★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第44回 】新年早々スーパーバイザーの会
新年早々、伊豆で研究会に参加してきました。学びの共同体冬季研究会と引き続き行われたスーパーバイザーの会です。学びの共同体研究会やその前のアクションリサーチ研究会には何度も参加してきました。しかし、スーパーバイザーの会への参加は、今回が初めてです。何か違う捉え方や印象を受けるのかどうか、個人的には興味もありました。
学び合いに本気になって取り組んだ学校の変化は目を見張るものがあります(逆に本気とは言えず、入口で議論している学校も少なくありません)が、その変化が見られた後の、次の質的な向上をめざす段階への変化は容易なことではありません。これを克服するにはどうしたら良いかは、私自身の現在の最も大きな課題となっています。
そんな問題意識を持ちながらの参加でしたが、今回の研究会は私には収穫の多いものでした。初日の全体会は、協同的な学びでいつも問題になる英語の授業について、ビデオを見ながらの検討から始まりました。提案者は熊谷市大幡中の根岸恒雄先生。『楽しく英語力を高める“あの手この手”』『世界が見える“英語楽習”』(共に三友社出版)などの著者でもあります。
学力差の大きい英語でもグループ学習ができるための仕かけ(ビンゴで表現を学ぶ、作成メモを日本語→英語で書く)が、具体的に紹介されていました。質の高い教材を見つけ(『英語授業をおいしくするレシピと教材』を紹介)、協同的な学びに結びつけるように再調理するところがミソのようです。協同学習的な要素もありますが、子どもたちの雰囲気は学びの共同体らしさが出ていました。
続いて今回の目玉、アメリカからお迎えしたデボラ・マイヤー先生。『学校を変える力』(北田佳子訳、岩波書店)で知られる、ニューヨークの困難地区イースト・ハーレムでトップレベルの学校を創り上げた方です。佐藤学先生が学びの共同体の学校づくりの着想を得たと語る学校です。80を超えるご高齢ですが、ずっと立ってお話しされました。
印象に残ったことは、2点あります。一つはシカゴ大学の歴史学修士ではあったものの、教育への関わりは家計の足しにと公立学校の非常勤講師や幼稚園のパートから始まったということです。すばらしい高等学校を創り上げた方が、初めから教育の専門家だったわけではないということです。もちろん、最初の頃から独創的な指導で教育委員会から注意というか叱責を受けたそうですが。
もう一つは、他者、特に意見の異なる他者への尊敬を強調されていたことです。「自分が間違っている可能性もある、と考えられる人が教養ある人である」と力説されていました。これがアメリカでも直面している民主主義の危機を救うものだとのお話は、日本にも通じるものです。同僚性に関してだけではなく、保護者や地域との関係においても基本となるスタンスだと思います。
さて2日目午前の分科会は、授業ビデオと研修運営つまり学校としての取り組みを組み合わせたもので、授業の評価に終わらない、ビデオから見られる具体的な子どもの学びを話し合う「学びの共同体研究会」らしい授業の見方が話し合われました。どの分科会も充実していて、私自身は無作法にも小学校と高等学校の2つの分科会を掛け持ちしてしまいました。
さて、これまでは午後の全体会を終えるとおしまいでしたが、今年はこの後会場を変えてスーパーバイザーの会にも参加です。こちらは少人数の会で、いわば内輪の会です。会自体の組織の問題に加えて、各地の状況や取り組んでいる学校の話題が飛び交いました。自分自身が関わっているのはほんの一部ですから、なるほどと感じたり、この違いはどこから来ているのかと考えこんだりしました。
最近の傾向で感じたことは、市町村単位での首長や教育委員会からのトップダウンの動きが非常な勢いで広がっていることです(逆に都道府県単位では正反対の動きもあるようですが)。これについては、様々な意見が出されました。私自身も小牧市の例を話しましたが、あくまでも学校の主体性が基本だというスタンスで取り組んだということを強調しました。このトップダウンによる導入の傾向は、アジア諸国でも同じ傾向です。これをボトムアップとどうつなげるかは大きな課題です。
スーパーバイザーはどういう存在なのかについては、私自身よく知らない面もあったのですが、授業実践が優れているとか、教師として力量がある人という条件ではなく、学校の改革に寄与できる人が条件だとわかりました。学びの共同体による学校づくりの経験者を優先するのはそのためです。もちろん、学校づくりに寄与できる研究者などもスーパーバイザーの条件を満たしているわけで、今回何人かの若手の研究者も加わりました。今後私がどう貢献できるのか不安な面もありますが、自分自身がもっと成長することが大事だと考えています。
(2012年1月23日)