★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第65回 】WALS2012シンガポール
今年もこの時期はWALS(世界授業研究学会)です。今回の開催地はシンガポールです。活気にあふれた上昇志向のこの国を訪れたのは、約10年ぶりです。相変わらず建設ラッシュで、目新しいビルや観光スポットが開発されています。
さて今回の発表は、研究仲間でのシンポジウム形式を取りました。地域としての小牧市の「学び合う学び」、その中の一学校として確立された授業研究方式、その中で成長した一教師としての学びという実践の継続をもとに、本来の知的な学びがどのように創造されていくかを解明しようとする、いわば大風呂敷を広げたシンポジウムです。総合取りまとめを桜台高校の水野正朗先生、地域としての取り組みを星城大の坂本篤史先生、学校での研究協議を私、そして教師としての学びをシンガポール日本人学校の杉山智哉先生という分担です。
例によって出発直前まで発表内容の見直しと英語への翻訳が続きました。帝京大のアラニ先生や愛知教育大の久野弘幸先生などにもお世話になりました。久野先生は当日、紹介や質疑の司会(兼通訳)をしていただき、お陰でとても助かりました(私たちの共通の弱点は英語ですから)。
シンポジウムは開会初日の最初のセッションということもあり、200人ほどの会場がほぼ満席になるという盛況で、少し緊張しました。発表する場所が想像以上に暗くて、原稿がよく見えず苦労するという一幕もありました。しかし、私たちのシンポジウムは非常に好評で、質疑が続き、終わってからもいろんな方から声をかけられました。日本でもこれまでになかったと思う内容ですので、当然だったのかも知れません。 |
シンガポールの先生方の参加も多かったこともあり、杉山先生への反応は特に目立っていました。他の3人が極力実践発表ではなく客観的な分析の立場からの発表だったということもありますが、シンガポールに在住する日本の若い教師が自らの教師としての歩みを語るのですから、興味をひかないはずがありません。WALSの会場と赴任地が重なるという因縁から、昨年に引き続いての発表となった杉山先生は一段と成長していて頼もしい限りでした。 |
最初のセッションで発表が終わったので、後はゆっくり発表を聞くことができました。日本も含め、東南アジアからの発表が多いのですが、授業研究の伝統がないところから新たに取り組み始めたインドネシア、ベトナム、フィリピンなどが日本的な授業研究を素直に導入しているのに対して、教員評価に結びついた1年間でこういう成果が出ましたという感じのシンガポールや中国に代表される授業研究の流れがあるように感じました。しかし総じて、国をあげてのトップダウンでの導入とグループを活用した協同的な学びや教師同士の学び合いの重視は共通しています。
LSLC(Lesson Study Learning Community)というような四文字熟語的な言葉がどんどん出てくると、授業研究はもっと地道なものだし、簡単にラーニング・コミュニティなぞできないぞと突っ込みを入れたくなります。しかし、私たちが外国の授業研究に違和感を抱くのは、柔道関係者が現在の国際柔道を見る立場と似ているのかもしれません。それに日本でも、個人や学校の評価と結びついたような授業研究や形だけのお座なりな授業研究が、相変わらず続いている地域や学校もあるはずです。
せっかくシンガポールに来たのですから、旅行気分も味わいたいところですが、出発直前まで発表準備に終われていたので(飛行機の中でも手直しが続いていました)、現地情報はゼロの状態でした。でも夕食を兼ねて、杉山先生の案内でホーカーセンター(小さな屋台の集まる飲食施設)のラオパサへ行ったり、ベイエリアに新たにできた大植物園施設ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(巨大温室だと思ったら冷房されていてビックリ)を見学したりすることはできました。
悩みは、この原稿も含め、締め切りの迫っている原稿を何本も抱えていることです。参加した仲間も同じ問題を抱えています。でも、仲間との夕食は楽しいので、つい飲んでしまって……。
(2012年12月3日)