この伝えようとする者に対し聞こうとする雰囲気があることが大切である。 |
◆生徒・保護者とのコミュニケーション
大阪青凌中学高等学校の強みは、ホームページによる発信だけでなくアナログによるコミュニケーションも大切にしている点にある。その一つが学級通信である。
「最初は一部の先生だけが出していたのですが、今では学校全体に広がっています。決まった形式があるわけではなく、子どもたちのよいところや活躍している様子、教師の学級への思いを担任の先生が個性豊かに発信してくれています」と、福力教頭は語る。
この個性あふれる学級通信は、子どもたちは当然のことながら、保護者も子どもの学校生活の様子がわかる大切な情報源として楽しみにしてくれているという。
「学級通信が親子の会話のネタとなっている家庭も多いようです。そこで、保護者に学級通信が確実に届くように、各担任が学級通信を発行すると緊急情報網のシステムを使って保護者の携帯に連絡がいくようにしています。これで子どもが渡し忘れても大丈夫です」
さらに中学校では「シャトル・ノート」呼ばれる保護者も巻き込んだ連絡帳も活用しているという。生徒が学習の内容や家庭学習の状況、生活の感想などを書く。保護者が気になることや家庭での様子を書く。それに対して担任がコメントを書く。三者がコミュニケーションを取り合う、中身の濃い連絡帳だ。
デジタルのよさとアナログのよさをうまく組み合わせながら、こうして保護者との接触の頻度を上げることで、学校への信頼を得ている。
子どもたちを育てる上で教師と保護者の連携は不可欠である。しかし、昔と違って今の教師は親から見て絶対の存在ではない。きちんと保護者と情報交換しておかなければ学校の意図は伝わらない。学級通信も連絡帳も有効なツールではあるが教師の負担は大きい。このような取り組みは管理職がお願いしたからといってもなかなか定着するものではない。よい取り組みだから自分もやってみようと自発的に取り組む先生が増えることで初めて学校全体の取り組みになっていく。大阪青凌中学高等学校では、学級通信は生徒だけでなく、全教員の手元に届くようになっている。教員一人ひとりの取り組みをオープンにすることが、広がるためには不可欠なのだ。 |
◆教員間のコミュニケーション
「Happy Homework」という課題がある。英語科のある先生が始めた課題プリントである。プリントに先生は○しかつけない。○をもらえなかったところは再度挑戦して、全問正解になると次のプリントをもらう。プリントが完成するたびにシールをもらい、それを集めることで自分の頑張りが見える仕組みだ。
「宿題なので生徒はちっともHappyではないはずなのですが、一生懸命に取り組んでいます。なかにはシールを貼らずにそのまま貯めている子がいる。どうして貼らないのと聞くと、後でまとめて貼るのが快感なんだそうです」と、福力教頭は目を細めた。子どもたちの積極的な姿を見て、今では英語科の先生全員が取り組んでいるという。
また、大阪青凌中学高等学校では毎学期、生徒による授業評価を行い、全員の結果を公開している。評価の低かった先生にとってこれほど厳しいことはない。福力教頭は言う。「当然、悩む先生もでてきます。授業を見せ合ったり、相談にのったりして、どうすれば授業がよくなるか互いに学び合い助け合っています」
しかしながら、学校を支えるこの教員間のコミュニケーションのよさは、自然発生的に生まれたものではなかった。7年ほど前、中学校の入学者が一ケタという状態が3年間続き、このままではいけないという危機感から、学校改革のプロジェクトが立ち上がったのだ。改善のための企画をメンバーで何度も何度も夜遅くまで話し合ったという。当時、他の教員たちにはまだそれほどの危機感はなかったが、プロジェクトのメンバーが現場に戻り、積極的に周りの教員と交流することで危機感を共有するこがとできるようになった。また、プロジェクトで考えた企画を一方的に押し付けるのではなく、まず自分たちがやって見せることを大切にした。実際に、そのよさを理解してもらうことで自然に周りに広がっていったのだ。こうした核となる教員の存在がコミュニケーションを活性化してくれたのだ。
教師間の関係は自然発生的にできるとは限らない。やはり意図した動きが大切である。福力教頭は日ごろから教員への声掛けをしたり、機会あるごとにコミュニケーションの場を設けたりしているそうだ。また、人事面でもムードメーカーとなる教員を意図的に各学年に配置している。管理職の雰囲気作り、コミュニケーションの活性化を意識して動いてくれる核となる教員の存在が必要なのだ。 |
◆選ばれる学校となるために
「在校生の保護者が本校の取り組みのよさを評価してくれるようになった」 |
入試説明会の内容を伺っていると、「教師に支えられて伸びる生徒」のイメージが伝わってくる。この学校の強みである、教師と子どものコミュニケーションのよさはどのような子どもに向いているのか意識されていると感じた。ターゲットとなる子ども像が明確だから募集もシャープになる。だからこそ取り組みの方向性もぶれないのだ。 |
(2010年11月22日)