愛される学校づくり研究会

黙さず語らん

★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。

【 第4回 】4月から研究授業

まだ年度初めといえなくもない4月に、2つの学校で授業研究に参加しました。私がお邪魔した学校のほかにも、多くの学校が年度初めだからこそ4月から授業研究を始めています。どの学校でも異動で新しい先生方を迎えています。世代交代が進む時代だからこそ、年度初めの大切さを痛感しているのでしょう。

 しっかりした実践を続けている学校ほど、新たに加わった先生にとっては大変です。年度末に2人の先生に、授業についてインタビューをさせていただきました。長い間、多くの先生方と接してきましたが、授業についての考え方を一対一(実際にはもう一人共同研究者が一緒でしたから、実際には二対一)で聞いたのは、初めての経験でした。
 その学校で1年目の先生は、4月に同僚の授業を見たときに「授業のスタイルが180度違って、もうあいた口がふさがらなかった」と語りました。「今まで私は○年間、何をしてきたんだろう」と衝撃を受けたそうです。以前からいる先生は、何年もかかって、この授業スタイルを身につけ、自分のものとしています。でも、新たな先生が戸惑っていることへの感覚は、前からいる先生にとってどうしても薄れがちです。
 実は経験の長い先生ほど、新しい環境への適応に時間がかかる側面があります。特に今までの授業観を変えなくてはならない場合には、なおさらです。先生自身が年度初めの研究授業の難しさをよく知っているだけに、学級をつくることと並行して子どもたちが学ぶ授業を目の当たりにしたときの驚きは想像がつきます。自分のクラスを思い合わせながら授業を見ているのですから。

 年度最初の研究協議会では、そのぎこちなさが私には興味をそそられます。何が語られるか(語られないか)で、学校や一人ひとりの先生の授業に対する考え方が明らかになります。年度初めで、いわば楽屋裏が見える状態だからこそ、授業で何を見たのかが問われることになります。
 そういえばインタビューをしたもう一人のベテランの先生は、「この学校は一人ひとりの先生の教材観みたいなものが生かされているので、どんな授業になっても研究協議の後、(前の学校と違って)嫌な思いをしない」と語っていました。「子どもたちの学びの様子を中心に話し合うので、自分自身反省することはいっぱいあるけど、落ち込むことはなくなった」と。
 「本当に大変だけど、やっぱり全員の研究授業は続けた方がいい」と、お二人とも語るところに、授業後の研究協議会を含めて、年間を通して全員が研究授業に取り組むことによって成果を上げている学校の秘訣があるようです。
 参加させていただいた私の立場からは、新しくメンバー入りした先生方が何を語り、何を学ぶかに注目していました。授業を見せてもらっておきながら何も語らないという、失礼な態度をとる方はさすがにいません。単なる印象を語るとか、授業者に無難な質問をする方もいましたが、それは他の先生方の話し合いを学ぶことによって変化していくことでしょう。
 そういえば、インタビューをした若い方の先生は、「授業者に対してこうじゃないかとか、質問だとか、ピンポンのような前の学校の研究協議が嫌だったので、参観者同士が子どもの様子を見て話し合うこの学校のやり方は嬉しかった」と語っていました。
 初回だからこそという発言もありました。「この学校の授業はパターン化されているが、前の学校のものと違うので」というものです。これはずいぶん大事な視点です。この学校では、先生が正解を教えて(子どもに正解を言わせるのも同じです)授業が成立したとみなす授業ではなく、一人ひとりの子どもたちが学ぶ(そのための手段として学び合う)授業をめざすために、一般的とは言えない(が、自然な子どもたちにとっては自然な)学び合いを取り入れます。
 これをパターン化と呼んだのでしょう。しかし、よく考えてみれば、また、それぞれの先生の授業を見ると、意識はしていないのでしょうが、みな授業のパターンがあります。インタビューしたベテランの先生は、「型から入ったけれど、型にはめなくても聴き合えるようになった」「今から思えば以前は、一人ひとりの子どもの声を良い答え悪い答えって振り分けていたなっていうのが感想ですね」と語られました。

 この後、この学校では研究協議会でどんなことが話し合われるのか、本当に楽しみです。さて次回は、本の紹介でもしてみようかと考えています。

(2010年5月17日)

副島 孝

●副島 孝
(そえじま・たかし)

1969年から教員生活をスタート。小学校教諭11年、中学校教諭(社会科)10年、小牧市教育委員会指導主事、小学校の教頭校長や愛知県教育委員会勤務を経て、小牧市教育委員会の教育長を2001年から2009年まで8年9か月務めた。小牧市教育委員会のホ−ムページで「教育委員だより」、郷土文芸誌「駒来」に「乱読日録」を連載するなど、原稿に追われる毎日であった。2009年4月からは名古屋大学教育学部大学院で、教育方法学を学んでいる。授業実践と研究の両方の楽しさ厳しさを知る立場から、学校の現職教育などに貢献したいと考えている。