★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第45回 】草津高校の公開授業研究会に参加
高等学校でも熱心に協同的な学びに取り組んでいる学校が、全国には十数校あります(来年度から始める予定の学校も、かなりあると聞いています)。その中の一つが滋賀県立草津高等学校です。その学校の授業研究に、2週連続で参加することができました。1月26日(木)が公開授業研究会だったのですが、その1週間前にも当日研究授業をする若い中野先生をはじめ、社会科の先生方全員の授業を見せていただき、その後社会科部会での協議に参加しました。
授業研究そのものの習慣がない高校も少なくないなか、公開研の前の週にも講師を呼んで学ぶ姿に、校長先生をはじめ先生方の本気度がうかがえます。コの字とグループの定着した教室は、柔らかい雰囲気に包まれていました。ほとんどの先生が授業プリントを作成し、基礎知識の定着と学び合いの両立を意図していることが伝わってくる授業でした。ただ、プリントは重要語句の穴埋めが多く、本格的な学び合いに進む助けとしては少々苦しいと思われる内容でした。
中野先生の授業では、そのプリントが3,4人の生徒グループによる自作というところに特徴があります。しかし、内容は基本的に穴埋め問題で、授業プリントはこういうものだという思い込みが生徒にもあることがわかります。それでも、誰も学びから逃げずに、教科書や資料集から読み取ろうとしていました。授業の後半に各グループから出た考えを先生がうまくまとめ、授業が終わりました。
授業後の話し合いの後に、授業プリントのあり方について、お話しさせていただきました。基本事項の理解定着をめざすことは当然で、よく理解できるが、それに終始することでかえって学びを浅いものにして、知識の定着の面でも効果を発揮してないのではないだろうか。プリントの内容をこんなふうに変えてみると、後半の質の高い学び合いにつながりやすくなるはずだ、といった内容です。
1週間後、今度は前日の夜から、同じく助言者の和井田先生と授業者の中野先生や研修部の先生方と、翌日の授業の検討会を行いました。和井田先生とは毎月のように研究会でお会いしますが、学校で同席するのは初めてです。高等学校経験の少ない私としては、和井田先生がどのように指導されるかにも興味がありました。
さて、前日の指導は予想もしなかったほど具体的なもので、プリントや授業展開までもどんどん変更を求めるというものでした。事前にここまで言ったら、きっと小中学校なら険悪な雰囲気になるだろうと思うほどでした。若い先生でしたし、やったことのない展開でどうなるのか予想もつかないという面もあったのでしょう。しかし私には、それよりも具体的に授業を検討する経験の少ない高等学校の現実があるように感じられました。
実は公開授業研究会当日にも、プリントの作り直しが続き、授業を迎えることになりました。その1年生地理の授業は予想を超えるものでした。あれだけ真剣に高校生が授業に集中できるのだ、と感動を覚えるほどでした。グループでの学びの後、授業後半にはコの字でのしっかりとした意見交換までありました。それもプリントに書いたものを読み上げるのではなく、それをもとにしながらも、グループでの意見や他の生徒の意見を聞いたうえで考えた発言がなされました。
研究授業はよそ行きのその場限りの見せかけ授業で意味がない、という意見があります。事実そのような研究授業が少なくない、という現実もあります。しかし一方で、研究授業を契機に教師も子どもたちも、明らかに次の段階に進んだと実感できる授業も少なくありません。中野先生の授業は、まさにそういう授業でした。先生も生徒も、もう以前の授業では満足できないはずです。ここまで授業前に指摘するのかと驚いた具体的な指導も、授業では有効に機能していました。また、中野先生独自の試みも加えられていました。
個人的には、高等学校での助言のあり方を学んだことと同時に、先生方の「生徒が○○して、くらはります」「言わはる」という言い方が印象的でした。方言というか、滋賀県独特の話し方かもしれませんが、柔らかい言葉遣いに、教師の教え込みに飽きたらず生徒の学びに向かい合おうとする先生方の気持ちがにじみ出ていると感じました。
(2012年2月6日)