★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第57回 】やっと『協同の学びをつくる』が完成
編集作業とはこんなに大変ことなのか、と驚くことばかりだった時期も過ぎ、『協同の学びをつくる−幼児教育から大学まで−』(三恵社、税込1890円)がとうとう印刷にまわりました。著者には現物が届きましたが、正式な販売開始は8月20日からです。アマゾンや書店では、予約受付が始まっています。
今回の本の特徴は、まず共著者にあります。幼児教育から小学校、中学校、高等学校、大学での教育実践と研究の両方に経験と実績のある(私を除いて、と書きたくなりますが)者たちが毎月のように集まって、授業ビデオなどをもとに意見を交わし合ってきた研究会のメンバーです。その中で、「それぞれの校種には参考になる書籍はあるけど、全体を通したものはないよね」「例えば中学校で実践している先生でも、この学びが小学校や高等学校での学びとどうつながるのか、よくわかってない人もいるんじゃないかな」「グループとコの字を使えば協同の学びを実践したことになると思っている人もいるよね」「どうせなら、幼稚園や保育所での実践や、その持つ意味も知りたいね」「大学の先生たちは、自分の授業をどうしているか語ることが少ないような気がする」「実践は実践、理論は理論という本じゃなくて、両方がどうつながるのかを示すことも大切じゃないのかなあ」などという議論が出されました。その結果生まれたのが、この本です。
序章では、「しょせん勉強なんて個人のものだ」という人に、「協同こそ今求められている学びなのです」と説きます。1章から5章までは、幼児教育から小中高大での実践をいろいろな角度から紹介します。ここでは、それぞれの校種の先生方にとっても、もちろん学生にとっても、新鮮な発見があるはずです。6章では授業研究会を通しての教師同士の学び合い、7章では学校を超えて地域での協同の学び(『「学び合う学び」と学校づくり』の背景がわかります)を扱います。そして、8章で協同の学びを実践する意味を、9章で実践に参考になるさまざまな理論をまとめてあります。終章は、いわば各章の解題です。私は3章と7章を分担していますが、この本の特徴は分担者にお任せではなく、他の執筆者も提出された原稿にどんどん注文をつけて、最初の原稿とは大きく変更されたものになっているということです。いつも集まっている研究会の仲間だから、ここまで互いに口を出し合えたのです。せっかくなら、誰にとっても読みやすく、参考になるものとしたいという願いが共通していたから、とも言えます。
と書くと、いかにも順調に進んだように思われるかもしれませんが、印刷にかかる前日にある節を差し替えるなど、ハプニングには事欠きませんでした。編集作業を担当していた私には、現役の学校や教育委員会時代を思い出すようなひとときでした。予期せぬ事態が起こったときほど、すぐに対応の方向を見通し、後悔や反省や愚痴に時間を費やすよりも今できることに集中する、という現場ならではの対応です。
校正ひとつとっても、本当にむつかしいものです。明らかな間違いだけは根絶しようと思っていたのですが、見返すたびに見つかり、これまで何を見ていたのかと反省することばかりでした。校正では文章を読んではいけない、とよく言われますが、つい文章に引き込まれてしまう魅力があったのだと自分を慰めるしかありません。印刷にかかってホット一息ですが、それからも細かなミスは(読者とは直接関係のないところで)いくつも発見されました。
この本の編集方針の特徴の一つに、「協同の学び」を大切にすると同時に、セクト争いのようなことはしない、ということがあげられます。Collaborative learningか cooperative learningかというようなことについて、各執筆者にはそれぞれの考えもありますが、あえてその区別を強調するのではなく、「協同の学び」の重要性を一人でも多くの方に実感してもらうことの方を大切にしたということです。この結果、書名まで「協同的な学びをつくる」から「協同の学びをつくる」に変更するような事態さえ起こりました。狭く捉えれば主張は鮮明になりますが、仲間内の議論に陥る危険性もあります。いつもそのあたりを議論していて、共通の認識を抱いていた研究会仲間だからこそ、その種の議論を避けて本当に必要な方向性を示すことができたのではないかと考えています。
章ごとのまとめや参考文献や索引もつけて、読みやすく発展的に学ぶ手引きにもなるようにも意図しています。協同の学びに興味を持つ現場の先生や学生、研究者や教育行政担当者の皆さん方に、一人でも多く手に取っていただければ幸いです。
(2012年8月6日)