★このコラムは、「小牧市教育委員だより」での副島孝先生(前小牧市教育長)の発信を楽しみにしておられた皆さんからの要望で実現しました。「これまでのように学校教育や現場への思いを語り続けてください」という願いをこめて「黙さず語らん」というタイトルにしました。
【 第37回 】本づくりの苦労と楽しみ
私も一応著書を持っていることになっていますが、実際には玉置先生に編集をやっていただき、自分では指示されるままに原稿を書いたら本になったというに過ぎません。これまでにも編集の手伝いをしたことはありますが、はじめからほぼ構成が決まっているような本の経験しかありません。実は現在、月に一度名古屋で集まっている研究仲間と、本の出版に向けて編集や執筆の作業が進行中です。
ところで、私たちが感じている以上に現在の出版事情、特に教育書の出版は深刻なようです。もちろんよく売れているものもあるのですが、それはほんの一部でしかないようです。教師を読者とする月刊誌も、実際には自費出版のような状況が多いとも聞きます。これほど教育書が売れないということ自体、それはそれで問題ですが、今回はその中でも出版予定のある企画です。
10人ほどの仲間での執筆となりますが、これはこれで問題が多いのです。単なる論文集なら簡単でしょうが、それでは本としては魅力に欠け、出版は見込めないとのことです。1冊の本としてまとまりのある、しかも広く読者の見込める本にしてほしいとの条件です。出版社としては、当然の姿勢でしょう。
肝心の本の中身は、「協同的な学び」について理論的な背景から実践まで、大学生から幼保小中高の保育者や先生方、それに研究者までを読者対象としようという野心的?なものです。実践編に関しては、幼児教育(幼稚園・保育所)、小学校、中学校、高等学校、大学までの授業実践と、授業実施への助言が網羅されています。これ1冊を読めば、「協同的な学び」を実践してみようという気持ちになることをねらう大風呂敷を広げています。
私は中学校が執筆担当ですが、小学校と同様に、主として学校ぐるみでの実践のノウハウを書きます。高校や大学に関しては、個人としての実践をメインに具体例があげられています。つまり、「協同的な学び」に関心を持つ読者の、どんな状況にも対応できる内容なのです。また、幼児教育で「協同性」が一つの柱となっていることを、実践とあわせて解説されることも、学校教育関係者には新鮮な発見となるのではないでしょうか。
編集方針や構成、ページ割案の検討などが終わり、現在は粗原稿の執筆や読み合わせの段階です。自分自身の原稿に対する意見も参考になりますが、自分には無かった新たな知見に接することが、苦労よりは楽しみとなっています。編集作業はそっちのけで、授業に関する議論になることも少なくありません。と言うより、すぐに議論になると言った方が正確です。
例えば、私自身は学校ぐるみの実践を中心に取り組んできたので、その点に関しては長所も短所もわかっているつもりです。しかし、個人で実践している先生の実際の授業での配慮については、詳しいわけではありません。まして、「協同的な学び」に関心を持ち、それなりに学習しながら、実践へのあと一歩を踏み出せない先生の理由については、本当のところは理解できていなかったのだなと思わされます(と言うことは、そういうやりたいが躊躇している先生方のへのアドバイスも記述されている、ということです)。
研究仲間とは、これまでも月1回集まり、授業ビデオや授業記録を見ながら議論してきましたが、本を出版するということで、これまでは触れてこなかったような議論が展開されるようになってきました。事実に基づいて議論すると言いながら、現実にはその点をかなり曖昧にしていたのだなと反省させられました。
また、理論的な面でも、これまで仲間内で当然のようにわかり合っていたことも、文章という形で示すには細部に至るまで検討が必要です。こういう検討や確認ができることが、個人ではなく仲間で本の出版をするメリットだと痛感しています。3月の出版を予定していますが、いずれもう少し詳しくお知らせできるのではないかと、私自身が期待しています。
(2011年10月3日)