★このコラムでは、教育コンサルタントの大西貞憲氏がユニークな取り組みで学校の活性化に成功している私立学校を取材し、その取り組みやノウハウを紹介しながら、学校を活性化させた原動力を明らかにします。
【第5回】大商学園高等学校
大商学園高等学校は、明治20年(1987年)の創立以来、123年になる伝統校である。教育方針として、自由の尊重、責任の完遂、人格の高揚を掲げる。生徒や教職員の区別なく全員が気持ちの良い挨拶をこころがけ、毎日の朝礼時に「静黙」という、そこにいるすべての人が目を閉じて静かに過ごす時間を設けるなど品格の育成を大切にしている。スポーツ、クラブ活動が盛んで、大阪でも珍しい女子サッカー部や全国レベルのバスケットボール部が有名である。 |
公立からの黒船 〜改革へのスタートダッシュ
「創立123年の学校ですが、学校の特色が出せていないと思いました。生徒による授業評価も想像以上に低かったですね」
2010年4月に大阪府立高校の校長から大商学園高等学校の副校長として赴任された奥野正己先生はこう語る。阪急宝塚沿線には大商学園と競合となる学校が少なく、尼崎、神戸などからのアクセスも便利なため、半数の生徒が兵庫県から通う。現在のところ生徒は集まっているが、この先私立高校をとりまく環境は厳しくなる一方である。 |
◆データに基づく対応
生徒の学力状況は中学校レベルの学習がしっかり身についていない者もかなりの数に上る。生徒の満足度調査もかなり低い。入学後学力が伸びている生徒も少ない。この状況を変えるために、授業改善に取り組むことになる。
保護者への授業公開も始まった。親の立場から見れば子どもの授業の様子を見たいのは当然である。今までやってこなかったとはいえ、その必要性を理解すれば先生方は協力的であった。もともと生徒指導や部活指導はしっかりやってくれている先生方である。理解していただければ、決して後ろ向きではないのだ。問題は具体的にどうするかである。学力面では、外部の学力試験で生徒の成績を1ランク上げるというように具体的な指標を明確に示す。そのために、どうするかは先生方に考えてほしい。
とはいえすぐに答えが見つかるわけはない。そこで、実際にいろいろな学校を視察して学んでもらう。同じ大阪の学校ではなかなか情報を教えてはもらえない。大阪府外の学校へ積極的に派遣をすることにした。
学校を取り巻く環境の変化は速い。時間をかけて徐々に変えていけばよいという発想では学校改革はうまくいかない。今ある問題を意識して素早く具体的な行動につなげる必要がある。とはいえ、先生方の意識を変えることは、簡単ではない。データをもとに現状を客観的にとらえることがその第一歩になる。大阪大商学園でも授業評価や満足度調査、外部の学力評価試験などさまざまなデータを活用している。また、先生方に要求するだけではなかなか具体的な動きにはつながらない。先生方に他の学校がどんな取り組みをしているかといった情報集めなど先生方の学びのためのバックアップも奥野先生は積極的におこなっている。 |
◆経験とやる気がかみ合う組織づくり
組織面でも弱さがあった。
「特別進学コースでは若手のやる気のある先生を担当にしていますが、成果が表れていませんでした。特別進学コースとしての明確な責任者も置いてなかったのです」
と奥野先生は言う。個々の担当者レベルで工夫しても、ベクトルがそろわなければその効果は限定的である。そこで奥野先生は、責任者を置くとともに特別進学コースの強化をはかった。全体の方向性を明確にして、コース、学年、教科そして各教員の個々の目標を設定する。特別進学コースだけでなく、学校全体に広げていった。
組織としての方向性を明確に示して、PDCAのサイクルをきちんと回してはじめて個々の活動の成果が表れる。幸い大商学園は教師の年齢構成が平準化されている。この強みを生かして、ベテラン・中堅の知恵と若手のエネルギーがうまくかみ合うような組織ができつつある。授業公開をし、教科で課題を検討することも始まる。チームとして指導に当たることが大切なのだ。 |
◆選ばれる学校になるために
大商学園の選ばれる学校になるための改革は始まったばかりである。普通科・商業科の各コースをどのようにしてより魅力的なものにするか。授業料無償化で、授業料免除の特待生制度の根幹が揺らいでいる中、全国レベルの部活動のレベルをどう維持するか。課題は山積している。しかし、先生方の変化は着実に生徒の変化へとつながっている。次年度以降も新たな試みがたくさんなされるであろう。それに伴い学校がどのように変化していくかが楽しみである。
(2011年2月28日)